おっさんずラブが好き!

ドラマ「おっさんずラブ」の細かすぎるレビューブログ。OLの深い沼にハマって当分正気に戻れません。ほぼおっさんずラブの話題しかないかもしれない。ネタはバレまくりなのでご注意を。

30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい 第12話感想 ①ドラマ時間と藤崎さん

 ピピピ、ピピピ、と目覚まし時計の音が鳴り響いて、安達が目を覚ます。

 もう我々視聴者にもすっかり見慣れた安達の部屋。



 ――俺の日常は完全に元に戻った。毎日、同じことの繰り返し――

 

 ――黒沢とは、あれからほとんど話していない。そりゃそうだよな。俺、たくさん傷つけたから……



 カレンダーに目をやり、(……ごめん。黒沢…)と安達の心のモノローグで始まる第12話。

 ここでカレンダーがアップになるから、このドラマ内で流れる時間の経過も分かるわけで、この場面、

(………ん?)

てなって、カレンダーを二度見した人も多かったはずだ。



 なぜなら、このカレンダーによればプレゼンは21日。そしてデートは24日の予定だった。

 となると、この日は多分23日で、プレゼンからまだ2日しか経っていない。

 冒頭の安達のモノローグだと、黒沢と離れてから数週間は経っていそうな雰囲気だけど、たった2日。

 日常が元に戻ったのはいいとして、「毎日」というほどではないし、「あれからほとんど話していない」というのも、そりゃ2日や3日なら話さなくても普通では……?と思える。



 これ、ドラマではしばしば見られる現象ですよね。

 ドラマ世界で経過していることになっている時間と、リアルな世界に生きる私たちが感じる「時間」感覚がズレる問題。

 最終回の放送がクリスマスイブだから、ドラマ内の時間もそれに合わせたかったんだな。

 でも、ドラマって大抵1回の放送で1日分くらいのエピソードしか詰め込めない。で、その次は現実世界で1週間が経過した後の放送になってしまう。

 30分という枠で起承転結を作った上で、現実とあまりズレがないようにしていくと、どうしてもこうしてどこかで無理が生じるのであろう。

おっさんずラブ」でも、牧がやってきて同居が始まって武蔵が告白して居酒屋でケンカして……というのを時系列に並べると、なかなかタイトなスケジュールになる。

 ドラマ放送中は、こちらもどんどん流れていく時間の中で生きているから、細かな矛盾も忘れてしまうんだけど、今は同じ映像を何度も繰り返し見ることが出来てしまう時代だ。その中で、手帳だのカレンダーだのが出てくれば、ヲタはそこのスクショを取って拡大して時系列を割り出しちゃうもんだから、多分この辺は、ドラマを作る側にとっては都合が悪いんじゃないかな、と。

 でね、こちらもあまり重箱の隅をほじくるような真似はしたくないので、そこら辺はそっと目を閉じ……いや閉じたくはない。その他の重要な要素を見逃すわけにはいかないから、目を閉じはしない代わり、うっすら半眼になって、見ないフリをするのも時には必要になるのです。



 この「時間」問題をどう捉えたのか、このドラマ、最終回という大事な局面になって、

「たった2日しか経っていないところをずっと別れていたかのようなお話運び」

を、悪びれずにやりきっている。

 うーん、足りない頭で単純に考えれば、

(え、じゃあ、プレゼンの日付をもっと前にしとけばよかったんでは……?)

と思っちゃうけど、どうなんだろう。12月15日とかだったらいかんかったんやろか。

 まあ、なんか他の不都合があったんじゃろ。



 なのでここはもう、

「ドラマの中の人たちと現実の私たちとは時間感覚が違う」

という解釈で乗り切ろうと思います。

 沖縄時間とか、アラブ時間とか、ありますやん。文化が違えば、時間の感覚も違うといいうアレです。

「チェリまほ」の中の「2日」は、私たちの「2週間」くらいに相当する………のかもしれない。うん……ちょっと……いやかなり無理があるけど……

「ドラマ時間」ということで!




 ……というわけで、ともかく、黒沢と離れて、元の日常に戻ったものの、心にぽっかり空いた穴は埋められるものではなく。

「そろそろ前を向こうぜ!」

と浦部さんに慰められても、嬉しくない。安達が落ち込んでいるのは、コンペに落ちたのが理由ではないからだ。

「それは、大丈夫です。……いつもの俺に戻るので」

と答える安達に笑顔はない。

 コンペ前の生き生きした安達ではなく、本当に、ドラマが始まったばかりの、地味で自信がない安達に戻ったみたいだ。赤楚くん、うまいですね。

 インタビューを読むと、赤楚くんは役にどっぷり入り込んで演じるタイプの役者らしい。だからこの場面、黒沢と離れた心の痛みが伝わるんですね。この後ハッピーエンドだと分かっているのに、リピートして見ると、泣きそうになる。




 社食でおにぎりを見つめる安達に「お疲れ様」と声をかけたのは、藤崎さんだ。

「黒沢くんと、何かあった?」

「……え?」

 目を見開く安達に微笑んでみせ、

「分かりやすいから。黒沢くんも、安達くんも」

と、2人の関係に気づいていたことを安達に告げるくだり、実にさりげなく、さらっとしていて、スマートだ。

 この場面を見ていると、このドラマが成功したのは、藤崎さんというキャラの造形にあったのでは、という気がする。



 以前にも触れたけれども、原作の藤崎さんは生粋の腐女子で、黒沢と安達の関係にいち早く気づくのも、陰ながら応援するのも同じなんだけど、2人が接近するのを「身近で見られる三次元BL」として楽しんでいるのが、ドラマ版藤崎さんとは全然違う点だ。

 BLコミックに出てくるキャラクターとしては、作品を鑑賞している読者と同じ立場なわけで、メタ的な面白さがあるんだけど、それをそのまま実写化してしまうと多分、腐っていない市民の皆さまにはいささかクセが強すぎるキャラクターになってしまうだろうし、演じ方も難しくなる。

 可愛らしい清楚系で、アクの感じられないビジュアルの佐藤玲という女優さんを配したのもうまいし、「恋愛に興味がない」という、女女していないキャラにしたのもよかった。

 そう、BLの実写化が成功するかどうかは、「登場する女性キャラが女性に受け入れられるかどうか」で決まると言っても過言ではない。

 その点、この藤崎さんは、絶妙な距離感で、つかず離れず2人を見守る。

 人当たりは柔らかいが、「恋愛に興味がない」ことを周囲に公言しないものの、周りに流されることもなく自分を守っているところからすると、芯は相当しっかりしていそうだ。

 黒沢の安達への想いに気づいていても、2人がつきあい始めたことを察していても、何か言ってくるでもなく、腐女子的にはしゃぐでもなく、もちろん周囲に匂わせたりもしない。それでいて、危機にはこうしてそっと手を差し伸べてくれる。

 非常に弁えているというか、知性を感じられて、私は大変好きなキャラクターです。このドラマ版藤崎さん。

 あ、コミック版はコミック版で、可愛くて好きですけどね。




 藤崎さんの回想として現れる黒沢。

「ディナーに行くなら、どっちの店の方が落ち着いて話せるかな?」

 黒沢は多分、「一般的な意見」を聞いてみたかったんでしょうね。それに

「安達くんは、どっちも緊張しちゃうかもね」

と返され、驚くも、「……参ったな」と破顔。

 安達とのデートに備えて、ウキウキそわそわしている黒沢がひたすらにカワイイ。

「はりきってるね!」

と藤崎さんに言われるほど、キラキラしていて、

(うぁぁ~~こんないい男、離しちゃダメだよー安達ー!!)

と頭をかきむしりたくなる。

 で、この場面の藤崎さん、やっぱりさりげないんだ。男同士だからどうとか、何一つ言わないんだけど、

「適度な距離感で邪魔にならないように応援する」

という、彼女が守っているスタンスがよく分かる。

 安達とのことがバレちゃって、かえって嬉しそうな黒沢もいい。そうだよなあ、めちゃくちゃ可愛くて素敵な恋人とつきあっていること、公言したいよね。

 恋の対象として安達の魅力に気づかれては困るんだけど、自分の恋人としては世間にひけらかしたい気持ち、黒沢なら絶対あるはず。

 その意味でも、藤崎さんは黒沢にとっても安達にとっても最適にして最善の理解者だったわけだ。

 このキャラ、演じ方を少し間違えると、「話に都合がよすぎる」と、あざとさが浮いてしまう結果になったかもしれない。

 脚本と演出と演者、どれも揃って、初めて成立したキャラだと思います。




「初デートは、最高の1日にするって約束したからさ。約束は守らないとね」

と、事前準備にいそしんでいた黒沢の姿を安達に告げた藤崎さん。

 安達に触発されて、社労士の勉強を始めたことも伝える。

 

「誰といるとか、いないとか、……恋愛するとか、しないとか、全部その人の自由だけど……何を選ぶにせよ、自分が、その自分を好きでいなきゃ」

 

 前を向いて、考えながら言葉を選ぶ藤崎さん。自分のことを言っているようにも聞こえるけど、

「そうじゃないと、どんな答えを出しても、相手も納得できないんじゃないかな」

と、不意に安達を見る。

 

 いやもう、ここは、藤崎さんこそ魔法使いなのでは…!?と思ってしまうくらい的確なアドバイスに感じ入るんだけれども、控えめながら周囲の人をしっかり見ている藤崎さん、これまでの安達のことも、今の安達のことも、なんとなく分かっているのかも。

 

 

 藤崎さんの言葉が胸に響いた安達。

「……ありがとう」

とお礼を言って、少し笑みを見せる。

 何かを考えている様子だが、安達が動くまでには、もうあと一押しが必要なのだった。




 続く!