劇場版おっさんずラブ終盤で印象的だったのが、春田が狸穴リーダーを「ゆで五郎」に連れていく場面だった。
実を言うと、最初はこの場面、(要る…?)くらいにしか思っていなかった。
回を重ねるうちに、この場面の意味に気づいたという点で、自分的に印象に残った場面。
この場面、はっきり言って地味なんですよね。その前がアレだからさ。
炎の中で愛を誓い合った春田と牧は、お互い支え合って無事に廃工場から脱出する。
その背後、どーん!!と最後の大爆発が起こって、劇場版の劇的さに華を添える。きじPが真っ青になり、特撮経験者の志尊くんが真顔になったという火薬の量、使い甲斐があったね!!
武川主任に靴を履かせてもらった黒澤部長が無事にはるたんの記憶を取り戻し、みんなで団子になって喜び合い、大団円。
その後、Genius7に対抗してTENKU7で本社に乗り込むシーンも、春田が香港でツボを守ってあげたじいちゃんが出てきて会社の危機が救われるシーンも、おっさんずチームらしい遊び心があっていいと思う。
そして狸穴さん、前半は怪しげでヤバげなオーラむんむんだったけど、やっぱり普通にイイ人でしたね!笑
その狸穴さん、実は五郎さんとこの息子だと、春田は気づいたんだな。
鳳凰山リゾートに代わり、宝来ファンドが天空不動産のビジネスパートナーに名乗りを上げてくれて、これまためでたしめでたしの牧、じゃない巻であったが、
「ちょっと、一緒に来て欲しいところがあるんですけど」
と春田は狸穴リーダーを「ゆで五郎」へ連れていく。
うどん屋がうまく行かず、うどんにも父親にも嫌気がさして家を出て行ったと、狸穴さんの過去が語られる。
もうずっと顔を合わせていないらしい父と息子。
「いいんだよ、もう別に」
「親父も今更俺の顔なんか見たくないだろ」
というリーダーに、
「そんなことないと思います」
と春田、どこか自信ありげ。
「…君に何が分かる」
とここで狸穴さん、一瞬シャッターを下ろしかけるんですよね。まあ、話のなりゆきとして無理もない。
けど、ここで春田は引かない。
「五郎さん、言ってました」
差し込まれる回想シーン。
閉店の張り紙をお店の入り口に貼り付けながら、
「本当にお店、たたんじゃっていいんですか?」
という春田の問いかけに
「どうせもう、あいつは帰って来ない」
と答える五郎さん。
「…あいつにはあいつの人生がある」
言葉とは裏腹に、本当は息子の帰りを待っている父の本心をうかがわせる寂しい背中。
離れても、同じ写真を大事に持っていた親子。
「たとえ壊れてしまったとしても、またきっと作り直せます。街も、家族も」
そういう春田の言葉に背中を押されるように、「ゆで五郎」の店内へ入っていく狸穴さん。
久しぶりに顔を合わせた父と息子、ぎこちないながら会話を交わして、雪解けの兆しを見せてこの場面が終わる。
ここ、地味だけど実は「春田創一」というキャラの魅力を観客に示すのに重要な意味を持つ場面だ。
春田はドラマ編からずっと、「町の不動産屋の営業」であって、地域密着型の仕事ぶりを見せていた。第一話の冒頭からそうだった。道行く人に挨拶をし、顔なじみになった管理人さんと親しく言葉を交わす。牧との仕事の引継ぎも、丁寧に足を運んで挨拶していた。
つまり、関わった人一人一人、「対個人」として接するタイプの営業なんだな。
だから、相手が狸穴リーダーであっても、疎遠になってしまった親父さんとの間をそのまま見過ごしに出来なかったんだろう。
そして、映画の序盤、ジャスと訪れたときには「出ていけ!」と一喝されて追い出されていた場面と比べると、春田の「五郎さん」呼びといい、不器用な昔の男らしい五郎さんがちらりと真情をのぞかせている点といい、距離を縮める何かがあったのだろうと思わせる。
親子って、難しいじゃないですか。親といまいちうまくいってないとか、もうずっと連絡してないとか、そんな人も大人ならたくさんいると思うんです。
その、「親子関係」というセンシティブな問題に一歩踏み込んだ春田の発言。これ、少し間違えばめちゃくちゃ反発くらう可能性大だと思う。
そこを、狸穴さんにもシャッター下ろされそうになりながら、すっと懐に入り込んで、背中を押す春田のセリフが、「人懐こい人たらし春田」の面目躍如と言おうか、マジで田中圭as春田創一じゃなかったら成立しなかった場面なんじゃないか、と何度も観るうち思えてきた。
で、この場面がこのあと、春田が「本社のプロジェクトリーダー」という昇進を蹴る場面に繋がっていく。
「オレにはそんな肩書、似合わないです」
「これまで通り街を歩きながら、そこに暮らす人たちと一緒に街を作っていきたい。それが今のオレの、夢なんで」
自分の身の丈を知り、地に足をつけた春田の発言がかっこいいですね。
そう、春田は最初から自分の夢を持って、自分なりの信念で仕事をしてきたのだ。
この場面の意味に気づいたの、実はドラマ版第二話を見返していたときのことだった。
第二話も、春田と牧のせつなくていい場面が終盤にあるにも関わらず、その後、揉めていた後輩夫婦をある場所に春田が連れて行く場面が描かれる。
春田と牧、春田と部長の恋模様には直接関係ない場面だけど、
「顧客の一人一人をおろそかにせず、一緒にこの先を考える」
という、春田という男の誠実さがよく現れた場面だ。
あの場面があるから、一見ポンコツのダメリーマンだけど、きちんと心ある仕事をしているし、こんな春田だからファン的なお客さんもいるだろうと思える。
そして、(だから部長も牧も春田に惹かれたのだな)と、説明なしに視聴者に納得させる説得力を持つ場面でもある。
…と、文末を断定で言い切って書いていますが、もちろんこれは私個人の感想です。
どうとでも解釈できる、言わば「行間」ともいうべき隙間を想像(≒妄想)で埋めて、私の好みの味つけにした解釈だ。
取り方は十人十色、本当に見た人の数だけあると思う。
思うけれども、それだけ無限とも言える解釈を許してくれる、懐の広さが徳尾さんの脚本にあるからだとも思う。
劇場版おっさんずラブ、本当に、何度見ても、見れば見るだけ新しい発見があって、展開が分かっていても新鮮に感動出来る。
円盤が来たら来たで、また新たな何かに出逢えるに違いない。
ところで、家族はともかく、「街」というものは、一度壊れてしまったらそう簡単には作り直せない。
この場面、出来れば多少の瑕疵はふんわりと見過ごしにしたかったが、私がどうしても引っかかったのはそこでした。
…が、もちろん「おっさんずラブ」本編とは関係がないので、それについてはまた今度。
劇場版おっさんずラブの魅力を損なうほどの瑕疵ではないことも付け加えておきます。