武川さんと今ひとつ噛み合わない会話を交わした後、自分の席に戻った春田。
とそこへ、社外から電話がかかってくる。
「協力要請!」
電話の向こうは部長の奥さま、蝶子さんだ。
「協力要請……ハイ、なんでしょう」
とりあえずオウム返しにした春田に、蝶子さん、
「主人を尾行して欲しいの」
最初のミッションを申しつける。
「尾行…」
春田の返事の歯切れが悪い。
蝶子さんに協力するとは言ったものの、「主人を尾行」とは即ち、職場の上司である黒澤部長を尾行することに他ならない。
「…どうして?」
素朴な疑問が出てしまうのは、春田にとっては自然なことだ。
「あの人、家に手帳を忘れていったんだけど、今日の八時に予定が書いてあるの」
(今日の八時に予定……)
記憶をたどる春田の脳裏に、部長とのラインのやり取りが浮かび上がる。
「あ、それ、あの……」
自分との約束だ、と春田が言う前に、蝶子さんが
「『デート』って」
とかぶせてしまって、春田、言えなくなる。
「デ……デート、ですか!?」
画面には部長の手帳が大写しに。5/3(金)の欄に「デート♡」と確かに書かれている。ハートの内側がわざわざ赤く塗ってあるのが、部長の浮き立つ恋心を表していますね。芸が細かいです。
「七時に、本社前。いいわね」
一方的にそう言うと、春田の返事を待たず、電話を切ってしまう蝶子さん。
「ちょっ、ま、待っ……(ブツッ・ツー・ツー・ツー)」
途方に暮れた春田、思わず天を仰いで、
「部長ぉッ!!」
そこにいない相手にぶつける憤懣が、なんともユーモラスで可笑しい。
いや、憤懣じゃないな。はるたんは誰かに憤懣をぶつけるキャラじゃない。
怒り、憤りに通じる「憤懣」というよりかは、困り切って、困惑の原因を作った部長に対してなんとか言ってやりたいけれども、部長個人に対する人としての好意は揺るぎないという、絶妙なバランスの
「部長ぉッ!!」
だと思う。
この場面についてはこの記事でも言及しております。
営業時間を終えた天空不動産ビルの前。
既に「張り込み開始」モードに切り換え完了の蝶子奥さま。
一方春田の方は、一応待ち合わせ通りに落ち合ったものの、未だにこの状況をなんとかしようと、一人わたわたしている。
「確か部長、もう帰ってるはずなんですよね」
とジャブを繰り出してみるも、
「ううん。さっき業者のフリしてオフィスに電話したら、まだいるって」
アッサリ打ち返される。
「マル秘」(尾行対象者)の動向は張り込み開始前から押さえておく、さすが蝶子さん、抜かりないです。きっと「尾行 基本」とかの検索ワードでググって、予習しといたんだろうな。
「あ、そうすか…」
しおしおと引き下がった春田が次の手を考えつく前に、
「あッ、出てきたッ!」
小さく叫んだ蝶子奥さまに物陰に引っ張り込まれる。
見れば確かに、ビルから出てきたのは黒澤部長その人だ。
なんだか機嫌よさげに、口元に笑みさえ浮かべて、2人が身をひそめる「天空不動産」の看板の前を通り過ぎていく。
「行くわよ!」
と飛び出す蝶子さん。
「お腹が痛いですボク。あ、お腹が痛い……」
なんとかこの場を逃れようとするその気持ちは分からんでもないけど、所詮春田の打つ手は思いつきのその場しのぎで、本気100%の蝶子さんに太刀打ち出来るシロモノではないんだな。
そんな小芝居は気にも留めず、蝶子さんは春田を看板の陰から引っ張り出して、ずんずん進んでいく。
通勤のサラリーマンに混じって、待ち合わせの場所へと急ぐ黒澤部長。
その後から、距離を保って尾行する蝶子&春田のデコボココンビ。
「うちと反対方向だ……不倫相手の家でも行くつもりね」
「ええ~? どうなんですかねー?」
上の空で返事しながら、
(どうするッ…どうしたらいいんだ春田ッ…!)
一人苦悩する春田創一。
とその時、対象がふと後ろを振り向いた!
「ッ!!」
慌ててくるっと背を向けるデコボココンビ。
とっさに腕を組んで逆方向へ歩き出したのは、カップルを装ってのことでしょうか。
黒澤部長、怪訝そうに目をすがめて見ているものの、気になったのはこの2人じゃなく、別の対象だったんですかね?
結局、2人の尾行はバレることなく、目的地に着いてしまう。
これさ、幾ら後ろ姿でも、この2人に気づかないってアリなのかなあ…と、ちょっと引っかかった部分ではあった。
だって、30年連れ添った妻だよ? 一緒に住んでて毎日顔合わせるんだよ? それに気づかないって、もうそんなに愛が冷めちゃってるのか……と思ったんだけど、いやいや、もう一方は今現在熱烈に想いを寄せている当の相手じゃないですか。
気づきません? さすがに気づくでしょ?
……と思ったんだけど、人って、「そこにはない」と思い込んでいるものって、ビックリするくらい視野に入らないからな……と、後から考え直した。
目の前にあるのに、「ない、ない」と探し回るなんて現象、ザラにありますもんね。
あとは失礼ながら、黒澤部長のお年を考えると、老眼が酷いのかな…という解釈も出来るかと。笑
さて、とあるお洒落な店看板の前まで来て、微笑んで向きを変える黒澤部長。
その後から現れたデコボココンビ。途中から走り出した春田、看板の前で辺りを見回して、
「あれ!? 完全に見失いましたね!」
とまた小芝居。
だから、なんでそんな付け焼刃の芝居が通用すると思うのかキミは。
「今日は諦めましょう」
引き返そうとしたところを、
「何言ってんの?」
呆れた口調で止められてしまう。
「このお店に入ったでしょう」
(ちゃーんと見てますよねー……)
そらそうだ。
「ここで女と待ち合わせして移動する気ね。もーっ、いちいち腹立たしい!」
「仕事じゃないんすかねやっぱり」
「行くわよ」
「ちょちょちょ…、な、中に入るんですか!?」
「当たり前でしょう」
「僕帰ります」
「何言ってんの薄情者」
抵抗を試みるも、あえなく蝶子さんに捕獲されて、店の中に連れ込まれてしまう春田。
このコメディパート、部長にバレたら困るという緊迫感もありつつ、非常にテンポがよく、視聴者はスピーディなお話運びに安心して身を委ねて見ていられます。
そして「はるたんが困りまくる」場面で座長が繰り出す顔芸&モノローグで、さらに笑いのツボをピンポイントで押されまくる。
「完全に見失いましたね!」
からの、(ちゃーんと見てますよねー…)の辺りの、虚ろな目の表情と棒読み、最高に可笑しいです。
いやーホント、細かく書き起こしていても、アラがないですね。
ここ、レビューというよりは、場面をこうしてなぞって書いているだけでおかしい。
演出と演技の妙を存分に味わえる場面ですね。
続く!