おっさんずラブが好き!

ドラマ「おっさんずラブ」の細かすぎるレビューブログ。OLの深い沼にハマって当分正気に戻れません。ほぼおっさんずラブの話題しかないかもしれない。ネタはバレまくりなのでご注意を。

翔んで埼玉

 「翔んで埼玉」が面白い。

 埼玉を舞台にした史上最強のギャグ映画だ。魔夜峰央のマンガを読んだことがある人ならご存知の通り、耽美なキラキラ、トンチキなギャグ、ツッコミ不在の不条理が詰め込まれた本作、そのテイストが余すところなく実写化されている。

 よくこれを「実写化しよう!」と思いついたな。企画の立案者も、OKを出した人も、正気を疑いたくなる。

 いやー、よくぞ実現してくれました。

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 最初から魔夜峰央ワールド全開だ。真っ白な画面の中踊りながら行きかう見目麗しきバレダンサー(男性)たち。

「最初にお断りしておきますが、この物語はフィクションであり、実在の人物名団体名、特に地名とは一切関係ありませんので、そこんとこよろしくお願いします」

と、原作者ご本人が出てきて念を押す。出たがりのミーちゃん、ご健在なようで何よりです。

 そう、この「翔んで埼玉」の勝因は、「フィクションである」という建前を前面に押し出し、徹底的に「日常」を排したところにある。

「どうせトンチキをやるのなら思い切って振り切れ!」

という、お手本のような作品になっております。



 舞台は白鵬堂学院。何の説明もないが多分幼稚舎からエスカレーター式の、高等部なんだと思う。ベルサイユ宮殿と見まがう白亜の校舎。行きかう生徒たちはまるで宝塚の舞台のように少女漫画チックに美しく、というか本物の宝塚の人たち(多分)が演じているのだった。

 主人公麻美麗を演じるのがGakt。芸能界で「現実離れしている人」という条件で探したら真っ先に名前が上がりそうな人。

 ガッくんの非日常さが超絶ハマってる。高校生を演じる年齢かどうか、そんな些末なことはどうでもいい。「え、どうでもよくなくない?」と思われる方、どうぞ本編を見てください。多分この映画を見てそこが気になった人はいないんじゃなかろうか。

 どういう映画かと言うと、冒頭のこの部分を説明すれば事足りるだろう。

 転校してきた麗に学院を案内する女子生徒たち。

「都会指数…?」

「その人間がどれだけ都会的な環境で生活しているのかということ」

「A組の生徒はみんな、赤坂や青山に住んでいますのよ」

「B組からは違うのか?」

「ええ。B組からD組までは都会の上位層…中央区や新宿区、横浜の人たちなんかがいるわ」

「でもE組までいくと最悪ね。都会といっても田無や八王子から通ってきている。都会指数ゼロ…!」(侮蔑しきった眼差し)

「あれは」

「ハッ、ダメよあんなもの見ちゃ!」

「あのクラスは元埼玉県人だった連中がいるクラスよ! 父親の仕事の都合か何かで今は東京に住んでいるの」

「それなら今は同じ東京都民じゃないか」

「あんな田舎臭い連中と一緒にしないで!!震えが止まらないわ…」(泡を吹いて倒れる)

「あいつらは今でも通行手形がなきゃ街も歩けないのよ!」

「生まれが埼玉だなんてなんておぞましい…!」

「ああイヤだ!! 埼玉なんて言ってるだけで口が埼玉になるわッ…!」



 大体こういう感じ。

「え、これで足りてる…?」

と思う方は本編を(以下略)



 いやーもーこの映画の成功はキャスティングが命だよね! ガクトもエライけど、何と言っても立役者は二階堂ふみだと思う。魔夜峰央マンガ世界のマライヒみたいな「美少年」感を見事に再現しておる。

 真面目に考えたら、この役、結構な難役だと思う。「男装の麗人」ではなく「女優が演じる二次元の美少年」。そこを無理なく成立させているの、ホント凄い。

 どう凄いか、真面目に論じてみたいものだけど、そこを書こうとすると、どうにも筆が止まる。マジメなアプローチでは、この映画の持つ魅力を説明できないんだな。

 魅力を語り尽くすには、「おっさんずラブ」同様、1分に10行くらい費やす詳細なレビューを書くしかない気がするが、そんな時間も余裕も根性もないので却下。OLレビューのすべてが済んで、他にやることがなく、時間と体力が余っていれば考えてみてもいいかもしれん。

 なので好きな場面を幾つか挙げておくことにします。



【東京テイスティング

 

 説明しよう! 「東京テイスティング」とは、瓶の中の空気を嗅いでどこの空気か当てるゲームだ。白鵬堂学院の生徒会長・壇之浦百美が、麗の「都会指数」をテストするために行ったマウンティングのためのゲームだ。

 しかし、麗は瓶の中身を嗅いで

ハイブランドの香水の匂いと……飲食店のダクトから溢れ出る高級食材の匂いとが入り混じる気品高いハーモニー……銀座…?」

百美「…(ニヤリ)」

麗「いや……かすかに香る赤子たちの匂い……昼下がりのランチどき……これは、マダムたちの集まるハイソな街。白金だ」

とアッサリ当ててみせ、最後の難問も

「ツンと鼻につくスパイシーな匂い……まるで異国の地、インドの香り……だが……ほんのりと潮風の匂いがする……これは、最も東京でインド人が多く住み、なおかつ海が近い場所。西葛西!」

と看破する。

「都会指数の著しく低い西葛西を当てるとは…ッ」

と、自分が仕掛けたゲームに敗れた百美は悔しそうに顔を歪める。

 「都会指数が低い場所も匂いで分かっちゃう」ことと、「分かっちゃう人の都会指数が高い」ってことは、矛盾しないのかなー…という疑問がうっすら胸に生じるが、そんな細かいことをツッコんだらこっちの負け!



【草を食えば病が治る埼玉県人】

 

 具合が悪くなった女子生徒を抱えて医務室へ行こうとする加藤諒を百美が止める。

「Z組の生徒だな。医務室を利用できるのは東京都民だけだ!」

威圧した挙句、

「埼玉県人にはそこら辺の草でも食わせておけ! …埼玉県人ならそれで治る」

 傲然と言い放つ。

 このシーンが予告でも使われていましたが、予告だけ見たときはまさかこんな抱腹絶倒の映画だとは思いもしなかった。

 ちなみに、そう罵られた当の埼玉県人は、言われた通り草を食べようとして、麗に止められる。

「そんなものを食べても治らない」

 そらそうだ。

 埼玉出身者にあてがわれている教室は、掘っ立て小屋と呼ぶにも躊躇われるようなボロ小屋なんだけど、そこで東京への憧れを語る加藤諒のところへやって来た女子生徒と

「ノブオー! 太郎がボットン便所に落ちた!」

「またか!」

というやり取りがあるんだけど、これもツボでした。

 具合が悪くなった子は「マサコ」なんだけど、「眞砂子」でも「雅子」でもなく「正子」なんだろうな、と分かってしまう(全国の正子さんには申し訳ないが…)。



【春日部で倒れる百美】

 

 麗と逃げ出し春日部までやってきた百美。(お話の進行的にそろそろ病気で倒れそうな予感…)と思っていたら、ビンゴのタイミングで百美が倒れた!

 高熱で意識を失った百美の手の甲には赤い斑点がたくさん出来ている。斑点を拡大してみると「さ」の文字が。

「これは……サイタマラリア…!」

 サイタマラリアとは、コガタカスカべ蚊が媒介する埼玉特有の熱病で、重症化すると死の危険がある恐ろしい病気。

「都内の医者はここまで来てくれない…」

と悩む春日部民たち。

「バカな。埼玉にも医者はいるだろう」

と麗が言うと、

「祈祷師なら!」

と一人が挙手して答える。

 ちなみに春日部の人たちは竪穴式住居に住んでいるので、確かに祈祷師ならいそう。



【流山決戦の有名人対決】

 

 終盤のクライマックス、悲願の「交通手形撤廃」を賭けて戦う埼玉解放戦線v.s.千葉解放戦線。絵面がなんか知らんけど凄い。並々ならぬ迫力が画面から伝わってくる。

 流山川を挟んで睨み合う両者。

「よし…アレを出せ」

 先攻千葉が掲げたのはX-JAPANYoshikiの幟。

「世界的なロックバンドX-JAPANYoshiki…!」

 埼玉勢に動揺が広がる。

「出身地対決か。望むところだ!」

 埼玉が掲げたのはTHE・ALFEE高見沢俊彦

「ライブ本数日本記録を持つアルフィーの高見沢…! くっ…嫌いじゃない…」

 千葉の次カードは真木よう子桐谷美玲

「若手人気女優と演技派女優を組み合わせた絶妙なカード…やるな」

 埼玉勢は反町隆史竹野内豊で対抗。

「あの組み合わせは、まさにあのドラマ…!」

 焦った千葉勢の次のカード、小倉優子

「弱いッ! もっと他にないのか!」

 次、小島よしお。

「もっと弱いッ!!」

 他のパンチのあるやつ…と選ばれたのは、市原悦子

 両陣どよどよっとどよめく。

「『家政婦は見た』市原悦子……強い…!」

 確かに! と納得して、ここも大爆笑。



 キリがないからこの辺で止めますが、まあともかく、登場する関東圏の都道府県総disり。茨城は「腐った豆を好む粘っこい」県だし、群馬は空にプテラノドンが飛んでる秘境だし、千葉は醤油臭が漂っている上、線路をヌ―の群れが横断し始めて列車が停止する。そして千葉解放戦線に捕まろうものなら、身体中の穴という穴にピーナツを詰め込まれて、九十九里浜で地引網漁の強制労働に就かされるという恐ろしい土地らしい。

 どんな場所なんだか行ってこの目で確かめたくなる、という副作用もあります。



 なーんも考えず頭カラッポにして思い切り笑いたいときにはイチオシの映画でございます。

 おススメ度★5つで!