おっさんずラブが好き!

ドラマ「おっさんずラブ」の細かすぎるレビューブログ。OLの深い沼にハマって当分正気に戻れません。ほぼおっさんずラブの話題しかないかもしれない。ネタはバレまくりなのでご注意を。

劇場版おっさんずラブ感想(がっつりネタバレ)③牧凌太という男

 5DEAD目してきました! 5回目でも飽きたとかダレたとか全然ない。まだまだ新鮮に楽しめます。

 感想は山のようにあって、言いたいことを全部書いていたら軽く辞書一冊分くらいにはなりそうな勢いだ。

 何しろ私は長文書きで、ツイッターを始めるのを長いこと躊躇っていた理由も、

「言いたいことをたった140字の短さになぞまとめることが出来ようか」

と自問すると、決まって「否」という結論が出たからだった。140字が280字になったところで変わらない。大体2000字以上は書かないと気が済まないタチなのだ。

 なので感想もなかなか終わらないのですが、とりあえず、書けそうなところから書いていきます。



 感想①でも書いたけれども、せっかく結ばれた春田と牧がすれ違い始めるのは、コミュニケーションが絶対的に不足しているからだ。

 もちろん「春田が日本にいなかった」という物理的な距離はあるにせよ、劇場版を見る限り、原因は主に牧にあるような気がする。

 牧が自分から春田に「〇〇について自分は~だと思う」と思いや考えを伝える場面、中盤を過ぎるまで、ほとんど出てこない。

 春田に向かって

「春田さんはどう思いますか?」

と問いかけるところも見られない。



 劇場版、出来れば毎日のように通いたいところだけど、勤め人の身とてそうもいかない。

 なので、どうしても休日を利用して観に行くことになりますわね。

 その間、「おっさんずラブ」の世界に浸っていようと思うと、ドラマ版を見るしか方法がない。

 とは言え、ドラマ版を見るのは最早日常のルーティーンワークと化しているし、劇場版を見たあとだと、さらに発見があって面白いので、それはそれでまったくもって差し支えない。



(そう言えば、牧から春田に想いを伝える場面て、どれくらいあったかな?)

と思ってドラマ版を見なおすと、これがまあ、予想外に少ないのだ。

 激情に駆られ、「好きだ」と突然の告白と共に壁ドンからのシャワーチューをかます第一話。

 いったん「冗談ですよ」と誤魔化したものの、誤魔化しきれなくなって

「俺は春田さんが本気で好きなんですよ!!」

とやけのやんぱちで怒鳴って告白する第二話。

 第二話にはもうひとつ見どころがあって、追ってきた春田と公園で向き合い、おでこにキスした後、

「普通には戻れないです」

と告げて去っていく場面。

 いずれも、春田を想う牧の気持ちが痛いほど伝わって、我々視聴者は牧に感情移入してしまう名場面ではあるけれど、会話のキャッチボールになっているかと言えば、なっていないんだな。

 牧は自分の想いを春田が受け止めることを期待していない。言ってみれば、一方通行でただ「告げている」だけだ。



 第五話では、出て行くと告げた自分を思いがけずバックハグで止めた春田に

「つきあってください」

と言うものの、これも告白と言うよりは、

「(ちずと)何もないならいいですよね。春田さん、俺とつきあってください」

と、割とダメ元で言ってみた感じに見える。その証拠に、「ハイ」と春田が受け入れると、言った当の牧が驚いた表情を見せる。

 

 

 四話で出て行こうとしたのも、ちずと春田の関係を傍で見ていて、(俺よりもちずさんの方が春田さんにはふさわしい)と思ってのことだろう。

 やっと付き合い始めて、うまく行っていたのに、同じことを第六話で牧はしてしまう。

 ドラマ版の感想が一向に進まないのでもう先に書いちゃうけど、ちずと春田が抱き合っているところを見てしまった牧が、春田の家から出ていくことを選択するのは、春田の気持ちがちずに向いたと誤解したからじゃないと思うんだよね。

 やっぱり、女性と一緒になって子供が出来て…という「普通の幸せ」から春田を遠ざけてはいけない、と「忖度」した結果だと思う。

 春田のことを本当に好きだから、春田の将来を思ってした選択ではある。

 ただ残念ながら、そこには春田の意思というものが考慮に入れられていない。



 温厚で、あまり怒らない春田が牧に対してキレるとき、大抵

「勝手に決めんなよ!!」

と言っているけど、こうしてみると、無理からぬところではある。

 本当は、牧がしなければならないのは、「配慮」「忖度」ではなくて「対話」だ。

「俺は春田さんが好きだけど、俺と一緒になったら、いわゆる世間でいうところの『普通の幸せ』は手に入らない。それを想像すると辛いんだけど、春田さんはそれでいいですか?」

と、春田に問いかけなければならなかった。

 けど、出来なかった。

 それはやっぱり、怖いからだ。問うことで、春田が自問自答した挙句牧を選ばなかったら、傷つくからだ。

「身を引く」というのは、一見美しくも見える行為だけど、厳しく言うと、臆病者の選択だとも思う。



 描かれてはいないけど、牧のこれまで生きてきた道を思うと、臆病になるのに十分な理由がある、と思える。

 だから、ドラマではあれでよかったのだ。

 春田は牧の元へ自らの意思でやってきて、越え難い(と牧が思い込んでいた)河を渡って、「こちら側」に来てくれた。

 2人で思いを確かめ合って、パートナーとして生きる、と誓ってくれた。



 劇場版では、「そして2人は幸せに暮らしました」のその先を、制作チームがしっかり考えて提示してくれている。

「相手とのコミュニケーションスキル」という視点で見ると、劇場版の牧は、ドラマ版からさして成長していないように見える。

 春田に文句があっても「疲れているだけです」と呑み込んでしまうし、職場環境が変わって大変で、メールの返信も打てない状況でも、新しく上司となった狸穴リーダーのことも、何も春田に話さない。

 せっかく春田に用意していた夕食も、春田の意思を確認せずに

「これ食べないですよね」

とさっさと下げようとする。

「食べる、食べる」

と必死でお皿を確保する春田の仕草の小5感が可愛くて、つい見過ごし勝ちだけど、これ、実際やられたら一発でケンカになるやつだよ。

 

 

 だからやっぱり、このままでは、いずれ破局が来ただろう。

 それを避けて、誓い通り2人で生きていくには、まだ大事な何かに気づかなければならない。



 続きます。