おっさんずラブが好き!

ドラマ「おっさんずラブ」の細かすぎるレビューブログ。OLの深い沼にハマって当分正気に戻れません。ほぼおっさんずラブの話題しかないかもしれない。ネタはバレまくりなのでご注意を。

劇場版おっさんずラブ感想(がっつりネタバレ)⑩ 炎の中の二人

 炎の中に取り残された春田と牧。

 何とか脱出ルートを探し出すべく、歩けるところを探して歩いている。

 二人とも、姿はボロボロだ。顔には土埃がついて黒くなっているし、シャツもズボンも泥や煤で汚れている。オフィスでのしゅっとしたイケメンぶりは見る影もない。

 その分、余計なものも剥がれ落ちている。

 例えば、会社での立場の違いとか。仕事を頑張ろうと思うあまり、つい相手と自分を比較してしまう心とか。

 そんなものは全部、外の世界だ。

 閉ざされた空間で、しかも死の危険と隣り合わせ。いらない見栄も意地も、張っている場合じゃない。

 春田に肩を貸す牧も、抱えられて足を引きずりながら歩く春田も、多分このとき、考えているのは相手のことだけだと思う。



「あのさ……やっぱ、取り消してもいい? 別れるって言ったの」

 春田の声音も口調も、すっかり元の春田だ。ぎすぎすした棘もなく、気負いもない。

 ただただ素直な、春田の生の感情を表す台詞。

「え、今?」

とツッコむ牧の声も同じ。観ながら(え、今?)と同じタイミングで私も思った。笑

 でも、こうやって、危機的状況の中、二人で身を寄せ合っていると、「相手がどんなに大事な存在か」を鮮やかに感じるのだと思う。

 あれから時間も(多分)経っている。ジャスに涙ながらのお説教食らった後でもある。

 軽率に別れ話を持ち出した自分を、十分後悔しただろう。

「なんかさ……牧にだけ夢があってさ……毎日忙しくて、すげームカついちゃってたけど」

 だよね。映画の冒頭から、「夢」が通奏低音のように流れていたよね。

 「わんだほう」で久しぶりに牧とさし飲みの機会を得たものの、春田の心配をよそに、牧は夢が叶いつつある充実を語っていた。その牧の夢も、本社に戻ったことも、ちずは知っているのに自分は知らなかった。鉄平兄もなんだか夢について語っている。

 自分だけ確たる「夢」を持っていないことや、一年ぶりの帰国でプチ浦島状態であることから来る疎外感は、実はずっと春田について回っていたのだろう。

 恋人としてだけでなく、同じ社会人の一人の男として、牧に嫉妬を感じていた春田は、素直にここでそれを吐露する。

「よく考えたら、オレにもあったから。夢」

 そう、春田だって信念とプライドを持って仕事にあたっていることは、ドラマ版からずっと、きちんと描かれてきた。

 それは劇場版でも変わりない。

 牧ほど理論的ではない春田、ことさら自分の信念や夢について言語化してみなかっただけで、それは最初から、ちゃんと春田の中にあったのだった。



「どんな夢か聞かねえの?」

「……聞かないです」

「聞けよ」

と、すっかり元の調子に戻った二人のやりとりが微笑ましい。



 ここでなぜ、牧は春田の夢の中身を聞かないのか?

 諸説あるだろうけど、性格的にツンデレな牧くんにシンパシーを感じる私としては、

(あーこの場面なら私も聞かないなー)

で終わりでした。スミマセン。笑

 あのね、ツンデレさんの思考回路って、「相手がこう聞いて欲しいだろうなという既定路線を行きたくない」んですよ。

「お若いですね」というお世辞を真に受けて「何歳だと思う?」と聞き返されると、推定年齢より-3~5歳くらいな年齢を言うのが大人の嗜みじゃないですか? でもアレ、イヤなの。言って欲しくてウズウズされちゃうと、余計言いたくないの。大人気ないのは重々承知してるけど、絶対言わないの。それと同じ。

 だから、牧の心理を勝手に代弁すると、

・「その夢ってなんですか?」とありきたりな質問で返すのがイヤ

・ていうか春田さんの夢なんて大体想像つくし

・それがすぐ分かるくらいには春田さんのことずっと見てきたし

・春田さんが何を言っても絶対応援する自信あるし

・そんで正直今それどころじゃないから、落ち着いた状況でちゃんと聞いてあげよう

そのためにも絶対生きてここから出なければ…!!

というところではないでしょうか。



 

 牧くん、公式さんからもドSだドSだと散々ドS認定されてきたけど、キャラ属性としては、ドSというよりも「ツンデレ」だと思う。

 だからね、春田の「取り消してもいい?」に対して、YesともNoとも言わないじゃないですか。

 でも、その次の、

「狸穴さんとは何もありませんから」

という台詞が、牧からの答えになっているわけだ。

 牧にとっては、狸穴リーダーは尊敬する上司であって、それ以外の何者でもない。(もしかするとコナかけられてる?くらいな疑惑は感じていたかもしれんが)

 疚しいことなどないから、春田にいちいち説明も断りもしなかったけど、ここへ来て突如この台詞。何も言わなかった牧が、自ら春田に説明している。

 地味だけど、牧の心境の変化を示す大事な台詞だと思う。



 ここへ駆けつける道すがら、牧も散々後悔したはずだ。

 春田からの「別れようぜ」に、なぜあんな簡単に「そうですね」と言ってしまったのか。

 そこからの、

「今までありがとうございました」

という総括が早すぎるんだよ。一体何秒後よ。10秒かかってないだろ。

 あれだけ苦労の末に手にした恋、諦めるのが早すぎでしょー!!

 大体アンタ、ドラマのときもそうだったやろ!? 勝手に別れを告げて、勝手に「ありがとうございました」って頭下げてさあ!!

 引き際良すぎるんだよ!! はるたんに振られて、「なんでえーー!!」と泣いて縋った武蔵にすこーし爪の垢分けてもらって煎じて飲め!!!(マジ泣き)




 ……おっと、取り乱しました。失礼。

 コホン。



 仕切り直しまして。

 まあともかく、牧くん自身、そんな自分を顧みて、反省したのではないでしょうか。

「自分にとって当然のことでも、相手には言わないと伝わらない」

と、少しは分かったのだろう。

 だから、

「狸穴さんとは何もありませんから」

という台詞になった。

 だってこれ、恋人としての台詞だよね。別れてたら関係ないもんね。

 これがつまり、

「別れを取り消してもいい?」

と言った春田への、牧流の「Yes」なんだな。





 まだケンカモードだったら、春田も

「だから何だよ」

「つーかさっきの、聞いてた? ハイかイイエ、どっちなの?」

と問い詰めてもおかしくない、遠回りでなおかつメンドくさい回答ではある。

 でも、春田の方も、

「ああ」

と素直にうなずく。

「何見たか知らないですけど、仕事の話してただけですから」

「うん」

 元々、それほど根深く疑ってはなかったんだな、春田。

 そして、牧のこういう話法にも、きっと自然と馴染んでたんだな。



 若くてイケメンでフレッシュなエリートだけど、本心は隠すし、実は会話のキャッチボールがヘタだし、ヘンなところに地雷あるし、色々とめんどくさい男でもある牧凌太。

 春田ののほほんとしたお人よし加減や、絶妙な鈍感力で、牧が救われていた部分も多々あったに違いない。




 二人がやっとお互い身ひとつ、「余計なものをしょってない」という意味では裸に近い状態で向き合って、「やっぱり一緒にいたい」と同じ結論を出したこの場面。

 ここで、またしても春田の上に燃える何かが崩れ落ちてくる。

 

「危ないッ!!」

 

 どん!と春田を突き飛ばした牧、燃え崩れる柱の下敷きになってしまう。

 牧の脚の上にどっかりと乗った柱は重量・面積ともにかなりの規模。

 幸い、春田によってすぐどけられたが、牧の傷は深そうだ。

 足を動かすことが出来ない牧、ここまでと思ったか、

「大丈夫です! いいから先行って!!」

と春田を行かせようとする。

 が、春田、牧の方に背を向けて「おぶされ」のジェスチャー

 牧の渾身の叫びにも動じず、

「早く乗れよ!」

と叫ぶ。

 ここで自分だけ助かろうなどと、春田が考えるはずもない。

 牧も意地を張らず、素直に春田の背におぶさる。




 …と、真面目にレビュー書いてますが、実はこの場面もこれまで同様、周りの燃え具合が実に都合よくてですね、観てると

(火薬の量調節するの大変だっただろうなあ…)

とか、

(これだけ床が燃えてても、すぐ隣の布とか天井が燃えてないの、難燃性の素材か、消火剤のスプレーかな?)

とか、色々考えてニヤニヤしてしまう場面でもあります。

 まあ、何でもいいんですけどね。

 面白ければ、そして春田と牧が可愛ければ、そのほかのことはどうでもね。笑



 

 もちろん続きますとも!