おっさんずラブが好き!

ドラマ「おっさんずラブ」の細かすぎるレビューブログ。OLの深い沼にハマって当分正気に戻れません。ほぼおっさんずラブの話題しかないかもしれない。ネタはバレまくりなのでご注意を。

おっさんずラブ第三話② 春田創一の受難

 通りすがりのお婆ちゃんに対する丁寧な対応で、蝶子さんの信頼を無事獲得した春田。

 不動産の営業としては正解なのだが、しかし、これが春田の次の災難の始まりだった。



「君の会社に、ハルカさんていう子、いる?」

 遂に本題を切り出す蝶子さん。

「え?」

「ハ・ル・カ!」

 声に若干苛立ちが混じるのも無理はない。これを聞きたいがために、予想外に歩かされて音を上げそうになりながらも、我慢して物件探しのフリを続けてたんですもんね。お疲れ様です。

「ハルカさん、ですか……私どもの営業所にはいないですね」

 春田にそう言われても、蝶子さんは引き下がらない。暫く沈思した後、

「じゃあ、さ……本社にいないか、調べてもらえる?」

「…はあ……お知り合いかどなたか、いらっしゃるんですか」

 さすがの春田も不審げだ。そらそうだよね、ヘンな話だもん。

 しかし、蝶子さんがその場でこしらえた、

「友達の娘さんが働いているらしいんだけど、子供が生まれたみたいで、お祝いを贈りたいの」

「苗字は変わったから分かんないの。ホラ、結婚したから」

という超テキトーな作り話を鵜呑みにして、

「分かりました。聞いてみますね」

と気安く請け合ってしまう。



 これがもし牧だったら、

(その友達に直接聞けば分かるのに、なんで今日知り合ったばかりの俺に聞くんだろう?)

とすぐ気づいただろうし、マロなら

「え、その友達に聞けばいいんじゃないすか?」

とズバリ聞いてしまいそうだ。

 が、お人好しで礼儀正しい春田、多少(ヘンだな…?)とは思ったかもしれないが、お客さまに頼まれたことに対して事情を詮索したりせず、自分で出来る範囲のことはします、と引き受けてしまうのだった。

 蝶子さんが黒澤部長の妻だと気づいていないのもそうだし、細かい矛盾には気づかない鈍さや、頼まれごとを断れない押しの弱さも、蝶子さんなら見抜いていそうだ。

 しかし、この時既に春田の受難が再び始まっていることを、不穏なBGMが告げている。

 

―――この時のオレは、戦慄の泥沼離婚騒動に片足を突っ込んでいることに、まだ気づいていない―――

 

 この春田のモノローグを聞くと、

「片足じゃないよ。両足首ずぼっとハマってるよ!」

と毎度ツッコんでしまいます。

 

 



 さて、天空不動産の朝のミーティング。

 牧にじっとりした視線を送る武蔵。鋼太郎さん、視線だけの芝居うまいですね。「THE・嫉妬」を絵に描いたような眼差し。

 一方の牧、ポーカーフェイスを保っているものの、その視線には気づいている様子。そしてかなり鬱陶しそうだ。マイマイと武川主任が騒いでいた、黒澤夫妻の離婚疑惑のことも頭にあったかもしれぬ。

 そして春田。さすがの超絶鈍感ボーイも、自分の板挟み状態は自覚した模様。間に挟まれて、なんだか目を白黒させている。

 で、この三すくみなんだか三つ巴なんだかよく分からん状況のまま、老獪な黒澤部長はすっとビジネスモードに入って、朝礼がスタートするのだった。

「えー、前回のキャンペーンは、皆が頑張ってくれたお陰で、無事に目標を達成することが出来た」

 出来たんだ。そうかー、部下に告白した挙句病院で抱きついたり、その部下をめぐって別の部下と奪い合いのキャットファイトを屋上で繰り広げてたり、恋にウツツを抜かしてただけじゃなかったんだね。部長だけでなく、牧も春田も、ドラマが描かないだけで、みんなきちんとお仕事してたんだ。

「ヨッ!」

といち早く武川主任が反応して手を叩いているけど、それが事実なら確かにめでたい。天空不動産の営業部諸君、優秀である。

「今月も本社からいくつかオーダーが来ているが、その中で我々は『お一人様』独身者向けマンションに力を入れていきたい」

「お一人様……『様』つけられても切ないわねぇ」

 という、我が身に引き比べたマイマイの感慨が可笑しい。

「ペット可のところが多いっすよね」

「ペット飼ったらもうオシマイよ」

と、これはまあ、アラフォー独身女性にとっては常識でした。正確に言うと、「結婚願望を持つアラフォー独身女性」かな。ペット飼ったら、もうその後は一人で生きていく意思表明、みたいなところありましたな。今はまた変わっているのか知らんけど。

「働く女性にきちんと情報が届くように、オフィス街の宣伝にも力を入れたいと思っています」

 生真面目メガネの武川主任の台詞、実はマロのボケへの的確なトスになっている。

「マロ、サンドイッチマンやってくれ」

サンドイッチマン?」

 いわゆる宣伝マンとしての「サンドイッチマン」、マロには一発で伝わらなかったらしい。まあ世代的にね。

「え、オレどっちやればいいんですか」

「どっちってなんだよ。漫才じゃねーぞ」

と、春田と掛け合い漫才みたいになってて、お茶の間だけでなく営業所でもふふっと笑いが起こる場面なんですが、マイマイもアッキーも武川主任も(しょうがないなー)みたいな顔して笑ってるのに、あの人だけは笑ってないんですよ。気づいてました? 

 そう、林遣都演じる牧凌太。

 マロのボケに場が和んで、合わせて笑った方が無難であることを分かりつつも、隣の部長とのあれやこれやをつい思い出してしまってうまく笑えない……みたいな微妙な表情で、部長と反対方向に視線をそらしている。

 林遣都……演技が細かい…!!

 私の深読みしすぎだったら申し訳ない。でも、そう思って見ても全然矛盾しない演技で、これがまた本当に(牧だったらこういう表情しそう…!)と思わされるんですよね。

 でその間部長はと言えば、一心にはるたんに目をやってるの。

 もーなんなのこの人たち。この……演技オバケが!!



 

「キャンペーンのお疲れ会は春田に任していいか?」

 部長から話を振られて、

「ハイ!」

と春田は二つ返事。

「場所は皆さんに追って連絡します」

「じゃ…頼むぞ」

「はい」

というやり取りをした後、部長の様子をうかがう春田の顔が、以前とは違ったものになっている。

(…なんか仕掛けてくるのか?)

と待つ表情になっているように見えるんだけど、気のせいだろうか。

 が、部長はここで春田には仕掛けない。

 すっと視線をはずし、おもむろに立ちあがって、部屋の外へ移動――するかと思いきや、左手の甲が隣にいた牧の肩に音を立ててぶつかった。

 パン!て結構いい音したよ!

 衝撃にびくっと身体を竦ませる牧。一呼吸おいた後、

「……ごめんな」

 牧の肩に手を置いて、謝ってみせる部長。

 牧、無言。



 いいねいいねー!

 見える。バチバチバチッ…!と火花が散っているのが見えるぞ!

 色は高温を示す綺麗な青だぞ…!



 で、その水面下のバトルは、春田もしっかり目撃していた。

 尊敬する上司であり、今や恋心を告白して迫ってきている相手でもある黒澤部長と、気を許した後輩兼ルームメイトであり、同じく恋心を告白されたばかりの相手である

 2人が明らかに対立していて、しかも原因は他ならぬこの自分である。

 さあどうする春田……と言っても、彼女いない歴5年、恋愛スキルはマロ以下である春田に、この場で最適解が分かるわけもない。

 うろうろと落ち着きなく視線を泳がせたのち、とりあえずその場から離れよう、と席を立ちかけた春田の心境、察するに余りある。



 ……が、そうは問屋が卸さないのであった。




 続く!