おっさんずラブが好き!

ドラマ「おっさんずラブ」の細かすぎるレビューブログ。OLの深い沼にハマって当分正気に戻れません。ほぼおっさんずラブの話題しかないかもしれない。ネタはバレまくりなのでご注意を。

おっさんずラブ 第一話 ④ OPEN THE DOOR!

 ある日、尊敬する上司のスマホをうっかり見てしまった。

 待ち受けが自分の顔だった――

 

 こんなことが実際自分の身に起こったらさあどうする?と想像してみるに、これがなかなか難しい。想像力(というか妄想力)にかけては人後に落ちない自信があるんだけど、リアルでこんな出来事が降って沸いたら? 正直見当もつかない。

 ――うーん、まあでも、まず

「夢かな」

と思うよね。「気のせいかな」「目の錯覚」とか。そんで「疲れてるんだ」と自分に言い聞かせて、忘れようとするだろう。ともかく、出来る限り目の前の事実を「現実じゃない」と思い込もうとするだろうね!

 

 これが1度こっきりのことなら、「何かの間違いだったんだろう」で片付くところだけど、「おっさんずラブ」の春田には、まだまだ「青天の霹靂」的アクシデントが待っている。なぜならこれが連ドラの第一話だからだ。そして始まってからまだ15分も経ってないからだ。

 頑張れ!春田。



 部長に頼まれ、新入りの牧に資料を渡すべく、部長室のパソコンを覗き込む春田。

「春のキャンペーン……これか?」

と「Spring」とタイトルがついたフォルダをクリックする。

 すると、

「……へっ?」

 春田、フリーズ。

 

 そこにあったのは自分の画像。

 エレベーターに乗る春田、デスクに向かう春田、どこかを向いている横顔の春田、何かを食べる春田、単なる真顔の春田、ともかくも大量の春田、春田、春田。

 

「なんだよこれ…」

動揺する春田が倒したペットボトルから水がこぼれる。2016年度版でも使われていたこの演出。黒澤部長が胸に秘めてきた春田への想いが零れ出たメタファーでしょうか。

 

「え……嘘だろ…」

春田の顔がどんどんマジになっていく。

 いやこれ、怖いよね! ちょっとしたホラーだよ。

 思わず部長の方を目をやると、ブラインドごしに目が合ってしまう。

 

 

 目を白黒させてデスクにつっぷす春田。

 



 ペットボトルの水はあらかた零れ出てしまった。

 もう元には戻らない。



 春田の混乱はまだ続く。



 トイレで用を足しながら首をひねる春田。

(ええー? なんで俺の写真が? ……夢??)

 

 まあそうなるよね。これがマロだったら、「やだなあ、黒澤部長、オレのファンだったんすか」とか思いそうだけど、春田はそこまでナルシストじゃないし。

 自分が白昼夢を見たのではないかとまで疑い出す春田。「世にも奇妙な物語」に迷い込んだような気持ちだったでしょうね。

 春田に落ち着く猶予を与えず、ここへも部長がやってくる。

 

「…見た?」

 ぴとっと隣にくっつかれ、部長に追及される春田。

 漫画なら、横に(ヒィッ)と吹き出しがつきそうな春田のひきつった顔。

 ここ、妙にムーディなタンゴ調のBGMが絶妙に可笑しい。部長が乙女心を発揮して春田にぐいぐいいくときによく使われている。別称「武蔵のタンゴ」。

 

「……見てないです」

「………ホントに見てない?」

 「勇気を持って一歩前進」のトイレ内標語(なんのためや)をくいっ…と撫でながら。

 

「………見てないです」

 声がうわずる春田。

 ふーん、そう…と納得しそうな気配を見せるも、

「ていうか何を?」

とかぶせてくる部長。

「わ…わかんないㇲけど……見てないです……」

 白目剥きそうになりながらシラを切りとおす春田。

「そうか……ならいいんだ」

 最後にもう一度何か言いかけて、そのまま踵を返す部長。



 いやーもうこの場面、笑かしてもらったよね!! 秒数で言うと、10分47秒から11分38秒にかけて。わずか1分弱の時間ながら、迫りくる部長としどろもどろの春田のかけあいが可笑しくて、めっちゃ笑いました。

 もう何度も何度も見てるけど、今見てもやっぱりおかしい。特に、

「ていうか何を?」

の前の一呼吸が絶妙すぎてやな。

 台詞のテンポ、音楽のリズム、呼吸、それらがかちっと噛み合ってると、人は気持ちよく笑えるんだなあ、と実感する。



 困惑の極みに立たされた春田の心情を、カメラワークが表現する。

 

――神様、僕が希望していた運命の恋とは、少しテイストが違うような気がします――



 春田モノローグからの「おっさんずラブ」タイトル表示。

 毎回工夫されたこのタイトルアップも、視聴する楽しみのひとつでした。

 



 episode1のサブタイトルとして、「OPEN THE DOOR!」と画面右上に大きく掲げられている。

 

 

 そう、ここから、部長の、春田の、牧の、登場人物たちそれぞれの「扉」が開いていくわけだが、今から思えば、このドラマを見始めた私たち視聴者の「扉」もまた開いた瞬間だった。

 扉が開く前のことをもう思い出せない。