「おっさんずラブ」というドラマがあそこまで面白い作品になったのには、田中圭と林遣都という実力派若手俳優二人に加えて、吉田鋼太郎という名優が揃った「演技の三つ巴」によるところが大きかったと思う。
それぞれがお互い、ポテンシャルのマックスまで出し合って、本気でぶつかったからこそ、あの宝物のように輝く愛の物語が生まれたのだと思う。
我々視聴者は、春田と牧と部長のラブストーリーをはらはらしながら追うと同時に、3人の役者のガチンコ演技バトルを毎週見守っていたのだ。
雑誌のインタビューではないので、何気ない会話にまぎれているけど、座長と遣都の副音声でも、鋼太郎さんについてたびたび触れられている。
(ベンチで武蔵の手作り弁当の場面)
圭:あ、出ましたよ。ついにこのシーンが
遣:手作り弁当
圭:笑イヤイヤもう……おれここ好きなんだよ。
遣:「ドキドキする」?
圭:鋼太郎さんのこれ。…ちょっと待ってね
圭:これこれ。「よしよしよしよし」って笑
遣:あー笑笑
圭:ホントすごいよね、鋼太郎さん
(「あードキドキする!」)
笑笑
圭:ホントに女の子っていうか乙女なんだよなーw
遣:なんかすごいみんな乙女って言いますけど、僕はやっぱ見てて、牧の立場か分かんないんですけど、ちょっとでも春田さんが隙を見せると、すぐこう、なんていうか、乙女じゃなくなって、もう野獣みたいになって…
圭:笑分かる分かる分かる分かる分かる分かる笑
撮影してても、ホント本番中に、マジどさくさでオレの乳首触ろうとするから鋼太郎さん。スゲー求めてくるから笑 確かに分かる。隙見せたらヤられる感はある。笑 この急にさ、部長モードに入るのもさ…ズルいよなー…
遣:今まで鋼太郎さんと二回ご一緒させていただいていて、全然こういう関係性の役じゃないんですけど、親子だったりとか…あ、親子なんですけど、全然そんな台本に書かれてないのに、二回とも、芝居の中で、キスされてんすよ
圭:へええー!
遣:どっちともケンカのシーンなんですけど
圭:ケンカのシーンで親子でキスする?
遣:うわちゃーてなって、笑笑もう勢いでチューしちゃう、みたいのを、よくやるんですよね笑
圭:それはなに、イメージ的にはダチョウ倶楽部さん的なやつ?
遣:そうそうそうそう! そんな感じそんな感じ
圭:あー……よくやる? 笑笑
遣:今回はもうガチのアレなんで、触ってくるとか、ちょっと油断したら、ホントにカメラ映ってないところでいっぱい触ってくるじゃないですか笑
圭:うん。いっぱい触ってくる。笑
遣:今回はすげえ多いですよね。
圭:しかも触り方が、なんていうか、エロうまいっていうか、なんていうのかな、なんかこう、大人の男性のすごいものが凝縮してる手の動きで来るから、マジでホントに笑っちゃう
遣:(ドラマの)話が入って来ないっす笑
圭:ずーっと背中触るんだよね… でさあ、これ映ってないんだけど、普通にほっぺとか耳とか、顎クイじゃないけど、顔をこう…それが終わったんだけど、ほっぺ散々触られた後に
遣:あ、今やってた?
圭:やってたのこれ。
遣:あー回想のところで
圭:で今膝触ってるの、この時段々ちょっと上がってるから!マジで
笑笑
鋼太郎さんに言わせると、「男同士だからってセクシャルなことを控えるんじゃなく、むしろどんどんセクシーにやってもいいのではという考えもあって」ということだ。(ザ・テレビジョン2019年1月号P113より)
鋼太郎さんは、役者田中圭が「何でもあり」で、何をしても受けてくれる、と全幅の信頼を寄せていることもよく口にしているので、それもあって、この場面がこうなったのだと思われる。
ちなみに、遣都にキスしたことは鋼太郎さんもよく覚えているようで、
「本番で予告なしに頭にチューしたら、素の顔になっていました(笑)」と語っている。うーむ、確信犯!
今手元にないんだけど、こないだ読んだインタビュー記事では、若い役者たちの演技に対して「そう来るのか!」と嫉妬に近い感情を覚える、というようなことが書いてあったと思う。
自分よりずっと歳もキャリアも下の若い俳優の演技に対して、上から目線ではなく、あくまで対等に、相手の力量を認めて、なおかつライバルとして接しているわけだ。
本当に力がある人ってこうだよなあ…と感じ入ったので、その記事を取っておこうと思ったんだけど、うーん、どこやっちゃったんだろう。確認できないのが口惜しい。
で、その鋼太郎さんに対して、遣都が自らの心構えを語っている部分がある。
画面は居酒屋でやけくその告白をする牧と、その牧に暴言を吐いちゃう春田の衝突の場面。
圭:こんな話してる中でも、二話の三大名シーンのひとつが流れてますけれども
遣:あー…
圭:二話の三大名シーンがあるじゃないですか
遣:まあそうですね
圭:まあ僕らの中での、多分一緒だと思うんですけど これ、ケンカの後じゃんオンエアは。
遣:そうですね
圭:皆さん、あのー屋上のケンカの前にこれ撮ってますからね。だから、さっき何やったんだお前らは!?みたいな笑 どんなケンカしてたんだって、分かんないでやるときの怖さもあるよね
遣:めっちゃありますよ。ましてやっぱ鋼太郎さんみたいな人とやるのは…
圭:ねえ。何するか分かんないしさ
遣:どうなるか分かんないんで…
(居酒屋で牧がやけの告白をした後出ていく場面)
圭:このシーンはね…せつなかったね…
遣:屋上のシーンは台本もらったときからやっぱり……単発でもケンカのシーンありましたし、やっぱすごい…ちょっと気合入ってる部分あって、やっぱ順撮りじゃないんで、「先手打とう!」ってずっと決めてたんですよね
圭:笑笑
遣:段取りからマックスでいって、自分の出せるもの全部出して…ていうのを、鋼太郎さんとやる上でテーマにしてました
圭:そうだよね。めっちゃ先手打ってたからね
遣:笑笑
「鋼太郎さんみたいな人とやるのは」「何するか分かんない」というのが2人の共通認識らしいのが可笑しい。笑
で、遣都くんもこうして、演技で張り負けないよう、十分準備をした上でぶつかっていたんだな。
それを受けて、鋼太郎さん、これもまた誌面インタビューだけど、
「このメンバーでの演技合戦には非常にカタルシスがある」
と言っている。
まさしくバトルが繰り広げられていたんですね。
田中圭演じる春田創一というキャラ、一見ダメンズでポンコツリーマンだけど、このラブコメディの核となる上で、緻密に計算された演技によって創り上げられている。
徹底して受け身で、牧と部長から寄せられる愛の間で翻弄されて、おろおろする。その性質は、体幹が定まらない立ち姿や、足元がおたおたと覚束ない妙なダンス、そしてバリエーション豊かな変顔で表現されている。
かと思えば、本当に大事なことは本能というか肌感覚で感じ取る春田、ここぞというときにはこれ以上ないくらいキメるので、そんなギャップがこの沼を巨大化させる要因にもなった。
切ない担当の牧凌太と、コミカル担当の部長、この2人もキャラがきちんと成立していて、第一話からラストまでぶれがない。
春田というキャラがしっかりしているから、牧と部長がなぜ春田を愛するのかも、特に台詞になくとも自然と視聴者に伝わって、我々がこのラブストーリーを心から応援することが出来たのだと思う。
芝居とは何か、役者が本気で表現すると何が可能なのか、そんなことも副音声の合間から窺い知ることが出来る。
改めて、私たちは毎週土曜日23:15から、凄いものを見ていたんだなあ、と実感します。