劇場版「おっさんずラブ」の後半、舞台はほぼ春田が捕らわれた倉庫の中だ。
SASUKEシーンを含む「倉庫編」、全編を通しておっさんずチームの遊び心が爆発している。
そもそもシナリオに「SASUKEのように」って書いてあるからね!笑
シナリオブックのインタビューを読むに、この辺はおっさんず男性チームが譲れなかったところらしい。
ここを、劇場版ならではのお茶目なコミカルシーンと取るか、そうでないかで、この映画の評価はまっぷたつに分かれるだろうと思う。
だからして、
「え……ドラマではあんなに繊細に心情描写があったのに、何これ…」
てなった人が一定数いたみたいですね。まあそれも分からないでもない。
私?
私はスミマセン、一発目から大喜びでした!笑
いやー、どうも脚本の徳尾さんとは、嗜好が似ている気がするわ。私が好きだったドラマは、「バイオレンスジェミー」「ナイトライダー」「特攻野郎Aチーム」「スパイ大作戦」(昔の海外ドラマの方)、国内ものだと「太陽にほえろ!」が大好きで、欠かさず見てました。「トミーとマツ」なんかも覚えてるな。
鳳凰山リゾートの悪玉感とか、赤と青の線が巡らされた時限爆弾とか、窓から工場の煙突が見えるとかね、いちいち
「そうそう、それな!」
と膝を打ちたくなる。
倉庫編冒頭の、近隣を揺るがす規模の大爆発なんか、樹の影から黒いサングラスかけた大門さん(未知子先生ではない方の)が出てきそうじゃないですか?
おっと、お若い方には分からないネタでごめんくだされ。興味がおありの方は、「西部警察」でググってみると面白いかもしれんぞよ。
※以下レビューですが、台詞はうろ覚えです。大体のニュアンスでよろしく。
春田が捕らわれた倉庫というか、部屋というか、人質を監禁する場所としては何ともテキトーでいい加減ですね!
そしてゆいP演じる薫子の出オチ感がすごい。
アップになったとたん、観客席からどよどよっと笑い声があがってたもん。
シナリオブック見ると、台本より相当自由度が高いキャラみたいだけど、あのちょいヤンキー入った令嬢キャラ、(あーおとうたまが甘やかしの放任ならあり得るわー)と不思議なリアリティがあって、よかったです。何より面白かったしな!
助けに来たはずの春田もまた捕まったと聞いて、
「オラ、ケータイ」
「え?」
「ケータイ出せっつってんの。持ってんだろ?」
と主導権は完全に薫子お嬢様。
そして取り出した春田を見て、
(スマホ、持ってんだ……)
とズッコケた観客は私だけではなかったはず。
人質である薫子の前にズラリとお菓子が並んでるのはご機嫌取りとしても、スマホは取り上げないわ、おもちゃみたいな時限爆弾は剥き出しで置いてあるわ、ご丁寧にハサミまで用意されていて、この場面は
「さあどうぞ、ツッコミたい方はご自由に!!」
というおっさんずチームの確信犯的な演出を感じますね。
チッチッチッチッ…と音が出る時計みたいな機械があって、赤と青の線があれば、それは時限爆弾装置と相場は決まっとる。
そして赤を切るか青を切るか、刻々と迫りくるタイムリミットに脅かされつつ、脂汗を浮かせながらどちらかを選ぶ……という場面を、古今東西、色んなドラマで何度も目にしてきた記憶があるが、薫子お嬢様は殊の外男らしいのだな。
「赤切るわ」
とさっさと赤を切ろうとする。
「ちょちょちょ、ダメですダメですって!! 絶対ダメですって!!」
「分かったよ! 切らねーよ!」
と一度は春田をなだめるものの、春田がほっとした隙をついて躊躇なくばちん!とハサミで赤線をカットしてしまう。
20:12:46と表示された時間はめでたく進むのをやめ……とはならず、なんと、0:10:12と大幅に短縮されてしまった。
「マジごめん……青だったわ」
と今度は青線を切ろうとする薫子。
「いやいやいや、ダメですって! 何やってんだよ!!」
「勘はいい方なんだよ!」
「何言ってんだ勘よくねえだろがよ!!」
と、必死になる春田と薫子の…というか、田中圭とゆいPのアドリブ合戦が可笑しい。
そしてこの場面、
「アンタ、未練とかないの?」
と薫子に問われた春田が、もう一度(もし死ぬのならあの選択に悔いがないかどうか)を自分に問い直す場面でもある。
「めちゃくちゃありますよ……」
というのが、春田のファイナルアンサーだった。
「あー何、振られた?」
「いや……こっちからっつーか、その…」
ここ最近の牧との関係を振り返る春田。
「あいつの夢の足手まといになるくらいならと思って…」
「えー、身を引くとか、優しいじゃん」
「いや……違いますね。……嫉妬、です」
自分の言動の動機を探り当てるのは、春田の方が早かった。
理論派の牧に比べて、春田はどちらかというと、自分の「感覚」を頼りに生きている。
その分、「本音と建前」を間違えることがあんまりないような気がする。
そしてこの「嫉妬」は、狸穴さんと牧がどうこう…というようなものではなくて、純粋に、夢に向かって突き進んでいく牧に、男として嫉妬した、ということだと思う。
「おっさんずラブ」というドラマ、正統派コメディでもあり、ラブコメのラブの部分が予想外に育ってしまって、純愛ドラマとしても完成された作品だけれど、「お仕事ドラマ」の側面も持っているのが魅力のひとつだ。
レビューの最初から書いているけれど、このドラマのキャラは誰もかれもちゃんと仕事をしている。どこぞの出来の悪いBLのように、隙あらばホコリをかぶった資料室にしけこんだり、夜の会議室でけしからん真似に及んだりするキャラはいない。
本社から来たエリートである牧は、将来を嘱望された有能な社員で、その人材育成の一環として東京第二営業所へやってきたという背景が、劇場版で明かされている。
一方春田は春田で、信念を持って顧客に接してきたことが、ドラマでも劇場版でも、手抜きせず丁寧に描かれている。
牧との歳の差について、春田の口から語られることはないけれど、自分より8歳も若い牧が、将来のビジョンをちゃんと持って、夢に向かって着実に進んでいる(ように春田には見えている)姿に対して、焦りを感じているだろうことも、映画の最初の方で提示されている(帰国して間もなくのわんだほう)。
本社に召喚されて、狸穴リーダー直属ということは、それなりに役職もあるポジションではなかろうか。
一方春田は、営業所で相変わらずの平社員……
2人のプライベートを取り巻く環境と、仕事での状況と、ダブルコンボでこのすれ違いを引き起こしたことは想像に難くない。
そしてそのことが、こうなってみて初めて、切実に春田の目の前に突きつけられたのだった。
そんな自分のつまらない嫉妬のせいで、最愛の恋人に別れようと言ってしまった。。。
「こんなことになるなら、最初からちゃんと応援すればよかった……」
言いながら、声が涙声に変わり、春田はその場にしゃがみこんでしまう。
深い深い後悔。
ここを生きて出られたなら、牧ともう一度会えたなら、今度こそ春田は選択を間違えないだろう。
この場面、画面にははっきりと提示されないけど、恐らく春田はポケットの中にあの指輪を持っているんだよね。
時間に余裕があったなら、きっとそれを取り出して、思いを新たにしたはず。
……しかしこの劇場版のサブタイトルは「Love or Dead」。
そんな悠長なことをしているヒマはないのであった。
「ヤバい、あと30秒!!」
「えええー!!」
泡を食って時限装置をどうにかしようとする二人。
この薫子お嬢様の巨体を春田が肩車するって、究極の選択だと思うけど、これぞ火事場の馬鹿力。うぉぉぉぉー!!と持ちあげちゃう春田。「意外と重いよ!」の声が笑えます。ゴメン、全然意外ではないけどな!
都合よく割れているガラス窓から爆弾を放り投げた後、お嬢様らしからぬ雄叫びをあげる薫子。
さらに続く!!