おっさんずラブが好き!

ドラマ「おっさんずラブ」の細かすぎるレビューブログ。OLの深い沼にハマって当分正気に戻れません。ほぼおっさんずラブの話題しかないかもしれない。ネタはバレまくりなのでご注意を。

30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい 第12話感想②安達の逡巡と柘植のエール

「黒沢と一緒にいられない」と、一度は別離を決めた安達。

 だが、藤崎さんから黒沢の様子を聞き、温かい言葉をかけられて、その決断に迷いが生じる。

 そして、安達の背中を押してくれる人物がもう一人。

 そう、親友であり魔法使い仲間でもあった柘植だ。




「メリー・クリスマス」

と、クリスマスをことほぐ挨拶を安達に言うところからして、柘植先生、余裕の表情だ。

「何にする? ケーキか、チキンか。クリスマスプレートなんてのもあるぞ」

「いいの? クリスマスなのに、俺なんかと飯食ってて」

 そうね、特に誰が決めたわけでもないけど、日本ではなぜかクリスマス=恋人と一緒に過ごす日、という暗黙の了解がある。

 だから、安達だって、チャイムが鳴ったときに(まさか…)と淡い期待を抱いてしまったわけだし。

「友達の危機に駆けつけられないほど腑抜けてない」

 と言い切る柘植がかっこいい。

 ドラマ版の「チェリまほ」のよさは、柘植のキャラも生きていて、安達との友情が物語の横糸となってしっかりと模様を形作っているところにもある。



 安達の悩みを聞いて、

「お前は本当に大バカ者だなあ!」

 柘植はやっぱり上からなのよね。笑 けど、「上からだけど不快じゃない」匙加減がうまい。

 こんな台詞を言ったすぐ後に、

「俺は一昨日、人生二度目の土下座をしてきたところだ」

なんてことを言うものだから、視聴者はもれなく、心の中でズッコケるところだろう。

 台詞の中身の情けなさとは真逆の、渾身のドヤ顔も面白い。



「この前は、すみませんでしたッ!!」

 回想の柘植、そう言うと、がばっと地面に額をこすりつけん勢いで頭を下げる。

 おお、これは確かに、見事な土下座だ。土下座と言えば一家言持つ「義母と娘のブルース」の主人公、亜希子さんもこれなら太鼓判を押してくれるだろう。



「くだらないプライドより、湊を失う方が怖いと思ったからな…」



 柘植のしみじみとしたモノローグ。

 

 

 偉いッ…! 

 

 いやこれさ、安達はもちろんだけど、柘植の成長も著しいよね。最初は湊のことを(金髪でチャラい今ドキ青年)と見かけだけで判断して、心の中では苦手意識を持っていたのに、恋に落ちてからは、変革を恐れていない。

 特にこういう、「今まで持っていたもの」と「新しく得たもの」との間で、軋轢が生じたときの判断を誤らないのが素晴らしいと思う。恋人や大事な伴侶よりも、自分のちっぽけなプライドを取る人、少なくないですよ。ホントバカみたいだと思うけど。

 カエルみたいに這いつくばって、年上の余裕もなく、湊に土下座する柘植はカッコ悪い。カッコ悪いんだけど、めちゃくちゃ可愛くて、一周回ってカッコいいと思う。

「出た。土下座」

とちょっと笑っちゃってる湊も、そんな柘植を悪くは思っていない。

 近づいて、しゃがみ込むと、低い位置で視線を合わせて、

「俺も、ごめんなさい」

ぺこりと頭を下げる。

「笑ったのは、照れ隠しで…」

 本当は、自分にプレゼントをくれた柘植を愛しく、可愛らしく感じていたのだ、と湊の方からも告白返し。

 かくして、柘植&湊のカップルは、無事元サヤにおさまりました、と。




 魔法の力なしに、黒沢とうまくいく自信を持てない安達に、

「魔法などなくても、いくらでも繋がれる」

と柘植は言い切る。

 そう、その通り。人と繋がるために、私たちには「言葉」がある。心に抱えた思いは、言葉にして、相手に伝えればいい。

「間違っても、また話せばいい。そうやって、相手のことを知っていけばいいんだ」

 脱☆魔法使いの先輩として、柘植の言葉は力強いですね。

 あまり人とのコミュニケーションに慣れていない分、態度は若干尊大で、でも本当は気が弱い部分もあって。

 そんな柘植の性格や背景が伝わる繊細な演技。

 柘植の言うことが分かりやすく、すとんと腑に落ちるのは、言葉が変に砕けていなくて、きちんとしていて、語彙のチョイスに誠実さが垣間見えるからだろうか。文章の専門家だしな。

「いや、でも……もう、黒沢と俺は……」

 まだ迷いを振り切れない安達。自分から別離を告げたからには、そう簡単に取り消せない、そう思うのも分かる。分かるけれどもやな。

 視線を合わせようとしない安達を、それでも見つめて、柘植が言う。

「自分の心にも、ちゃんと触れてみろ」

 そう言われて、視線を上げる安達。

 

「気持ちに魔法は関係ない。結局、自分がどうしたいか、だ」




 そう、そうなんだよ。

 安達みたいに、優しくて真面目な人が陥りやすい罠が、

「相手を気遣いすぎて自分の心をおろそかにする」

ということだ。

 好きな相手と一緒にいるのに、資格なんて必要ない。

 傍にいていいかどうか、決め手となるのは、

「一緒にいたい」

と思う自分の気持ち、ただそれだけだ。



 安達の黒い瞳が揺れた後、じっと一点を見つめて考え込む。

(俺が、どうしたいか……)

 自分の中を深く探ってみているんだと思う。この表情。

 うつむく安達の、少し上から映した横顔が美しい。BGMなしに、10秒以上かけた演出も的を射ている。

 はっとして、柘植の顔を見る安達。



 答えは見つかったようだ。




 安達の表情を見て、柘植もまた察する。

「俺の愛車を貸してやる」

 鍵を放る。受け取った安達が店の外に出ると、止めてあるのはあの、湊と一緒に乗るために買った自転車だ。

 藤崎さんに電話して、黒沢も今日休みのままであることを確認すると、安達にもう迷いはない。

 自転車に飛び乗って街に駆け出す。




 繋がったー!!!

 

 第一話の冒頭と繋がったよーー!!!

 

 と、ここで快哉を叫んだ沼民も多かったに違いない。



 さらに続く!