おっさんずラブが好き!

ドラマ「おっさんずラブ」の細かすぎるレビューブログ。OLの深い沼にハマって当分正気に戻れません。ほぼおっさんずラブの話題しかないかもしれない。ネタはバレまくりなのでご注意を。

祝・「十二国記」続編発表!

 2018年の暮れ、「おっさんずラブ」映画化と同じくらい嬉しかったニュースが、

十二国記続編発表決定」だった。

 戴国の王と泰麒が一体どうなったのか、気になって気になって、この結末を知るまでは死ねん…!と思っていた作品だったからだ。

 ネットが一時騒然として歓喜に沸いていましたが、私も「やっと…!」と涙にむせんだ一人でございました。



十二国記」は、私にとって思い出深いシリーズのひとつだ。

 刊行されていたホワイトハートは、BLも多く手掛けていて、ライトノベルの位置づけだった。当時、ライトノベルとそうでない「小説」との間にはハッキリとした格差があって、ライトノベルは「漫画の延長」みたいな扱いだったのですね。実際、熟さない文章を書く書き手が多かった。読み手が若いということで、編集部も読者をなめてるのかな、と思うことも多々あった。だもんで、たまに手に取ってみることはあっても、鑑賞に耐える作品はほとんどなかったのだ。

 その中で「十二国記」は違った。出だしの文章からしてもう、これまで見てきたライトノベルにはない手触り。独特の世界観を無駄なく伝える迫力のある文章。地の文は漢語が多く、ごつごつしてどちらかと言うと男性的な印象なのに、台詞はラノベらしくくだけた口語で、しかしそれが違和感なく、ひとつの世界を形作っていた。

 ぐいぐい引き込まれて、あっと言う間に当時出ていたシリーズすべてを読破してしまった。



 平凡な一人の女子高生のもとに、ある日突然異世界から使者が現れて、「あなたが王だ」と告げ、膝を折り、深く叩頭するところから十二国記は始まる。使者は十二国の世界で「麒麟」と呼ばれる存在で、まあ当たり前だけど超絶美形な男性です。

 平凡な女の子がある日突然……というのは、実にしばしば用いられる王道パターンだけど、本作のヒロイン陽子は、突然連れていかれた異国で、想像を絶する辛酸をなめることになる。王であることも頑なに否定するんだけど、元の世界でずっと感じていた違和感や居心地の悪さが、「生まれるはずだった世界と違ったから」であることを、徐々に受け入れていく。それだけでなく、「ただ嫌われたくなくて、周りに妥協して、薄っぺらな人間関係しか築いてこれなかった」自分にも原因があったのだ、と深く得心していく。

 そうやって、外の環境とも、自分の中にあるものとも、真摯に向き合って闘って、陽子は王である資質を磨いていく。

 結果、周囲からの信頼を勝ち取り、異世界の……もとい、本来生まれるはずだった場所で、王となる。



 この独特の世界観が何とも魅力的なんですよね。人も動物も、母親から生まれず、木に成った卵(=卵果)から孵るのだ。

 あーそれはいい、ということは、かの国の女子には生理がないわけですね? 羨ましい。産みの苦しみがないのも女性に優しい。

 となると、男女が夫婦になる意味は……夜の営みはあるらしいが、そもそも二つの性がある理由とはつまり有性生殖が……とつきつめるとアレなので、その辺はふわっと置いとくとして。

 この世界の理は天帝が決める。天意を体現する麒麟によって王が選ばれ、王や麒麟その他仙籍に入ったものはもう年を取らない。

 ならば王は永遠に王の座にあるのかと言えば、王が道を誤り民を不幸に陥れるようなことがあれば、慈愛の生き物である麒麟が「失道」の病にかかる。王を選んだ麒麟が死ねば王もまた死ぬ。

 陽子の存在を脅威と感じた隣国の塙王は、実際失道し、塙麟と共に命を失う。



 こういう、現実世界と違う理屈で動いているファンタジー世界は、それだけでも惹かれるけれど、十二国の住人たちは、それぞれが自分の運命と向き合って、ひたむきに生きている様子がとてもいいんです。

 王が国を治め、仙人になれば不老不死を手に入れられるけど、国が傾けば妖魔が出るし、闘いも諍いもあり、理不尽に人が死んでいく世界でもある。

 ときに過酷な運命を受け入れて、自分がどう生きるべきか、問い続けながら必死で生きようとするのが、この魅力的な設定とあいまって、多くの人に支持される理由じゃないかと思う。

 私がライトノベルをちゃんと読んだ多分初めての作品でもあるし、ライトノベルと小説との垣根を取っ払って、異例の読者を獲得した作品でもあると思う。

 後に講談社の普通の文庫として出版され、今は新潮社から出ているけど、私は最初のホワイトハートのイラスト付きが好きだなあ。



 シリーズはどれも全部面白いけど、「図南の翼」はとりわけよく読み返すかもしれない。シリーズの初めでは堂々たる女王ぶりを見せていた恭国の珠晶が登極するまでの物語。12歳の少女が、「昇山する」と腹を括り、周りを巻き込んで見事王になるんだけども、賢くて生意気で健気で、なんともあっぱれなんですよ。

 珠晶だけでなく、このシリーズに出てくる女性は、肚が据わっていて、胆力のある人が多いような気がする。

 戴国の将軍・李斎もかっこよくて好き。



 このシリーズの愛読者なら誰しも、

「で、戴と泰麒はこのあとどうなるの…?」

と祈るような思いで待ちわびていた続編が遂に出るとな。

 よかった……本当によかった……未完のまま終わりそうな有名大作が色々あるからさ……

 長編小説が書けるまで小野先生の体調が回復したことも喜ばしい。

 

 

 拙い文章ではありますが、ここまでお読みいただき、少しでも気になったアナタ。

 是非読んでみてください。めちゃめちゃ面白いです。今読んでも、設定にまったく古さを感じないと思う。

 

 

 こういう優れたフィクションは、人に生きる勇気や希望をもたらしてくれるし、読んだ後もずーっと心に残っていて、折に触れ元気づけてくれる。

 衣食住ほど人の生活に直接の関わりはないかもしれないけど、でも、やっぱり人生には必要なものだ。こういう宝物が心の引き出しに多くあればあるほど、その人の人生は豊かに彩られると私は思っている。

おっさんずラブ」も、「十二国記」も、私にとってはそういう宝物のひとつです。

 

 十二国記は、NHKのアニメも素晴らしくよく出来ていたんですよね。再現率が高く、私は特に陽子の凛々しい声と、泰麒の幼いあどけない声が好きでした。どのキャラもぴったりでしたな。

 あれも続編作ってくれないかな。