さて、牧と春田との間に少しずつお互いの違いというか、齟齬が生じるようになってきたのは、牧の職場環境に大きな変化があったからだ。
オフィシャル本で制作チームが語る通り、「結婚後のカップルあるある」。
20代30代は、仕事に対するスタンスやモチベーションが大きく変わり得る年頃でもある。
そしてこの劇場版では、まさにその問題が、まだ盤石とは言えない春田&牧のカップルを直撃することとなる。
牧自身は、その変化を嫌がってはいない。むしろ歓迎している。
「やっとやりたかった仕事が出来て、今は全力で頑張りたい」
と狸穴リーダーに語っているし、春田にも
「今が一番生きてるって感じがする」
と言っている。
ドラマ版で出てきた学生時代の牧は、OB訪問をしておきながら、「特に不動産でなくてもいい」等と発言して当時の武川主任を怒らせていたが、その後、ここまで変わったということは、天空不動産への入社が牧にとって良い出逢いをもたらしたのだろう。
「好きな仕事をするんじゃない、自分の仕事を好きになるんだ」
という武川さんの教えを忠実に実行した成果かもしれない。
牧は「再開発プランナー」の肩書を持っていて、都市開発に関わっていた、とドラマ版第一話でも自己紹介していた。
私も、実際都市開発の仕事に携わっていた人に話を聞いたことがあるけど、めちゃくちゃ面白そうだと思ったし、緻密で細やかな牧くんには向いていると思う。
だから、ジーニアス7に抜擢されて嬉しかっただろうし、チャンスだ!と捉えて、ひたすら仕事に邁進するのも理解できる。
となると、家での環境も仕事をしやすいように整えたいと思うのも当然だ。
これが、ずっとつきあってて気心が知れている相手ならよかったけど、春田とは色んな意味でまだまだこれから、発展途上の間柄だ。お互い嫌なところ、合わないところも分かってきて、同居生活をストレスに感じ始める時期と重なってしまった。
今回も、ドラマ同様春田の母が突然現れ、
「明日からアタルくんと同居するから」
と宣言して、牧が出て行くことになるが、ドラマのときと違って、牧にとっては渡りに舟だっただろうと思う。
正直、新しい仕事に慣れるのにいっぱいいっぱいで、春田の拙い家事につきあってられる余裕がなかったというのが牧の本音だろう。
けど、ここでもやっぱりね、それは相談しなきゃいけなかったと思うよ、春田に。
だって、まだ籍こそ入れてないみたいだけど、伴侶として決めた相手だもん。
アッサリ「実家に帰ります」と言われて、春田がうんと言えるわけがない。
「大丈夫じゃねえだろ」
「大丈夫ですよ」
と、会話になっていない会話を交わしたのち、牧はさっさと出て行ってしまう。
簡素な荷物を持って出て行く牧の後ろ姿を見ながら、
(バカだなあ、牧くん……)
と春田と一緒に切なくなってしまうのだった。
この辺、色んな民の皆さんが考察をツイッターとかふせったーで投稿されていたけど、私も概ね同じ感想だ。
牧としては、やっと得られた機会をモノにして、狸穴リーダーの右腕としてスマートに働く自分を思い描いていただろう。
家では仕事の疲れも見せず、これまで通り家事を完璧にこなすつもりだったのではないだろうか。だって、ドラマ版で特にクローズアップされてなかったけど、牧くんの家事能力、マジでスーパー執事並みだよ。不動産の営業の仕事しながら、朝っぱらからあんな朝食作れませんて。いくら春田のことを好きでもさ。しかも夜食まで。相当頭も手際もいいんだろうね。
ところが現実はそううまくいかない。それどころか、春田は余計なことをして牧の邪魔までする始末。。。と、ひょっとすると牧くんにはそんなふうに見えていたかもしれん。
でも、牧は自分で思っているほど器用なタイプではない。仕事は出来るだろうけど、そこへ「家庭生活との両立」と、今までなかった課題まで降りかかってくると、両方をいっぺんにうまくこなすことまでは出来ない。
これはでも考えてみれば簡単な話で、「パートナーとの意思疎通&相談」が不可欠な課題なのに、それをしないのだから、この時の牧くんに出来るわけないのだ。
何故牧は春田に自分のことを相談しないのか?
これも、ドラマ版を見ていたら、答えのひとつが見つかった。
第五話、民な大好き帽子ポンの場面で、牧は春田にこう言っている。
「形だけじゃなくて、ちゃんと好きになってもらえるように、俺、頑張りますから」
ここでも、「自分が春田を想うほど、春田は自分を好きじゃない」という前提で話しているから、牧の陥りがちな独りよがりなセリフではあるんだけど、今はとりあえず置いとくとして。
完璧主義の牧くんが考えるところの「春田が好きになってくれる自分」というのは恐らく、「仕事も家事も完璧なパートナー」なのではないか。
そうじゃないんだけどね。。
プラス、やっぱり「好きな人には弱いところを見せたくない」んだろうね。
「弱い」=「カッコ悪い」なんだろうね、牧くんの中では。
だから、春田の相手を出来ないほど消耗してて、住み慣れた実家に帰るのに、春田母の申し出に乗っかった体でしゃらっと帰っちゃう。
頑張り過ぎて倒れちゃうくらいくたびれてても春田に何も言わないし、倒れたことすら連絡しない。春田を心配させたくないからだ。
お互いを想いつつ、でも無視できない齟齬が生じている春田と牧の関係が、ふたつの場面で明確に提示される。
ひとつは、新装わんだほうからの帰り道。そう、きんぴら橋のくだりだ。
ここ、やっと皆が見たかった「春田と牧の単なるイチャイチャ」が見られる場面ですよね。
そうそう、そうなの。こういう2人が見たかったのよ…!!てハンカチ(←)握りしめた民は多かったに違いない。
ふざけて春田のネクタイをぐっと引き寄せる牧。
「え、何、」
てなった春田が、ちょっと周囲を確認して、自分からキスしようと唇を近づけてるのが(キャー♡)てなる。笑
きんぴらごぼうねえ、何で頭にそんなものがついていたかは分からんが、とりあえずOL民のマストメニューにひとつ料理が追加されました、と。
「食べ物粗末にしちゃダメ」とか何とか言いながら、春田に無理矢理食べさせる牧。春田が結局それを出して、指につまんでたやつを受け取った牧、ぼやけてるけど食ってるよね。。
ここ、何テイクも撮ったとのことで、中の人は食べたかどうか覚えていないらしいが、しっかり食べているところを観客全員が目撃しています。
「大江戸大華火大会」のポスターを目にして駆け寄る牧。
「今年は一緒に行こうって約束したの、覚えてます?」
「ああ…うん、でも忙しいんじゃねえの」
「この日は空けてます」
そう、多分牧は、なんとしても花火に行きたかったのだ。もちろん春田と一緒に。
仕事を頑張っていたのは、それもあるに違いない。
返事にちょっと詰まった春田を「あー忘れてた」とふざけて詰って、後はカップルらしいイチャイチャ。
観客としても心和むひとときだけど、橋を渡り切ると、2人が進む方向は別々なのだった。
自分を納得させるように、自宅へ向かって歩いていく春田。
ふと振り向くと、牧もこちらを向いている。
再び別れの挨拶を仕草で交わして、違う家へ帰っていく2人の、近くにいるのに埋めきれない距離を感じさせて、やや切ない場面でもある。
ふたつめはもちろん、花火大会なんですけど、だーっ、どうしても長くなるな!
特に今、私の頭は割と牧凌太でいっぱいだから、牧くんについて語らせたらどこまでも長くなりそうだ。
花火大会については次項!