宮本浩次はヘンな人だ。
初対面(というか正確には会ったことがない)MCの大泉洋にあげたお土産のチョイスが葛飾北斎「赤富士」のクリアファイルとマグネットのパンダ。なぜにそのチョイス。
上野を散策しながら、いろんなことを話す。冷静に話しているときは普通だけど、興が乗ってくると、話の順番がおかしなことになる。多分、話したいことが多すぎて、でも言葉にするスピードが追いつかなくて、時々頭の中で迷子になるんじゃないだろうか。椎名林檎との新企画の経緯を聞かれて、「えーと………(長い沈黙)あの、去年の紅白なんですよ(唐突)」みたいな。
頭の中身がするすると出てくると、
「ネコが好きなんですよ」
「というかその辺のもん全部好きなんですよ」
「カラスも好きですね」
と畳みかけるように続け、脈略というものがなかったりする。聴き手の戸惑いは伝わっているのかどうか。
話しながらさかんに手が動く。ほとんど手話か?というくらい動く。
話の途中でふっと
「あ、こっち行きます?」
と違う方角を指す。
指したかと思うと、元の話に戻って、オーバーアクションで話し続ける。
オーバーアクションといえば、椎名林檎とのコラボで歌った「獣ゆく細道」、ほぼ動かず直立で歌う林檎の横で、くねくねと細い手足をくねらせて踊りともつかないフリで歌い続けた挙句、画面から出てくる勢いで爆発していたのが強烈な印象だった。
しかし、いったん彼が歌い始めると、込められた「何か」に反応して、見ているこちらの動きが止まる。
「流し聞き」が出来ない。
本職歌手だから、もちろん巧いんだけど、巧いからじゃなく、魂を震わせて歌っているのが伝わるから、こちらの魂も共振して震える。
挙動だけ見ていたら本当にヘンだな…と思うことも多いけど、単なる変人なんかじゃもちろんなくて、豊かな知性と、衰えない好奇心と探求心、いろんなことを面白がるユーモアとか、たくさんのものがひとつの人格に同居しているのだと思う。それぞれのボリュームが大きいから、「同居」というにはあまりにも密度が激しいけど。
生きていると本当に様々なことがある。それを全部真に受けて、感情が揺り動かされるままに過ごしていると、人にとってストレスが大きいから、大人になると受容のボリュームを絞ることが出来るようになる。要は、喜怒哀楽の幅を自ら狭めるわけですね。
思うままコントロール出来ればいいけど、ずっと絞ったまま生活しているうちに、いつの間にか受容の感度が鈍っていたり、喜怒哀楽そのものの振れ幅が小さくなっていたりもする。
宮本浩次という人は、その辺、ボリュームを下げないまま、振れ幅が大きいまま、世の中の色んなことを「感じる」ことから逃げずに生きてきた人なんじゃないかと思う。
エレカシの歌を「好きだ」と思ったのはいつだっただろうか。
多分「今宵の月のように」が最初かな。特にファンだという自覚もないまま、いつの間にか「好きな歌手」ランキングの10位以内に常に入っているようになった。
エレカシが出ていると歌番組を録画する。宮本さんが出ている番組はとりあえず見る。
でも、音楽雑誌の特集を読むほどではない。だから、エレカシについても宮本浩次についてもそれほど詳しくはないし、wikiに書いてあるくらいの知識しかない。
そんな温度と距離感。
そういう、ライトな一般ファンから見た「SONGS宮本浩次」。
見ごたえがあり、面白かった。
ずっと元気で、衰えずにエネルギッシュな歌を作り続けて欲しい。
魂を込めて歌う姿を見せ続けて欲しい。
同じ時代に生きていて幸運だった、と思わせてくれるうちの一人だ。