おっさんずラブが好き!

ドラマ「おっさんずラブ」の細かすぎるレビューブログ。OLの深い沼にハマって当分正気に戻れません。ほぼおっさんずラブの話題しかないかもしれない。ネタはバレまくりなのでご注意を。

おっさんずラブ 第一話 ② 黒澤部長と乙女武蔵

 満開の桜並木の中を猛ダッシュし、なんとかバスに間に合った春田。

 うう、と呻いて、見るからに二日酔いだ。

 通勤のバスの中で、朝っぱらから酒のニオイをぷんぷんさせた男(しかもシャワー浴びてない…)と隣り合わせになったら、かなりテンション下がりますよね。

 最初から(やだ、この人…)と思っていたせいなのかどうか。

 

 隣に立つお姉さんに、

「ちょっと、やめてください!」

 きっと睨まれる春田。

「えっ…」

 ぽかんとする春田はもちろんのこと、状況が分かっていない。

「この人に触られました」

「え?」

「この人に触られました!」

 周囲に訴えかけるように大きな声を出すお姉さん。うろたえる春田があたりを見回すと、みんながこっちを見ている。

 強気なお姉さんは畳みかけるように、

「お尻触ってましたよね。お尻触りましたよね!? ――痴漢です。次で降りてください!!」

 

 本物の痴漢対策としては、なかなか勇気があるし、見事な追い詰め方だ。周囲に「この男が痴漢を働いた」という事実を知らしめ、逃げ道をふさいで、しかるべき筋に引き渡す。

 しかしながら、痴漢という犯罪は実証が厄介で、一度疑いをかけられたら、例え無罪でもその後にとことん影響を及ぼしかねない問題であることは、私たちは多くのメディアから既に学んでいる。

 だから、そうだと決めつける前に、やっぱり証拠固めは必要ですよね。

 お尻を触られて、コイツだ!と思ったら、頭に血が上って冷静さを失ってしまうのは、同じ女性としてはとても分かる心情だけれども。

 ていうか春田の反対側にいる男が見るからに怪しいですけどね…

  人相がアレなだけだったらごめんなさい。。



 春田が何かを言う前に、

「彼は――違いますよ」

 と救いの神が手を差し伸べた。

「部長…!」

「彼は、左手でつり革を持って、右手で鞄を持ってるでしょ。だから、触りようがないと思うんだよね」

 ここの言い方が素晴らしい。彼女を責めるような言い方は決してせずに、あくまで冷静に、紳士的な口調を崩さない。

 あ……と彼女が察したらしい表情を見せると、間髪を入れずに

「誰でも間違いはあるし、うん」

 フォローも完璧だ。だからお姉さんも、素直に「すみませんでした」と言えたのだろう。

 その後も

「いやいや、大丈夫大丈夫大丈夫」

ととりなす部長。春田だけでなく、「痴漢!」と大きな声を出したお姉さんが気まずくならないように、これ以上ないフォローだと思います。

「ありがとうございました…」

 部長にお礼を言いながら、春田はちょっとベソかいちゃってる。無理もない。

「誤解が解けて、よかった」

 ここでの部長は実に立派で漢(オトコ)らしい。

 

 ところが。



 突然の急ブレーキ。よろけた春田を部長が支えて、一瞬抱き合う体勢になる。

 春田の身体の重みを感じて、一瞬目を閉じる黒澤部長。

 手から、スマホがするりと床に落ちる。

 漢・黒澤部長の中から乙女武蔵(ムサシ)がこぼれ出た瞬間。



(あ…、)

と思ったものの、この時の部長は動揺してたんでしょうかね。落としたスマホを春田に拾われてしまう。

「……えっ」

 スマホの待ち受け画面が目に入り、思わず固まる春田。

 そのままフリーズしている春田の手から、そっとスマホを回収する部長。

「じゃ、今日もよろしく」

 キリッと部長モードでまとめてバスを降りていったものの、さすがに誤魔化し切れてない。茫然から我に返って、慌ててバスを降りる春田は、キツネにつままれたように首をひねっている。そらそうだ、上司のスマホの待ち受けが自分て。理解するのに相当時間かかるわ。

 春田に背を向けてこちらへ歩いてくる黒澤部長。心なしか歩調が軽やか。そして見切れる2秒前に、隠しきれずほんわ~…と顔が微笑で緩む。



 字で書き起こすとまた違ったテンポになるけど、この場面もリズムがとてもよく、何かを考える前にどんどん物語が進んでいく。

 ん? とかあれ?てなってるうちに、気がついたら「おっさんずラブ」の作り出す世界にハマっている。

 沼の始まり。



 今はラストまで知ってしまっているので、この後出てくる情報も加味してこうしてレビューを書いてしまっているけど、最初に見たときは、ともかくも(なんかすごく面白いぞ?)とワクワクしたものだ。

 おっさんずラブと出会ってかれこれ3か月、これまで経験したことのないような濃密で幸せな時間を過ごしているけど、唯一失ってしまったのが、このドラマを「初見で味わうときめき」だ。こればかりは両立しないので、贅沢な悩みなんだけど。

 せめてこうやって、字にして記録しておくことにしよう。