さて、ドラマのラストで永遠の愛を誓ったかと思われた春田と牧のカップル、劇場版の中盤にして別れの道を選んでしまうのですが、この展開、ちょっとスレたことを言っちゃうと、ラブストーリーの王道だ。
ラブストーリーであるからには、その愛が本物かどうか、試されなければならないからだ。
どうやって試されるかと言えば、大体以下の通り。
①どちらかが海外(大抵地球の向こう側)に行く
②どちらかが難病(完治の難しい病気)におかされる
③どちらかが他の人と結婚
④どちらかが遭難(事故とか行方不明とか)
⑤実は結ばれない運命だと判明する(血が繋がってるか敵同士)
古今東西、およそ「恋愛」を扱った物語は、最終回前におおかた①~④のどれかのイベントを経て、
「やっぱり俺にはお前だけだー!!」
てなって、めでたしめでたし、で終わる。
⑤はちょっと変化球で、ラブストーリーというよりはどちらかというとメロドラマになっちゃうと思うので、ここでは除外(その昔「華の嵐」とかありましたね…高木美保のお嬢様可愛かったなあ…)。
いずれにしても、
「相手を失うかもしれない」
という危機感が、見栄やプライドやつまらない嫉妬なんかをそぎ落として、真実相手を欲していることを悟らせるわけですね。
その結果、海外について行くことを選択したり、余命いくばくもなくとも一緒にいる道を選んだり、結婚式に乱入して奪還したり、わが身の危険を顧みず相手を救出に向かったりするわけです。
で、我らが「おっさんずラブ」制作チームが選んだのが、
④春田が敵企業に拉致監禁される ⇒牧が救出に向かう
というイベントだ。
シナリオブックのスペシャルインタビューによれば、ここはもう、
「せっかく映画なんだから爆破させよう!!」
という目論見が先にあったんだな。おっさんずチームに。
①で書いたように、これは分かる。
「映画と言えば、爆破で爆発でカーチェイス!!」
みたいなとこある。それに拉致監禁もついてればパーフェクト。
おっさんずチームらしい遊び心が炸裂したのが、後半の倉庫の部分だと思う。
同時に、ここが多分、賛否の分かれ目なんじゃなかろうか。
「期待してたのと違う…」
みたいな感想、いくつか目にしました。
私の好きなライターさんも、ドラマ版が大好きだったけど、劇場版見てガッカリ…みたいな記事を書いていた。
うん、「おっさんずラブ」って、男同士の恋愛がごく普通に受け入れられる世界という意味ではフィクションでありファンタジーなんだけど、「日常」を出すぎないお茶の間感が味でもあったからね。その感想も分かることは分かるんだ。
そんで、
・春田が拉致監禁される ⇒・救出に向かった人たちのうち牧と2人きりで取り残される
というシチュエーションを成立させるために、その前後が割と雑な展開だったりもするからね。笑
まあハッキリ言って、ここへ来て超ご都合主義的な展開と言ってしまっても言い過ぎではないだろう。
じゃあこの「拉致監禁・爆破・炎の中の救出」は要らなかったのか?
と聞かれたら、
「いや、要る」
というのが私の答えだ。
なぜかって?
だって面白いから!!
面白ければ細けぇこたあいいんだよ!!
「おっさんずラブ」を私がここまで好きなのは、ラブストーリーとしてもちゃんと胸をキュンキュンさせてくれるのはもちろん、良質なコメディとして成立している、という部分も大きい。
部長と牧が小競り合いしながら春田の救出に向かうところなんて、最高じゃん? あそこで笑わなかった人いる??
その上で、炎の中でのあの2人の誓いですよ?
いや、もう、絶対に要るでしょ。
劇場版「おっさんずラブ」には爆破・炎上が欠かせない要素でしょう。
だからいいのです。
※異論は認める。
あ、あとね、「爆破・炎上」という大げさな舞台装置でも、「おっさんずラブ」の世界観を壊さず、ここまでたくさんの人に受け入れられているのは、やっぱり
「春田と牧の関係に重要な要素」
をおろそかにせず盛り込んであるからだと思う。
この救出劇の肝は何かというと、
・危機に陥るのが春田で、救けに行くのが牧
というところだ。
ここさあ、劇場版とドラマ版を交互に見比べてみるまで気づかなかったんだけど、実はドラマ版おっさんずラブって、
牧は春田を選んでない
んですよね。。。
春田を先に好きになったのは牧、激情を抑えきれず仕掛けるのも牧だけど、第5話の冒頭で「つきあってください」と言った他は、牧からはアクションしていないんですよね。その告白だってなんかなりゆきのダメ元っぽかった、というのは既に見た通り。
でもその後は、ちずの気持ちや春田母の「孫の顔が見たい」という願望に「忖度」して身を引いてしまった。
春田と武蔵が「同棲」を始めたと聞いても、結婚することになったと報告を受けても、牧は動かない(政宗に壁ドンで迫られたにも関わらず)。
春田に「会いたい」とメッセージを送ったのは、ライバルだったちずにも背中を押されて、牧くんなりに勇気を振り絞ったんだろうけど、すれ違ってしまった後はそのままだ。
部長と春田の結婚式には出席せず旅に出ようとしていたあたり、牧の傷心が窺い知れるけれども、結局、部長の手を振り払う形で牧のもとへやってきたのは、春田の方なんだよね。
春田があのまま流されて部長と式を挙げていたら、牧はそのまま諦めるつもりだったんだろう。
だから、「牧は春田を選んでいない」という言い方に語弊があるなら、「牧は春田を選ぶために手を尽くしたわけではない」と言い換えてもいい。
ドラマ版のラストで
「オレ、もう我慢しないって決めたんで」
と言っていたけど、あの美しく完結した春田と牧の物語に、唯一欠けたものを探すとすれば、それはやはり
「我慢せず心のままに春田を求める牧の姿」
だろうと思う。
我々民が見たかったのも、「我慢しない牧凌太」だったはず。
春田は、「同性同士」という部分に対する世間や自分自身の偏見を乗り越え、自分の中に牧に対する本当の想いを見出して、牧と一緒に生きる道を選んだ。
牧が闘うべき相手は、これから先を色々と想像し、不安を膨らませた挙句、臆病になってしまう自分自身の心だ。
「相手の将来を思って」という都合のいい言い訳を楯にせず、カッコ悪い部分も弱い部分も全部さらけ出したとしても、「春田と一緒にいる」未来を引き受ける=「春田を自分の人生に巻き込む」覚悟が、牧には必要だった。
だからあの救出劇には、武蔵のサポートと叱咤激励が必要だったのだ。
……というわけで、またしても超絶長くなりました。
いったん切ります!