※前アップしていたものはいったん削除しました。
書き方を改めます。
連ドラの初回は大切だ、とこのブログでも何度か書いているけど、「チェリまほ」第1話も、その後12話に渡って続く物語の冒頭として、非常に見ごたえあり、30分の間にぐっと心を惹きつけられる回となっている。
以下、感想。
「30歳まで童貞だと、魔法使いになれるらしい」という都市伝説通り、触れると他人の声が聞こえてしまう、という魔法を手に入れてしまった地味リーマン、安達清。
「まさか〇〇になってる!?」
式のファンタジー、これまでも色々作られてきていて、有名な「入れ替わってる!?」パターンもあれば、安達みたいに突然特殊能力が身についてしまったりとか、身体がちっちゃくなっちゃった、とかもありますよね。
「人の思っていることが分かるようになる」というパターンも、これが初出ではないんだけど、「30歳まで童貞だと自動的になってしまう」というシステムと、呼び方を「超能力者」でも「特殊能力者」でもなく「魔法使い」にしたところが、BLらしいファンタジックな設定で、新鮮だった。
バカバカしい設定を、いかに真剣に、大真面目にやるか、というところに、コメディの本質がある。
「チェリまほ」チーム、これを見事にやり切ってくれていた。
触れると聞こえてくる心の声。俳優の、顔の表情と仕草による非言語演技と、アテレコのモノローグがコンマ何秒単位で合っているから、笑いたいところできっちりと笑える。
黙ったままの演技と心の声を合わせるの、大変だったと思うけど、頑張ってくれたお陰で、未だに何度見ても新鮮に爆笑できる。
主役の安達清を演じた赤楚衛二くん、このドラマで初めて知った。
「仮面ライダービルド」(見てみた)ではしゅっとしたイケメンで、見るからに身体能力抜群な若者なんだけど、「チェリまほ」では見事に「もっさり系地味男子」になり切ってますね。
前髪をかぶせた重ための髪型に寝癖、背中は丸くなってて、くぁ~……と遠慮会釈もなく大口開けてアクビする様子には、「ビルド」の万丈龍我の面影はゼロ。安達くん、運動神経もあんまりよくなさそう。どんくさいし。
赤楚くんの演技力とメイクさんの力が素晴らしい。
黒沢優一を演じた町田啓太くんは、他のドラマで既に知っていた。「チェリまほ」のキャストにこの人が入っているのを聞いて、(おお、このクラスのイケメンを持ってくるのか!)と、テレ東さんの本気を感じ取った。正統派のハンサムですよね。
赤楚くんにも「リアル黒沢」と言われていたし、藤崎さんを演じた佐藤玲ちゃんも「黒沢じゃないときがなかった」と言っていた。
声もイケボ。ほどよく低く、口調は穏やかで、耳に優しい周波数。
黒沢の内心のモノローグで、声がフィーチャーされたドラマでもあったから、町田くんの声にやられた、という沼民も多そうだ。
社内一の爽やかイケメンが、地味で目立たない自分を好きだった……って、少女漫画ではよくある展開だ。というか、王道中の王道だ。
たくさん漫画を読んでくると、色々設定は細かく変えてあるけど、(ははーんつまりはこのパターンね)、と、ちょっと斜めから見てしまう。それでも面白い作品は面白く楽しめるんだけどね。
それを、「社内一の爽やかイケメンが、地味リーマンの自分を好きだった」と、主人公を男にするだけで新鮮だし、意外過ぎて「ええっ!?」てなる。まずそこに第一の可笑しみが生まれる。
…と書いてみて、(そうだよなあ)と自分で納得した。
腐界に棲んでいると気づきにくいけど、これ、確かに面白いわ。
男性も楽しんで見ていたようなので、この辺、やはりBL色をあまり出さずに王道ラブコメ仕立てにしたのはよかったんだろう。
もうひとつのギャップが、黒沢の表情と心の声のテンションの違いだ。
黒沢くん、見た目はポーカーフェイスで、全然表情に出さないのに、朝から安達に会えたり、思いがけず近づけたりするだけで、テンションが爆上がりしている。
すーっとした顔のまま(うなじのホクロ。ホクロ―!!)と大音量で安達に心の声が聞こえているあの場面、めちゃくちゃ可笑しい。
ちらっと安達の方を見て、感に堪えない風情で目を閉じる演技とかね!
耐え切れなくなった安達が「ト、トイレ…」と立ち上がって場をはずし、トイレの鏡で自分の首元を確認して
「マジだわ…」
てなる場面、非常にテンポがよく、コミカルで、今後の展開にわくわくさせられた。
ラブコメって、最初はコメディの要素を強く出して、笑いで視聴者を惹き込んでおいてから、徐々にラブストーリーの展開が真剣みを帯びていく、という持って行き方が定石だけど、「チェリまほ」は第一話の終盤に、最初の落としどころを持ってきたのもうまかった。
「同期であることと性別以外は共通点ゼロ」と見なしていた遠い存在の黒沢から好かれている、という事態に、完全なキャパオーバーに陥った安達、
(もうやだ……帰って寝たい……)
と、目をつむって逃げる選択をしようとする。
そこへ、マフラーを巻きながら黒沢の心の声が聞こえてくる。これまで自分のことをちゃんと見てくれて、地味で目立たないけど真面目で誠実、丁寧にやり遂げる仕事ぶりを高く評価し、(そこが好きだ)と思ってくれている。
これはぐっとくるよね…! 自分がやってきたことを見てくれている人がいたことも、自分なりに真面目に頑張ったことをちゃんと分かってくれていることも。
(ヤバい、泣きそう…)
てなってたけど、安達くんのその気持ち、めちゃめちゃ分かる。超分かる。
で、(いいやつだなあ…)とほだされたところに、
「終電もうないだろ。うち泊まっていけよ」
「…………ええ!?」
と、息つく間もなく次の展開に持っていったのも面白かった。
「黒沢に迷惑が」
「全然迷惑じゃないよ!」
かぶせ気味に否定して、笑顔でコトを進める黒沢の強引さよ。
さて、何度もリピートして見ていると、それぞれの場面で黒沢の心の声のモノローグがなくても、大体何考えてるか分かってしまう気分を楽しめる。
エレベーター前で会ったとき、「早いな」と声をかけたのも、しばらく前から通勤の時間を変えたのに気づいてたんだろうな…とか。
女子軍団に連れていかれちゃったとき、せっかく安達と話せそうだったのに、チッ…て内心舌打ちしてたんじゃないかな…とか。
安達が浦部さんの仕事を引き受けて残業する羽目に陥ったのも、黒沢にとっては千載一遇のチャンスだったわけだ。
「チャンスの女神には前髪しかない」という諺を聞いたことがあるけど、黒沢くん、幸運を逃さず、女神の前髪を捉えたのですね。
お見事でした。
前髪しかない女神様の姿を想像すると笑っちゃうけどね!