さて、場面は再び天空不動産営業部。
皆が忙しく動き回っている中、マロが牧の机に近づいてくる。
「コレ、春田さんの机に置いといて」
と書類を差し出され、
「えっ…」
戸惑う牧。そらそうだ。頼みごとというより命令。しかもパシリ。
ていうか春田の机、すぐそこじゃん。自分で置けよ。
……と牧が思ったかどうかは分からんが、
「えっ?」
とイヤミたらしく繰り返してみせ、
「この営業所ではオレ、先輩ですよね」
と必要もない先輩風を吹かすマロ。
いるいる。いるよね、こういう奴。
仕事出来ない奴に限って、立場をカサにきて変にマウンティングしてくるんだ。けっ。くだらねー。
栗林くん、営業成績は今はいいみたいだけど、クレームも多い(だろう)し、このままならいずれ問題児社員になっていたに違いない。
しかし、賢い牧はそこで面と向かって逆らったりしない。言われた通り、春田の机に書類を置きに行く。
会社で働いていると、こんな場面、いくらでも遭遇する。本社で再開発事業に携わっていた牧なら、頭の固いジジイに振り回されたり、現場で顧客のワガママに困らされたり、色々な経験を積んできただろうと思う。
マロごとき小ワッパの空威張り、柳に風と受け流すのは屁でもなかったかもしれん。
こういう細かい部分も、「会社あるある」で納得できるから、おっさんずラブが好きなんですよね。
そして、マロが要らない先輩風を吹かせたお陰で、コトが動くことになる。
牧が置いた書類が机の上のマウスに触れて、春田のパソコンの画面が牧の眼に触れる。
春田が戻ってきたのに気づいて、慌ててその場を離れる牧。
新着メールに気づいて、パソコンを覗き込む春田。
そこにあったのは、
「明日ランチミーティングするお」
という、上司が部下に送る社内メールとしては些かはっちゃけた件名の黒澤部長のメールだった。
目をぱちくりさせる春田はともかく、うっかり見てしまった牧はここからずっと気が気じゃなかっただろうね!笑
「嫉妬」は、恋愛において物語を動かす重要な要素になる。
小生意気モンスター社員マロ、GJ!
あ、そんで、副音声で「するお」の発音というかイントネーションに悩んでいらっしゃいましたが、これはいわゆる「ネットスラング」っちゅーやつなので、実際の会話で使う人はごく稀だと思われる。(黒澤部長は多分若い人の言葉だと思って使ってるんだろうなあ)
ヘタに実生活で使うと、この言葉を知らない人には「?」て思われるし、知っている人には(うわ、実際に使ってるよ…)と痛々しく思われちゃう可能性大なので、使わない方がいいと思う。
よって、悩む必要は全くありません!
もうこの辺で既に、黒澤部長としては結構手応えを感じてそうだなー。
部長の脳内では、
・ずっと心に秘めていたけど……思い切って告白!
・ドン引かれるかと思いきや、意外と好感触だった♡ 頭ナデナデしてくれたもん!
・よし!次のステップに進んじゃえ! ←今ココ
こういう感じなんじゃないかと、春田からの「承知しました」という返信を見て、ほんわ~…と幸せそうに微笑む乙女な武蔵の表情を見ていると、読み取れるわけです。
まあ上司から「ランチミーティング」と言われて、部下である春田に否やのあろうはずもないんですけど、お花畑状態の部長の脳内からは、そういう「会社人としての常識」が薄くなっていそうだ。
余談ですが、前の会社のクソ上司は、「了解しました」という言葉を異常に嫌う人だった。「承知しました」じゃなきゃ絶対ダメ!上司に向かって「了解しました」なんていうやつは非常識極まりない!と、何があったか知らないが、神経質なくらいこだわっていた。
「了解しました」というのは、「あなたの言葉を理解しました。言われた通りにします」という意味であって、別に失礼じゃないんじゃ? ていうか、そんなマナー、聞いたことないけど?と思ってたら、あるブログで書かれた記事が拡散するうち、いつの間にか「これが社会人としてのマナーだ!」みたいに誤解されて広まったんですってね。
一時期、記事を書くのを外注して、ともかくもヒット数を稼ぐために記事数を量産するキュレーションサイトが雨後の筍のように沸いたことがあった。(今はどうか知らない) そういうサイトのライターは、与えられたお題に対して「ネットで検索」し、適当に情報をかき集めて、「テーマは同じだけど書き手は違うよ!」というだけの内容の薄い記事を書き、文字数で報酬を貰うのが仕事だった。そういうことしてると、こうやって「たった一人が書いた意見」が、あたかも「世の中の大多数の意見」であるかのように書き換えられてしまう、ということが起こる。
ネットは便利だけど、鵜呑みにせず疑ってみる知性を持っていないと、クソ上司のようにかえって踊らされる羽目になる。
というわけで、春田の「承知しました」という返信の文句は、上司に対して敬意を見せた礼儀正しい言葉遣いではあるが、これが仮に「了解しました」であったとしても、別に間違ってはいない、という話。
脱線失礼しました。
閑話休題。
場面は変わって、「わんだほう」。ちずの転職がめでたく決まり、2人でお祝いしつつ飲んでいる。
「あたしは仕事に生きるから。そんでいつか、優秀なイケメン執事を雇う!」
「そうやって結婚が遠のいていくんだよ」
シュシュシュ、とボクシングのマネしてじゃれ合う2人。いいねー、この距離感。ここではまだ、2人とも独身で、結婚を気にしつつも出来ないでいるという、同じ立場の仲良しの幼馴染だ。
サバのヨーグルト煮をどーんと出した後、春田に酷評くらっても飄々として動じず、「あ!メロディ降りてきた」とにわかにギター抱えて歌い出す鉄平兄もいい感じ。
「…なんでヨーグルトで煮るの?」
という春田の問いに、
「料理も人生と同じ。どこに運命的な出会いが転がってるか分かんないだろ?」
と返す鉄平さんの言葉、名言だと思う。思うがしかし、よりによって臭みの強いサバをチョイスせんでも…とも思う。笑
クセのない鰆あたりを、イタリアンな感じでオリーブオイルで炒めて、酸味を利かせた仕上がりにすれば、変わり洋風南蛮っぽくなったんでは…と考えてしまうが、まあそれは要らぬお世話ですね。すみません。
そしてこの言葉通り、鉄平兄自身が運命的な出会いを果たすわけだが、これはまた後のお話。
「それで、あれから部長さんとはどうなったの?」
ちずに聞かれ、一応
「何もないよ」
と答えたものの、
「諦めたのかなあ?」
とちずが深堀りすると、つい
「いや、…」
と身を寄せて本当のことを話しちゃう春田。
そうだよね、「会社の上司に迫られて困ってる」なんてさ、なかなか自分一人の胸にしまっておくのは難しい。相談できる誰かに話すにこしたことはない。
ただし、ちずの反応は、春田の予想とは違うものだった。
「今は奥さんがいるから、ちゃんとするまで待って欲しいって」
「え、めちゃくちゃ誠実じゃん!」
「いや、誠実ってさ」
「春田のことを大切に思ってる証拠じゃん? それ、真剣に考えた方がいいよ!」
と、まさかの部長推し。
「あのさあ、簡単に言うけど、お前、本当にオレが部長のものになっていいのか」
「えっ…」
見つめ合う2人。
ハイ、春田とちずの第1回目のフラグ、立ちましたー。視聴者も一瞬ドキッとする場面ではありますが、ここでのちずは色気もヘッタクレもありません。
「だって…玉の輿だよ?」
台詞もだけど、ちずちゃん、手! そのジェスチャー、やめなさい!笑
「た、玉の輿…」
春田もちずが指で作った輪っかを見て、
「な、なんかヤダそれ!」
と思わず大声を出す。
「やだ。やめて!!」
と言いつつ、
「…玉の輿?」
と一瞬考える春田に、さらにちずが
「玉の輿!」
と押して、
「ええー!!」
と混乱の叫び。
しかし春田よ、「玉の輿」で一体何を想像したんや。笑
この場面、「ヤダ!」「やめて!!」の言い方が、強いんだけど、可愛くて、「拒否」ではあっても「拒絶」にまでは至ってない。もう絶妙に春田。
その拒否も、「部長を拒否」というよりは、「この状況をまだ受け入れられない」という、春田の混乱が伝わってくる。
演技論とか難しいことは分からないけど、この言い方ひとつで、全然違った感じになるんじゃないかなあと思う。
この可愛らしいダメンズ春田を演じつつ、水川あさみちゃんとあーんなことしちゃう岩井先輩を演じるわけだから、田中圭という役者は本当に凄い人ですね。
とそこへ、新着メールを知らせる着信音。
「もう家に着きました?まだだったら帰りに牛乳買っておいてもらえませんか?」
と牧からのメール。
それを読んだ春田のしょっぱい顔がなんとも言えない。
「仕事?」
と聞いてくるちずにも、今度は答えず、無言で首を横に振って、
「鉄平兄、ビールお代わり!」
とオーダー。
こうやって書き起こしてみると、牧くんの気持ちの動きがよく分かりますね。
朝は忙しいフリでなんとかごまかした。会社でも極力接触を避けて、ほとぼりが冷めるのを待っていたけど、家に帰ったら顔を合わせなきゃいけないし、何より春田がどう思っているのか、本当は気になって仕方がない。
だから、こうして業務連絡風の何でもないメールで、反応を見てみた。
そんなところでしょう。
部長とのことは隠さずちずに打ち明けた春田が、牧のことは言わない。
本当に悩んでいることって、なかなか言えないですよね。気持ちを言語化するには、段階が必要なのだ。
春田にしてみれば、上司から告白されたというだけでもアレなのに、一緒に住んで親しくなった友達から突然キスされたという、とんでもない状況なわけだ。
キャパオーバーもいいところで、牧からのメールで否応なく思い出させられたんだろうな。(あー、こっちもあったわ…)みたいな。
だからこの顔。心情は察するに余りある。
だが申し訳ないが、春田が困っておろおろすればするほど、部長と牧に翻弄されればされるほど、視聴者は面白いんだよな。
田中圭は、魅力的なクズを演じさせたら右に出る役者はいないが、「おろおろするダメ男」を演じても、日本屈指の可愛さを発揮する。
そう、可愛いんですよ。
困って途方にくれている春田、可愛くて仕方ない。
なので、このドラマが続く間中、春田は何度も何度も困った局面に立たされる。
春田がうわー!と髪をかきむしるたび、困り果てた挙句変なステップで踊るたび、画面のこちら側で1人、また1人バタバタと春田に落ちていったのが2018年の春だった。
そうして発生した沼は、今や立派な底なし沼になりました。
春田、困っているだろうが、めげるな。キミなら何とかなる。
頑張れ。