今の2人の関係がくっきりと示されるふたつめの場面。
それはもちろん、夏祭りの夜、花火のシーンだ。
ちょっとした緊張のあと、こういう場面がくると、つい見ているこちらもほっとしてしまう。
夕暮れの夏空から視点が降りてきて、夏祭りの雑踏をカメラが捉える。
人の波の中、浴衣姿の牧が現れると、その佇まいの美しさに眼を奪われる。
沼に咲いた蓮の花というか、雑草の中の白百合というか、ともかく凛として、どこか儚さも感じさせる。
もちろんメインキャラだから、カメラさんがそういう風に撮っているんだろうけど、中の人、林遣都の持つビジュアルが、観る人すべての眼を惹きつける場面でもある。
ううーむ、牧くん、ドラマのときよりも美人度増してるよね…!
牧を見つけて近づく春田。雑踏へ向けて
「行こうぜ」
と言いながら、とろけそうな笑顔を見せる。
この春田の表情がまたいいんだ。やっぱり牧、大好き…!てなってるのが、見ていて物凄く伝わってくる。
で、ここから数分間、夏祭りを楽しむ2人の姿が、それはもう幸せそうで、可愛くて、マジで永久保存版だと思う。
この場面見るだけでも、わざわざ時間かけて映画館まで足を運んで、正規料金を払って映画を観る価値があると感じる。
ワタアメを持つ牧と、リンゴ飴にかぶりつく春田。
「ねえそれひとくちちょうだい」
「出た!」
とか言いながら、春田の言うまま、交換してあげる牧。
そこへちょうど花火があがって、2人で見上げる。
「……すげえ、綺麗だな」
そして、春田の方から牧の手を取って、ぎゅっと手を繋ぐ。
指を絡めた恋人繋ぎで、少しはにかみながら歩き出す2人。
DVD発売になったら、この場面、1万回観ても飽きない自信があります(キッパリ)。
ところがだ。
牧が中座した後、鳴り続けるスマホ。ちらっと見ると、すべて狸穴さんからのメッセージ。
またこれが、畳みかけるように次から次へと送られてきて、もちろん映画だから春田をイラつかせるスピードで送られているんだけど、(こりゃつい手に取って見ちゃってもしょうがないわ…)と春田に同情してしまう。ロックを解除してまで覗いたわけじゃなく、画面が見えちゃってるわけだしね。
ひゅるひゅるひゅるひゅる……と空へ上っていった花火が、上空でどーん!!と花開く演出がうまい。
春田の心に、疑惑の花が咲いてしまった瞬間。
戻ってきた牧が、メッセージを確認した後、
「春田さん、すみません、俺…」
と言いかけるのを遮って、
「いいよ、行ってくれば? 俺と花火なんか見てる場合じゃないんだろ」
と、いつもの春田らしからぬ言い方をしてしまう。
けどこれは、春田は春田なりに、牧に対して思うところがあって、フラストレーションが溜まった結果だ。
「俺よりそっちが大事なんだろ? 仕事仕事! 夢夢、、、狸穴」
と、「アタシと仕事どっちが大事なの!?」て仕事大事の彼氏に迫る彼女みたいなセリフになっちゃってるけど、昭和の男のごとく春田に何も言わない牧を見てきた後だと、
(このセリフ、言わせてるのは牧だよなあ…)
と思ってしまう。
牧の方にはそんな自覚はない。もしかすると、何か言うと言い訳になってしまって男らしくない、と思っていたかもしれん。
だから、今まで楽しく過ごしていたのに、急に態度を変えたのは春田の方だと捉えてしまう。
「はぁ!?」
てなるのも、牧的には筋が通っている話。
「昨日、2人で病院から出てくるのも見たし」
「……だから?」
「俺には倒れたことすら言わねえじゃねえか!」
そう、これね、春田にとってはすごくショックな話だと思うよ。牧パパに呼び出されて倒れたことを聞かされた挙句、
「何でそんなことも知らないんだ」
って責められてるからね。その後、迎えに行った病院で目撃した光景だからね。
それに対しての牧の返し、
「春田さんみたいにギャーギャー言いたくないんですよ」
これは、頭に血がのぼってるとは言え、言っちゃいけないセリフだ。
ところがここから両者とも、「言ってはいけないセリフ」の応酬になっていく。
春田にすれば、狸穴さんからメッセージが来たこととか、狸穴さんと牧が一緒にタクシーに乗ったこととか、そのこと自体嫉妬しているというよりかは、
「そのことについて牧から何も聞いていない」
ことを怒っているのだな。
それを、「ギャーギャー言う」と言われたら、それは怒りに火がついてしまうだろう。
一方牧からすれば、仕事を頑張って、春田との時間もやっと確保したのに、何だってこんな子供じみたことを言い出すのか、理解に苦しむといったところだろうか。
そのセリフを今、このタイミングで春田が言い出すのには、日頃の自分の態度に要因があるかもしれないとまでは、この時の牧は頭が回らない。
好きな人とするケンカって、どうしてあんなに頭に来るんでしょうね…
「嫌い」は「好き」の裏返しとよく言うけれど、ホントにそう。多分、好きな人だからこそ、自分を分かっていてくれるはずの人に、予想外の言葉を言われると、(裏切られた)という悲しさ倍増になってしまうからかもしれない。
怒ったら、何か言う前に「6秒数えろ」とアンガーマネジメントの本では教えていて、それは正しいんだけど、本当に本気のケンカをしているとき、残念ながらそんな余裕はないのであって。
「ホント牧変わったよな」
「そっちが成長してないだけでしょ」
「はぁ? 本社行ったら急に上から目線? マジ引くわ」
「はぁ!?」
「つかお前といるとイライラするばっかりなんだけど。 ジャスティスといる方が百倍楽しいわ」
「狸穴さんはそんなガキみたいなこと言わないですよ!」
と、お互いがお互いを傷つけるためだけのセリフを放ったあと、春田がついに言ってしまう。
「もういいよ。……別れようぜ」
沈黙の後、
「…そうですね」
とうなずく牧。
春田は、怒りの余り、勢いで言ってしまったセリフかもしれない。
けれど、牧にとっては(いつか来るかもしれない)と密かに恐れていた局面だったのではなかろうか。
元々女性が好きな春田が、何かの拍子で自分に飽きて、別れを切り出すかもしれない。
(そのときが来たら、縋りつかずに、春田さんから手を離してあげよう)
と牧なら考えていたかもしれない、と私は思ってしまうのだけど、穿ちすぎだろうか。
でもやっぱりね、相手が本当に大事なら、そう簡単に手を離してはいけない。
みっともなくても、カッコ悪くても、思い切り本心をぶつけて、がっぷり四つに組み合わなくては、真の関係は築けない。
その点、はるたんに振られて「なんでえーー!?」と絶叫した武蔵や、何かとぐいぐいアプローチするのをやめなかった武川主任の方が、恋愛に対しては正直だ。
だからここまでは、牧はドラマ版をきっちりなぞっているのだね。
春田との間に何かあったとき、春田とがっぷり四つにも組まず、問題に正面からぶつかることもせず、すっと身を引いて逃げてしまう。
でも、今の自分のやり方だと、どうしたってうまくいかないことは、牧にも分かっているはずだ。
頑張っているのに、仕事も恋もうまくいかない。
どっちもすごく大事なのに、どうすればいいのか分からない。
春田と別れて、雑踏の中、1人きりで花火を見つめる牧の眼。
これがまたね……うるうるチワワでね……もうもう本当に綺麗なんですよ。(語彙力。。。)
春田よりもかなり複雑な性格の牧凌太、この突き抜けたコメディの「切ない」担当で、こういう場面では視聴者の心を一気に掴んで持っていく。
まだ若い牧、年齢なりに未熟で、一生懸命もがいていて、この場面も(牧、おバカだなあ…)と思うんだけど、そこがまた、堪らなく愛しくなる。
せっかくつかんだ恋、春田と一緒に幸せになるために、牧、がんばれ……!と心から応援したくなる。
……で、うーむ、やっぱり好きな場面を好きなだけ熱量こめて書くと、どんどん長くなるなー。
もう半分以上は書いたと思うのですが、すみません、もうしばらく続くようです。
いつ終わるかは自分でも分かりません!(断言)