おっさんずラブが好き!

ドラマ「おっさんずラブ」の細かすぎるレビューブログ。OLの深い沼にハマって当分正気に戻れません。ほぼおっさんずラブの話題しかないかもしれない。ネタはバレまくりなのでご注意を。

おっさんずラブ第二話② 武川主任という男

 牧に遅れて天空不動産へやってきた春田。

 何事もなかったかのようにデスクでパソコンに向かっている牧を、やや複雑な表情で眺めながら、ホワイトボードでスケジュールを確認。

 黒澤部長の欄に「本社」とあるのを見て、(よかった)と安堵する。脳裏をよぎるあれやこれや。出来れば顔を合わせるのは後回しにしたいですよね。どうせいずれ会うことにはなるんだけど。

 とそこへ、武川主任が通りがかりに、春田の後頭部をつつく。

「!?」

思わずびくっと後じさる春田。

「ゴミついてたぞ」

平然と言い放つ武川さん。

「…あとぅーす…」

と言いつつ、はるたん、不審げ。

 なんでもないシーンだけど、後から武川主任の役回りが分かってくると、この場面を思い出して(あーそう言えば…)と納得できる。

 なんというか、同性からの身体的接触に対して、春田のノンケ性が明示される場面ですね。



 天空不動産を訪れた客は、春田の後輩カズだった。

 カズこと棚橋一紀を演じたのは、渋谷謙人くん。超見覚えがある顔だと思ったら、「HERO」で大学生4人のオレオレ詐欺グループの1人を演じていた人でした。私はドラママニアというわけじゃないけど、お気に入りのドラマは録画を何度も何度も見るから、脇キャラの俳優さんも割と顔を覚える。チョイ役だった人が重要な役に出世したりしてると、嬉しくなる。この同じ回で、詐欺グループの元締めを演じていた丸山智巳さんも結構色んなドラマで見かけるようになって、応援してます。

 カズが連れていた新婚の奥さんは、「ビズリーチ」のCMに出てる吉谷彩子ちゃん。私は見ていなかったけど、「陸王」に出演されていたんですね。

 カズの出世作が「陸嬢」なのは、そういう関係なんですね。メインじゃないゲストの役者さんも、こうして印象づけようとする辺り、心憎い演出だ。優しさを感じる。

 2人とも、メインキャラに食い込めるよう、今後ますますのご活躍をお祈りしております。

 

 ところでこの場面、この「陸嬢」を

「読んだ読んだ。アレでしょ、下駄をアレしてね?」

という春田のざっくりすぎる感想が、「絶対読んでないやつwww」とバレバレで、個人的にウケました。仲良しの後輩の本だから、書店で手に取ってぱらぱらとめくってみたんでしょうね。でも最後までは読んでないんだ、きっと。

 「陸嬢」で下駄を一体どうしたのか、是非読んでみたい。



 新婚2人の物件探しに奔走する春田。そう、「おっさんずラブ」の登場人物は、みんなちゃんと仕事するのだ。仕事もそっちのけで給湯室であんなことしたり、なぜか誰も来ない資料室を閉めきってこんなことしたり、「お前らちょっとは仕事しろ!!」と全力でツッコんでしまうそこらのオフィスラブものとは違う。(※BLでは非常によく見かけます)

 夫と妻、それぞれの希望に合う物件をピックアップして紹介するものの、どちらも自分の主張が強くて折り合わない。

 夫妻の間で板挟みになり、ホトホト困り果てる春田。



 これ、新婚さんあるあるですよね。「好き!」という気持ちだけで盛り上がっていた恋愛時代と違って、結婚した後は、「生活」というリアルが待っている。

 今まで違う人生を歩んできた他人が一緒に暮らすって、そう簡単なことじゃないですよ。

 特にこういう、お互いが仕事を持っているというだけじゃなく、その道でそれなりに認められているとなれば、プライドも生半可じゃないだろう。

 2人で住む物件を探しているはずが、いつの間にか「我が我が」になって、エゴのぶつかり合いになってしまうのは、結婚後間がない夫婦が受ける洗礼のようなものでしょうか。



 結局物件は決まらず、営業所に戻って武川主任にこぼす春田。

「それだけ回っても決まらなかったのか」

と武川さんが言ってるけど、家は高額な買い物だ。初回の内見で決まることは、まあまずないですけどね。途中から夫婦がケンカしちゃって、条件の折り合いが全然つかなかったことを指しているのかもしれん。

「大体、育った環境が違う他人がいきなり一緒に暮らすなんて、無理があるんだよ」

 とここからは、ミステリアスな男だった武川主任の価値観がやや伺い知れる台詞が続きます。

「武川さん結婚とかって…」

という春田の質問に

「興味ないな。俺には向いてない」

と食い気味に即答。

「清潔な空間が汚されるのも嫌だし、て言うか、本当に愛し合ってるなら、わざわざ結婚という形にこだわる必要はないだろう」

 武川さん、何かというとウエットティッシュで指先拭ったりしてますもんね。 このセリフを言いながらも、デスク周りのホコリを払うのに余念がない。潔癖症なのがよく分かる場面です。



 愛し合っているなら、結婚という形にこだわる必要はない、というのは、確かに一理ある。結婚なんて紙切れ一枚だ、と私もかつて思っていた。

 でも、結婚という制度がある以上、やはり制度にのっとっている方が、いざというときに法律が守ってくれるという例も、この年になるとたくさん見聞きしてきた。

 税金とか、財産とか、諸々の事務手続き等、法律が認めた「正式な」身内なのか、たんなるカップルの片方なのかで、随分と待遇が違うのだ。

 そこら辺を理解した上で、何を重視してどういう形をとるのかは、それぞれの人生観によると思う。

 武川主任は、多分これまでの人生で色々経験して、この結論に至ったような気がするな。法制度の後ろ楯なく、対等な関係としてカップルでいる、というのは、武川主任という男の気骨を感じますね。



 …しかし、それに「…確かに」と頷く春田。キミ、絶対分かってないやろ。

 この、「なんか難しいこと言われて正直よく分かってはないんだけどこの場は合わせとけ」というふわっとした「確かに」を、イヤミなく演じることが出来るのが、田中圭という俳優のスゴイところだと思う。

 この場面、もう何百回と見てるけど、「…た、確かに」とはるたんが言うたびに

「ウソつけ!」

とツッコまずにはいられない。



 まあでもここでは、春田はそれどころじゃないのだ。それ=武川主任の結婚観ですね。

 そんなことより、昨日自分の身に起きた事件のことで頭は一杯。

「『愛』って、なんなんでしょうね…」

とえらく抽象的に言い出したのは、新婚夫婦の姿を見ていて色々思うところがあったのかもしれないが、

「…何。なんかあったのか」

とクールに見えた武川主任が意外な食いつきを見せると、

「…友達の、話なんですけど」

と前置きして、頭の中のぐるぐるを相談しだす。



「今まで意識してなかった相手から、なんていうかその……キス、されて」

「うん」

 と力強く先を促す武川主任。

「なのに、次の日会ったときに、なんにもなかった感じになってたんですよね」

 うーむ、キスしちゃっても次の日に会う関係って、なかなかないと思うけど、そんなツッコミは置いといて先に行こう。

「それって、相手はどういう気持ちなのかなって……相談されて。やっぱ、冗談なんですかね?」

「本気だな」

 やっぱり食い気味に断言する主任。

「2人の関係性にもよると思うけど……元々友達なんだろ?」

「そう…ですね。まあ、友達です」

「本気だな」

と大真面目に断定。

「…マジですか」

「まあ、そいつも、カーッと盛り上がってキスしたものの、冷静になって考えると、順番間違えたなって、今頃後悔してるんじゃないか?」

 武川主任、まるで見ていたように牧の気持ちを言い当ててますね。この段階ではまだ、相手が牧だと気づいてないはずだが、恐るべし慧眼。エスパーか。

 そして部下の恋バナにアドバイスする姿が、嬉々として見えるのは、私の気のせいじゃないと思う。

 親切な人なのも確かだろうけど、意外と社内のゴシップ、嫌いじゃないんじゃないかな。武川さん。

 男同士と聞いて

「…ふむ」

とメガネのフレームを押さえる仕草に、武川さんの(それはますます聞き捨てならない)という心の声が滲んでいるようです。



 …と、武川さんにつられて私も大真面目に書いてますけど、ここ、実は重要なコメディパートだ。

 男子校のノリじゃないか?と言う春田を

「ノリじゃないな」

と即座に却下する辺りで、私はもう大笑いしてました。

 そう、この生真面目メガネの武川主任、黒澤部長に次ぐコミカル担当なんですよね。本人はまったく笑わないまま、お茶の間を何度笑いの渦に叩き込んでくれたことか。

 ここも、春田の断片的な情報を「相手は本気。ノリじゃない」と断定する武川さんの台詞、言いようによってはイヤミなパワハラ上司になる危険性も大いに秘めている。

 でも、武川さんの生真面目さとか、クールに見えて部下思いで親切なところとか、意外とミーハーな面もあり?なところとか、そういうポジティブな部分しか感じない。

 眞島秀和という俳優も、シリアスもコメディも両方こなす、巧い役者だと思う。

 このポジションが眞島秀和という配役も、おっさんずラブの欠かせないパズルのピースだ。



 それだけでも水も漏らさぬキャスティングだというのに、ここへ加えて伊藤修子というコメディエンヌを持ってくるんだから、もうコメディとして完璧ですよね!

 出歯亀マイマイはすっと2人の会話に加わって、

「(キス)されて、春田くんはどう思ったの?」

「いやーよく分かんなかったんですよね。ともかくビックリして……」

と、アッサリ「友達じゃなく春田の話」という自白を誘導している。なんという優秀さ。

 真実を吐いた後、はっとして、

「…俺じゃないですよ!」

と言うも、訳知りの先輩と上司の顔は両方とも、(大丈夫、知ってた)と言っている。



 コメディパートで思い切り気を緩めて笑えるからこそ、後半の切なさが生きてくる演出ですね。

 他の人の濃い芝居を見事に受けつつ、お人よし春田のふわっとしたところとか、職場のみんなから愛されているキャラがよく分かる場面でもある。

 まったくこの座長、どの場面でも1ミリも気を抜いてない。

 天晴れ。