おっさんずラブが好き!

ドラマ「おっさんずラブ」の細かすぎるレビューブログ。OLの深い沼にハマって当分正気に戻れません。ほぼおっさんずラブの話題しかないかもしれない。ネタはバレまくりなのでご注意を。

12人の死にたい子供たち

 私の一番の趣味は子供の頃から読書だった。

「趣味は?」

と聞かれて、特にこれと言ってないけど…まあ読書とでもしておくかな、という温度感の「趣味:読書」ではない。

 物心ついたときには、毎週日曜日の図書館通いが習慣だった。いろーんな本を夢中で読み漁ったものです。受験生のときも本を読むペースは衰えなかった。

 いわゆる「本の虫」というやつですね。ともかく字を読んでいるのが幸せな人種。

 ですが、今同じように本の虫かと問われれば、そうとは言えない。10年前と比べると、1か月に読む本の冊数はめっきり減った。

 だから「読書だった」と過去形。

 

 それが、眠っていた本の虫が久々に起きたのだった。

 冲方丁「12人の死にたい子供たち」を読んだせい。

 映画化のニュースでタイトルは知っていた。バトル・ロワイヤルとかそっち系かな、と漠然と思っていた。特に読んでみる予定はなかった。

 ひょんなことから手に入ったのだけど、著者が冲方丁と知って、(これは、読まねば)と言う気になった。

天地明察」が非常に面白く、私にとってはお気に入りの作家だったからだ。

 少々グロい描写があったとしても、きっと面白いだろうと信頼して手に取った。

 

 今日の昼から読み始めて、さっき読了。

 結論。

 

 めちゃめちゃ面白かった!!!

 

 なにこれ久々のヒット!!!

 

 布団の中で(布団にくるまってミノムシみたいになって読んでた)「きゃ~~~」とジタバタしたくらい面白かった!

 

 元々ミステリが好きなんです。エラリー・クイーンとかコナン・ドイルとかルブランとか乱歩とか正史とか、割となんでもイケる口。でもやっぱり、一番はアガサ・クリスティかな。人間の心理を鋭く突いた問題作は他の追随を許さない。「オリエント急行殺人事件」は何度読んでも面白い。

 CIAとかFBIとか絡んでくるスパイものも好きなんだけど、前深夜やってた「レッド・オクトーバーを追え!」の映画もよかったですね。何がいいかって、潜水艦という密室に閉ざされた中、主人公ライアンがひたすら知力を絞り、見事な推理力でソ連の原潜の真の目的を当て、的確な判断力で不可能と思われたミッションを完遂するところだ。

 映画の感想には「舞台がずーっと潜水艦の中で、動きがなくてつまらなかった」というものもあったけど、いやいや、この作品の味わいはそこなんですよ。密室での頭脳戦が外の世界の現実を変えていくところがスリリングなのだ。

 安楽椅子探偵ものが好きな人には楽しめると思う。

 

 本作もそう。舞台は、誰もいなくなったかつての病院。登場人物は全員そこへ入っていった後、ラストまで一歩も出ない。

 生命が生まれる場所だった産婦人科の病院に、安楽死するという目的を抱いて子供たちが次々と集まるというのも、なんともスパイスが効いている。

 死にたい子供をサイトで募り、サイト管理者が「集い」に参加するのを許可したのは12人。

 ところが、いざ集まってみると、13人目がいた。しかも、いち早く目的を決行してしまったようで、用意されたベッドの上に冷たい身体を横たえている。

 13人目は誰か、どうやって来たのか、招かれざる客なのか許可された参加者なのか。集まった子供たちは一様に動揺し、「決行」の前に話し合いを行うことになる。

 

(そうか、それで12人か!)とこの辺で得心したのは、映画史上に輝く名作「12人の怒れる男」を思い出したからだ。タイトルで気づくべきでしたね。

 予定外の13人目がいるのは、別ジャンルの名作「11人いる!」を彷彿とさせるけれども、今作では13人目は話し合いに加わることはないので、議論は12人で行われることになる。

 

12人の怒れる男」は、真っ向から対立する意見を、根気強く議論を重ねて、難しい裁判の評決をどうするか皆で考えていく、優れたリーガル・ドラマだ。

 地味で地道な話し合いによって、陪審員1人1人の意見が揺らぎ、最初疑義のさしはさみようがないと思われた「真実」もまた、刻々と姿を変えていく。その過程がスリリングで、手に汗を握る心理ミステリともなっている。

 ラストのどんでん返しと、全員が納得する評決がもたらす爽快感はなんとも言えない。

 

 そのオマージュともいうべき本作も、骨太でしっかりした構成で成り立った、良質のミステリと言える。

 14歳から18歳くらいかな? 登場人物は皆少年少女なんだけど、丁々発止のやり取りは素晴らしく読みごたえがある。

 12人という人数がいいよね。人間のパターンのサンプル数としてちょうどいいと思う。

 頭脳明晰だけれど共感力に薄く、議論を先導しているようで支配しきれていない者。

 観察力に長け、議論を導き、真実にたどり着く能力をいかんなく発揮する者。

 自分が矢面に立たないよう、誰にひよるのかを常に探り、スケープゴートを見定めたら容赦なく攻撃を加える者。

 息を潜めてひたすら空気と化し、ただただ時間が過ぎていくのを待つ者。

 こうした個性を持つ12人が、ひたすら話し合い、都度決を取り、議論の末、思ってもみなかった方向へ進んでいく。

 13人目の謎が解かれていくのと同時に、それぞれが抱える事情も少しずつ明かされる。

 

 結末が見えてきて、ああ、この結論を選んだのか、と納得した次にくるどんでん返しのタイミングのうまさよ…!

(くーっ、そう来たか!)

 と、予想外の方向から弾が飛んできて、私は完全に撃ちぬかれました。

 でもいいんです。この弾は被弾して構わない。

(や ら れ た ー!!)

 これこれ、この感じ。これこそがミステリを読む醍醐味。

 

 ミステリが好きな人、特に密室の頭脳戦を好む人にはおススメですよ。

 自殺なんてとんでもない! もってのほかだ!という考えをお持ちの方には、合わないかもしれません。勿論、現実には、私は否定派です。だけども、その願望を持つこと自体がいけないことであり、許容できないとまでは思わない。そこに至るまでの過程があっての目的なわけだから。

 だから、最初は、ここに集まった12人が、等しく抱いていた目的を無事完遂出来るといいなあ、と応援する気持ちで読んでました。

 その読み方で、差支えなかったです。

 

 いやー、冲方丁、読んでハズレなしだわ。近年珍しく一気読みしちゃった。

 ここまで読んで、ストーリーはなんのこっちゃ分からんと思いますが、(なんか面白そうかも?)と思ってもらえたら、是非!! 手に取ってみてください!!

 映画作品はどうだか分からないけど、小説は★5つで!