おっさんずラブが好き!

ドラマ「おっさんずラブ」の細かすぎるレビューブログ。OLの深い沼にハマって当分正気に戻れません。ほぼおっさんずラブの話題しかないかもしれない。ネタはバレまくりなのでご注意を。

映像研には手を出すな!【1】これまでになかったタイプの新しい「部活」マンガ

 「映像研」の第一の魅力は、「部活もの」であるということだ。

 自分の身体は一つだから、興味を持つ対象があっても、あれもこれも試してみることはできない。漫画やアニメや小説でその世界を深く知ることは、実際の体験の代替行為になる。

 だから、一回もやったことがなくても、野球やテニスやバスケットのルールは知っていたり、リアルの試合観戦を楽しむことも出来るのだ。

 にしても、アニメって今まで扱われたことがあったのかな?

 そもそも「連載されている漫画を読む」という行為自体、遠ざかってもうん十年になるので知らないんだけど、「アニメ制作」に焦点が当てられたのは、少なくとも全国区で放送されたアニメとしては珍しいのではないでしょうか。



 若い世代は最早紙の漫画を読まなくなっていると聞く。けれども、この国でアニメの薫陶を受けていない世代があるだろうか。あんまりないんじゃないか?

 それにはやはり、宮崎駿監督の存在は大きいだろう。特に、ルパン三世の「カリオストロの城」や「風の谷のナウシカ」が公開された頃をリアルで知る世代にとっては、宮崎作品と言えば絵本でもあり教科書でもあったと言えるほどの影響力を持っている。

 いや、今ね、関西ローカルで早朝「赤毛のアン」やってるんですけど、クレジット見てスタッフがあまりにも豪華でビックリしたんですよ。監督が高畑勲、15話までは宮崎駿が作画スタッフに加わっている(カリオストロの制作のせいでアンから離れたそうな)。キャラデザは今は亡き近藤喜文氏。テーマソングは三善晃作曲・岸田衿子作詞ですよ。すげーな!

 NHKの深夜、「未来少年コナン」の再放送やってて、こっちも言わずと知れた宮崎作品。(「映像研」の初回にも登場しましたね)

 なんかこう、つくづくさ、私らって宮崎さんの作品見て育ってきたんだなあ……と思わされました。



 アニメ制作の裏話って、ジブリの公式本だったり、公開前の特集番組でちらっと窺い知ることが出来る程度で、がっつりそこを取り上げた作品て、今まであんまりなかったんじゃないかと思う。私は知らなかった。

 アニメが好きということは、もちろん裏事情も知りたいに決まっている。

 その意味でも、「映像研」は好奇心を大いに満たしてくれる作品であった。

 



 私も絵を描くのが好きで、子供時代は本当に絵ばっか描いてたんですけど、「絵を描く」という作業一つとっても、タイプは異なるのですね。

 本作の主人公・浅草みどりは、設定と世界観を考えるのが大好きなタイプ。空想に耽って、自分の脳内でずーっと遊んでるの、私もよくやった。あれって、一人っ子特有の一人遊びなのかと思ってたけど、そうでもないんだね。

 一話で出会って仲間になる水崎ツバメは、興味の対象が人物。スケッチブックにはひたすら人物のデッサンの練習絵がある。

 この二人が、お互い得意な分野を担当し、苦手を補い合うことで、アニメ制作に取り組んでいくことになる。

 



 でもですね、浅草みどりと水崎ツバメを結びつけるのは、自分は全然アニメに関心がない3人目、金森さやかなんですね。

「水崎氏、この浅草みどりとアニメを作りませんか」

と申し出ることで全てが始まる。

 既にアニメ研究会があるからと難色を示す学校側に、「映像研究会」として届け出を出すことで、活動を始めることを認めさせる。

 才能を見出し、組織を作り、活動を軌道に乗せていくプロデューサーとしての能力の開花ぶりはめざましい。

 この金森氏、初回から名言をばんばん飛ばすんだけれども、二人に

「我々はモラトリアムに守られているんですよ。失うものなんて何もない」

と檄を飛ばす場面は痛快です。見ていて非常にカタルシスを得られる。

 アニメ制作を支えるのは、実に有能なプロデューサーなのだということを示している点も、これまでのいわゆる部活漫画とは一線を画していると思う。

 全体の工数を把握し、締切を設定して作業を進めさせ、一方でクリエイターの気質や生理を把握して、かける言葉を考え抜いてチョイスする。

 この金森さやかというキャラクターは、金勘定にかけては一家言持っていて、金に関する名言の宝庫でもあるんだけど、それについては項を改めて書きます。




 人間の能力の中で、想像力って本当に凄いと思う。想像する世界の中では何をするのも自由だ。

 で、その想像を形にする手法のひとつがアニメ制作だけれども、人物の描き方、風景の切り取り方、カメラの回り具合によって、どんな世界観でも描くことが可能となる。

 毎回、3人が作品世界に入り込んで、その中で動き回る描写があって、楽しいんだけど、時として、予想よりも遥かに壮大で美しい風景を目にすることになり、本人たちもその壮麗さに息を飲む……みたいななりゆきになることがある。

 映像研が動き出して、最初の仕事を依頼するロボ研、背景を協力してくれる美術部、ほとんど映像研の一員になる音響部の百目鬼氏、等々、仲間が増えていくことで、描ける世界も規模が大きくなっていく。

 映像作品のモチーフが決まったとき、あるいは実際の映像作品が上映されたときなんかの、一番最後に

「ババーン!!」

とキャラの声が効果音を言うのが、浅草氏一人だったり、映像研の3人だったり、ロボ研も含めた大勢だったりするのも楽しいです。




 ところで、日本のアニメーターを取り巻く環境は、決して恵まれたものとは言えない。かつてジブリがアニメーターを募集したとき、提示された月給に対して、日本国内は「さすがジブリ、普通の会社員くらいな給料を貰えるんだ」という反応だった一方で、海外からは「えっ……天下のジブリのアニメーターがたったこれだけの報酬しか貰ってないの…?」的な反応が返ってきたとか。

 日本のアニメを作ってきたのは、手塚治虫宮崎駿という二人の天才だったことは間違いないけれども、膨大な作業量に対しての報酬を確保できない業界の体質を作ったのもこの人たちが原因と言われており、悩ましい状況だ。

 しかし、日本のアニメーションは世界に誇れる文化であって、この業界全体の体質改善は喫緊の課題と言えよう。

 優秀なアニメーターは相応の報酬を貰えるという、当たり前の構造があってこそ、これからも素晴らしい作品が生まれる土壌が出来るのだ。




「映像研」を見た若い世代の中から、浅草氏や水崎氏のような優秀なアニメーター志望が増え、のみならず、金森氏のようなシビアな金銭感覚を持ったプロデューサー志望者が増えるといいな、と思います。