心の声を読んでしまう魔法の力について、悩み始めた安達。
タイムリーな柘植の相談は、湊とささいなことから喧嘩してしまった、というものだった。
「早く謝っちゃえば?」
という安達のアドバイスはごくまっとうだけれども、
「……どう謝っていいか分からない」
という柘植の言葉もまた、陰キャとして素直な答えだ。
「忘れてた。人の気持ちを察する大変さを」
この柘植くんて、めちゃくちゃ正直な人だね。クセはあるけど。
そう、人とコミュニケーションをとるというのは、どんな場合においても、「気持ちを察する」という作業が不可欠だ。
そしてそれは、柘植の言う通り、「大変」なことなのだ。
相手が言う言葉だけでなく、口調や間、話すテンポ、声の高さ、表情、眼の動き、仕草、そんなものを、普段私たちは瞬時に読んで、判断している。
そして、自分から発言するときにも、頭の中で(この言葉を言ったらこの人はどう思うかな。どんな反応が返ってくるかな)とシミュレートして、言葉を選んでいる。
それはもう、ほんの一瞬の、コンマ何秒の作業。
人間社会で生きている以上、どんな人も、ものごころつくころから、日々修練を重ねて身につけるスキルだ。
AIが未だ人間をしのげない分野であり、我々人間にとっても、得意不得意が分かれる分野でもある。
柘植も安達も、このスキルに自信が持てないのだな。だから自ら「陰キャ」と認識しているわけで。
そんな彼らが、30歳の誕生日に「他人の心を読む力」を与えられた。それは神さまからのプレゼントだったのかもしれない。その力のお陰で初めて得られたものがたくさんあったわけだから。
でもやっぱり、それは「特例」なのだ。ネガティブな言い方をすれば「ズル」なのだ。
だから、一時的なもので、いずれは消えていく運命なんだな。
失って初めて、柘植には分かったのだ。
(自分の力でコミュニケーションをとれるようにならないと、この先ずっと大変なままだ)
と。
魔法の力を持っていたときには容易に分かった湊の心を、これからは自力で「察する」能力を身につけなければならない。
だから、安達に告げにきた。
「魔法の力に頼りすぎるな!」
と。
それは、安達にも分かっていることで。
(柘植の言う通りだ……気づけば知らず知らずのうちに、魔法の力に頼るようになってたかも)
最初は戸惑うばかりだった。他人の心の声が聞こえてしまう力なんて、(マジでいらねぇ~!!!)と、心底思っていたはずだった。
でも、黒沢に触れ、彼の自分への熱い想いを知らされることになり。
藤崎さんや浦部さん、六角の、表に出さない優しさに気づくことにもなり。
安達が自らの力を意図的に使ったのは第5話、不機嫌な取引相手の心を読もうとしたとき。
それも利己的な目的ではなく、一度はくじけそうになりながらも、(散々黒沢に助けてもらったろ!ビビるな!)と自分を叱咤して、黒沢の苦境を救うために頑張ったのだった。
結果、黒沢にも感謝され、(俺でも黒沢の役に立てた…)という自信にも繋がった。 心を読んで先回りしたことで、六角からは「気配りスト」として尊敬されるようになり、(俺が誰かに影響を与えることが出来るなんて…)と、低かった安達の自己肯定力が段々上がっていく。
デートの練習で遊園地に行った際には、黒沢の気持ちが分からない不安に勝てず、自分から手を伸ばして黒沢に触れた。
いつしか、魔法の力に慣れ、他人の心の声を聞くことに躊躇いがなくなってきていたことに気づく安達。
(このままでいいわけない)と、心を読むことを封印しようと決意する安達くん、真面目だ。
やろうと思えばいくらでも出来るのに、自分のためには魔法を使わないなー、とは思っていたのよね。前から。
(なるべく誰にも触れずに、心を読まないで、自分の力で……)
自分の手を見降ろして、そう誓ったそのとき。
「安達!」
駆け寄ってきた黒沢が思い切り抱き締めてくる。
目を白黒させる安達。
傍に六角がいることに気づいて、
「く、黒沢、六角が見てる」
と囁き、ぽんぽん、と身体を叩いて促すも、黒沢はなかなか離れようとしない。
「黒沢さん、喜び方、ワールドワイドっすねw」
見ていたのがすっとぼけたキャラの六角でよかった。王様ゲームでノリノリだった女先輩とかだったらコトでしたね。
「コンペ、一次通ったって!!」
「えー!? ま、マジか」
安達が変わり、周りも変わっていくことで、会社の中での意識にも変化が芽生えていた矢先。起こした行動のひとつがこうして実を結ぶの、嬉しいですよね。
「今夜から特訓だ」
いつだって安達のために全力投球の男、黒沢。
当然のように協力を申し出て、2人して第二次審査のプレゼンのために猛特訓することになる。
この場面、安達は極力黒沢に触れないようにしているように見える。
「プレゼンの基本は聴き手の負担を減らすこと。結論から話す。話す内容を予告する」
「勉強になります」
真面目にメモを取りながら聴いている安達。うーむ、黒沢先生によるビジネス講座、私も受けたいぞ。黒沢は多分、店を出せるレベルの料理の腕前と一緒で、
「安達のためになればそれでいい」
って言いそうだけど。
「プレゼンまで1週間、たっぷり特訓しよう」
と言ってくれる黒沢。
「悪いな。黒沢も疲れてるのに」
安達の気遣いにも、
「全然! 安達のコンペが審査通れば俺も嬉しいし」
100点満点のお答え。そしてこれを、本当に心底思っているのが黒沢という男だ。
「それに、この後の『お楽しみ』のためだからさ」
安達に気を遣わせないために、自分のためでもある、と強調する。
「最高の初デート。初めてのクリスマス。楽しいことしか待ってないから、何にも苦じゃない」
で、こっちもまた、黒沢の本心100%であることは、今や触れてみなくても安達にも分かってしまう。
「また、そんなこと平気で…」
赤面して言いかけた安達、思い直して黒沢に向き直り、
「俺も頑張るわ」
と宣言する。
そして、
「デ……デートを楽しむために」
自分も同じように楽しみにしてるよ、と、黒沢にちゃんと伝える。
安達の気持ちは黒沢にもきちんと伝わった。
フッと、嬉しそうに笑みを浮かべたあと、ふと悪い顔になった黒沢。
安達に身体を寄せて、
「なに? もう1回言って」
トボけたフリでそう言う。
「今絶対聞こえてたろ!」
「フフッ(笑)°˖✧ もう1回言って?」
「やだって」
「もう1回!」
「やだ」
あーハイハイ、ご馳走様。社内でそうやってイチャイチャしてたら、そのうち周りに気づかれると思うけど、このときの2人にはそんなことはどうでもよかっただろうね!
そんで多分、近くに藤崎さんがいて、よからぬ輩が近づかないようちゃんと見張っていてくれていたに違いない。
……とここまでは、安達と黒沢の2人も、2人を見守る我々視聴者も、幸せに満ちていて、この先に待ち受けている展開はつゆほども予想していなかったのだった。
続く!