さて、お仕事モードになった黒澤部長、はるたんが担当する後輩夫婦のケンカ話から、昔の思い出話を語り出す。
「意見の不一致で板挟みか……10年前のことを思い出すよな」
それは春田が入社して間もなくのこと。
家を勝手に売ろうとする娘夫婦とおじいさんが対立し、
「お父さんのために言ってるんでしょう!?」
と声を荒げる娘さんと、激昂するおじいさんの間でおろおろする春田。
おじいさんがバン!とテーブルに叩きつけているのは、「不動産売買契約書」と読み取れるので、この娘さん、かなりなところまで売却の話を無断で進めていたのだと推察される。よく見るとハンコもいくつか押してあるし。
確かに、古い持ち家ってリフォームの費用やら税金やら、維持費がかかって大変だったりするけどね。
場所によっては、立地のよいマンションに引っ越した方が、歳を取っていくお父さんのためにはいい、ということもあり得る。
がしかし、善意から出たことであっても、所有者に無断の契約はいけません。
トラブルの元。
「あの時の春田は家族の板挟みになって、でも諦めず辛抱強く、せっせとおじいさんのところへ通ったんだよな」
と黒澤部長。
そうやって誠意を尽くして頑張る春田の姿を、部長はちゃんと見ていたということですよね(当時は課長だけれども)。
「はい……よくよく話を聞いてみると、家を売りたくない理由は、意外なところにあったんですよね」
再び回想シーン。
庭の古木を見上げて、思い出を語るおじいさん。
「この木は、亡くなった妻が大事にしていてね……これでもう、本当のお別れだなァ…」
そう、おじいさんも、いつまでもこの家にいるわけにはいかないことや、娘さんの言う通りにした方がいいこと、分かってたんだよね。
でもこの家から出ていきたくなかった理由、それは、亡くなった奥さんの思い出があちこちにあるから。
中でもこの木は、奥さんの在りし日を彷彿とさせる存在だったようだ。
不意にしゃくりあげる声がして、驚いたおじいさんが振り向くと、不動産の営業がなぜだか声を出して泣いている。
「なんでキミが泣くんだ」
「スミマセン……」
おじいさんの思いに共鳴して、泣いちゃったんですね。謝りながら、
「あの、移しましょう!」
「…え?」
「新しい家の庭に、移植しましょう。僕に、お手伝いをさせてください」
深くお辞儀。
お人よしで誠実。
このころからはるたんははるたんだった。
「家や土地ってのは、そこに住んでいる人の人生そのものだ。俺たちの仕事は、その人生を預かる仕事なんだよな…」
そうなんですよね。家には、そこに住んでいる人の歴史が刻まれる。不動産の売買はそこに深く関わるので、人の気持ちが分からない人には務まらない仕事だと思う、本来は。
ちょっと要領は悪くても、春田の誠実な仕事ぶりは、評価してきたんだろう。思い出語りをしながら、部長の顔が優しくほころんでいる。
ただ、部長ッ…! ねぎらっているつもりかもしれないけど、その右手の動き、どう見てもギリギリです!
もうベンチの一番はじっこまで追い詰められた春田、時折ぴくっと身体を妙な具合に強張らせている。
「諦めずに向き合っていれば、いつかきっと答えは見つかる」
と、後輩夫婦についてのアドバイスでいいこと言った風にキレイにまとめてるけど、部長の姿勢、これからはるたんに迫る気満々ですよね!(笑)
「ちなみに、その話の続き、覚えてる?」
と武蔵、お弁当脇に置いちゃった。
「続き…ですか」
と首をひねるはるたん、サッパリ覚えてない様子。
「思い出せ!」
と、春田の太腿(←)に手をかけて揺さぶる部長。
そう、部長が本当に話したかったのはここから。
「ええと――」
促され、何とか記憶を引っ張り出す春田。
契約を無事終えての帰り道、契約書が入ったカバンをひったくられるアクシデントが勃発。ダッシュで追いかけて無事カバンは取り戻したものの、武蔵が派手にすっころんで負傷する。
「部長が怪我をしてしまって――」
「その後!」
「…僕の記憶はここまでです」
「その後あったじゃん!」
焦れた武蔵、思わずベンチで空を仰ぐ。
「決定的な瞬間が!」
「…決定的な瞬間?」
オウム返しの春田にかぶせるように、
「あったじゃーーーん!!!」
ここから回想シーンは武蔵視点に切り替わる。
公園のベンチに座り、くじいた足の様子を見ている武蔵。
「やっぱり痛いな…」
とそこへ、春田が息せききって駆けてくる。
「すみません、コンビニ近くになくて…」
つまり、少し遠くまで遠征して湿布薬を買ってきたんだろう。
武蔵の足首に冷たい湿布を貼る春田。
「大丈夫ですか?」
「冷たくて気持ちいい」
春田の気遣いに微笑む武蔵。
「そろそろ会社へ帰ろう」
そう言う武蔵が自分で靴を履こうとするのを制して、春田は武蔵の靴を取り、くじいた足首を優しくつかんで、動かないように固定して履かせてあげるのだった。
チャ~ラ~ラ~ラ~♪♪♪
突如始まるBGMは、まさしくこのとき武蔵の心の中で鳴り響いていたに違いない。
虹色に輝くシャボン玉が次々に表れて、武蔵の背後を通り過ぎていく。
心配そうにこちらを見上げる春田の顔までキラキラに輝いて……
池の水面からは白い鳥が一斉にばぁぁっ!!と飛び立つのであった。
「あのとき…お前がオレをシンデレラにしたんだ」
ハイ! 出ました、第二話のパワーワード。
第一話の「巨根じゃダメですか?」に次ぐ衝撃発言。
「……ウソでしょ!?」
と春田が動揺するのも無理はない。
男の上司に靴を履かせてあげて、「シンデレラにしたんだ」言われてもな。
でも、武蔵は恋に落ちちゃったんだから仕方ない。
そこは理屈じゃないのです。
「大丈夫だ! 妻とは離婚の話をしてきた」
さあここから武蔵、いよいよエンジンかかってきた。
「ぶちょ、部長……そのことでお話があります!」
と春田が言ってくるのも耳に入ってない様子。
「もう少しだけ待ってくれ」
うーむ、やっぱ武蔵の脳内では、妻と離婚が正式に成立さえすれば、晴れてはるたんと堂々とおつきあい出来る!てなってるっぽいよね。
ところが、そうは問屋が卸さない。
「春田さん!!」
全身に闘志を漲らせて、あの男が割って入った。
そう、もちろん牧凌太その人だ。
息を切らせ、大きな眼をキラキラさせて、2人を…というか、部長に迫られる春田を見つめている。
ここから第二話がいよいよ佳境に突入していくわけだが、まあ、こうして書いてみても、徳尾さんの脚本、面白いですね! よくこんな展開を思いつくなあ。
そして次回、屋上キャットファイトの巻。