「わんだほう」の扉をガラガラっと開けて春田、
「ちょっと聞いてよ~!」
この甘えた言い方がもう「THE・春田」。ダメなんだけど可愛らしい。
鉄平兄やちずとのやり取り、春田のテリトリーに侵入してきた新参者のマロ、ちょこちょこ差しはさまれるわんだほうパート、いいですよね。
「俺のテリトリー荒らすなよ…」
とボヤかれても意に介さず、ちずにぐいぐいいくマロの新人類っぷりが面白い。「新人類」ってもう死語か。笑
一方で、夫・武蔵がシャワーを浴びている隙に「ハルカ」の影を見つけ出そうとする家庭内探偵・蝶子のパート。
これまた絶妙にコミカルで、蝶子さんという人のおかしみが出ていて好き。
しっかりしているんだけど、おっちょこちょいなところや早とちりな部分もあり。
メガネをくんくん嗅いで「くさっ!」とのけぞったり、レシートを並べてスマホで写メ撮ろうとして反転で自分が写って「わあっ!」と驚いたり、いちいち笑えます。
大塚寧々、前から結構好きな女優さんだったんだけど、「おっさんずラブ」ではコメディエンヌとして存分に存在感を放っていて、評価がさらに上がったと思う。
なんでここで武蔵がシャワーを浴びているのかと言えば、
(あ、ヒロインだからかな)
と私はすっと納得したんだけども、シナリオブックには「滝行のように」とあり、なんか私が思ってたのとは違ったのかもしれない。
「シャワーを浴びるヒロイン」=「ドラえもんにおけるしずかちゃんのポジション」というのは昭和生まれBBAの偏った見方なのかもしれぬ。
いやーだって武蔵なんだか胸んとこ押さえてるしさあ(劇場版でもそうでしたね)、ヒロインっぽいじゃん?
え? 違う?
コメディパートらしく、場面があっちやこっちへ行きつ戻りつで、適度に散らかった感じが面白いんだけども、ラスト、アゼリアでの場面はおかしくもしんみり、しっとりした印象的なシーンでした。
「あの人やっぱり不倫してた…!」
と呼び出したはるたんに打ち明けちゃう蝶子さん。
その「はるたん」とやらがそんなに好きなら、自分は身を引いた方が……と口にする場面、せつない。
本当に相手のことを思うのなら、相手の幸せを第一に考えて、こういう結論になってしまいますよね。
それを、なんとか止めようとする春田。
「奥さまのその気持ちを部長に伝えた方がいいと思います!」
と春田も必死だ。
春田の立場としては、もちろん部長夫妻に盤石でいてもらった方が一番まるく納まるのだけれど、春田と言う人の性格的に、ここはそういう自分のための計算とかはないんだろうな、と思える。
ただただ、目の前にいる蝶子さんの心の痛みを感じて、シンクロしながら、蝶子さんの幸せを考えちゃったんだと思う。
だから、
「キミってホントにお人好しね」
と言われて、
「俺は……俺はいい人なんかじゃないんです…!」
と泣きだしちゃう。
泣き虫なところもはるたんの愛嬌のひとつなんだけど、まあそれにしてもよく泣く主人公だね!笑
そこへ飛び込んでくる武蔵。
私、これまでもちょいちょい武蔵のことをディスってますけど、ここでもホンマ(いい気なおっさんやな~)と思いました。
涙顔の蝶子さんを見て
「泣いてるじゃないか。なんかしたのか!?」
と春田を問い詰めるのは、妻を守ろうとする夫としては合格点なのかもしれないけど、
(いやいや泣かせてるのはアンタやがな)
と全力でツッコんでしまう。
まあ多分この場面、お茶の間でリアタイしていた全国の視聴者の9割がツッコんでいたでしょうな。
「いやあの俺は違います」
と否定するのもろくに聞いてもらえないばかりか、
「あなたに言いたいことがあるの」
「俺もだ」
と夫婦の対峙に挟まれて、落ち着きなく二人を見る春田が可哀そうで、でもこれぞ巻き込まれ型超受け身主人公・春田の真骨頂なので、(可哀そう)と同情する奥できゅんっと小さく胸が鳴る。笑
ここ、見る人の立場によって、誰寄りで鑑賞するかが大いに分かれる場面だと思う。
私は最初から、
「本当の自分を知って欲しい」
という武蔵の台詞が引っかかって仕方なかった。
だって、夫婦だからって、お互い腹の底すべて見せあえばいいかと言えば、そんなわけないじゃないですか。
隠し事は少ない方がいいし、素を見せられる方が楽に暮らせるのは確かだけど、偽っているのとはまた違って、「自分のよいところを相手側に向ける」のは、当然だと思うからだ。
身内には思ったことを何でも言っていいと思っている人がいるけど、それは違う。身内だからこそ、最大限の気遣いをするべきで、何かを言うときにはやはり言葉を選んだ方がいい。その気遣いをめんどくさがって、ぽーんと頭に浮かんだまま相手に投げつけるのは、単なる怠惰だし、愛のない行為だと私は思う。
武蔵が言う「本当の自分」とはつまり、「同性の部下を好きになってしまった自分」「10年以上の思いに耐えきれなくなって告白してしまった自分」のことを指すのだろう。
蝶子さんにすれば、(えええー30年夫婦としてやってきた挙句そんな告白されても…)というところだ。
ただ、ね、武蔵って「おっさん」じゃないですか。タイトルにもなっている通り。
「おじさん」って、しばしば女性や若者その他の弱者を差別する側として物語に登場するけれども、一方で、「おじさん」こそ差別される側だという見方もある。
「女だから」とか「女のクセに」という決めつけや蔑みは、今日ではかなり払拭されてきた感があるけど、「男だから」とか「男のクセに」という風潮は、まだまだ現役という気がする。チェリまほで酒に弱い安達に「飲みなさい。男でしょ」と胸糞社長も言っていた。
男性って、社会的に強者であることが多いけれども、色んな場面で「強くあって当然」と見なされるんですよね。
それを描いて秀逸だったのが、逃げ恥の新春スペシャルだった。奥さんであるみくりのつわりが酷く、家庭内のことがすべて平匡さんの肩にかかって、仕事は仕事で大変。やっとみくりのつわりが終わり、
「大変でしたね、平匡さん」
とみくりに労わられて、平匡さんがぽろりと涙をこぼす。
「でもみくりさんの方が大変だし…」
「大変に順番をつけなくていいんです。大変じゃなかったわけないじゃないですか」
この労わり合いが美しい場面でしたが、やっぱりね、30を過ぎた「イイ大人の男性」が、妻のつわりで大変で……とか、なかなか気軽にこぼせない雰囲気だと思うんですよ。社会全体が。
武蔵が春田にときめいてしまったとき、そしてその後もドキドキがおさまらず、(これは恋かもしれない)と自覚せざるを得なかったとき、誰かに相談できたかどうか?
まあ、このラブコメで武蔵のキャラは陽として描かれていて、あんまりその辺深刻に悩んだ描写は出てこないんだけども、(相談をしたくても出来なかったんじゃないかな)くらいの見当はつく。
他のことなら一番の相談相手であるはずの妻にも言えない。もちろん当の相手である春田にも言えない。
じっと心に秘めておくしかなかったわけだ。
私見ですが、女性に比べて男性の方が、ハートが繊細というか、打たれ弱い人が多いような気がします。
もしかするとそれは、元々の脳がそうなっているとか、そういうことではなく、何か苦手なこと、辛いことが立ちはだかったときに、「辛い」「助けて」と訴えることが許される空気でなかったことが原因なのかもしれない。
「男だから出来るだろう」と見なされてしまう。それを感じて、本人もプライドがあるから、「出来ない。助けてほしい」と言えない。
そういう負荷が少しずつ積み重なっていって、どーんと決壊する、みたいなことになるのかも。
まあそんな武蔵のあったかもしれない苦悩に思いを馳せるのも一瞬のことで、テンポよく進んでいく台詞の応酬であっという間に流されちゃうんですけどね!
蝶子さんに本当のことを言うぞ!と決意した武蔵にとっては、
「ハルカじゃない。『はるたん』だ」
とここは譲れないポイントだったんだろうけど、
「どうでもいいわよ!!」
と一蹴される場面、何度見ても笑う。
で、ここから、監督が「君の名は。」というタイトルを使いたくて作ったというラストまで、どの台詞もどの表情も秀逸で、台詞と台詞の間の「間」も全てが効いている。
「君の名は……?」
「……はるたんです…」
と答える春田の律儀さよ。笑
徹頭徹尾受け身である主人公・春田は、第4話から変化を見せ始めるので、「THE受け身」の春田としては、この第三話のラストが一番笑えるかも。
「あのワタクシもう帰ります」
とその場を去ろうとしたのに、「いろ」と引き止められ、引っぱられて、ソファにどーんと転がされる。
最後の武蔵の告白前にも、緊張に耐えられなくなった春田、「サラダバーに…」と逃げようとするのを引っつかまれ、肩を抱かれて「彼なんだ」と暴露されてしまう。
リアタイ時も爆笑しながら見ていたけど、色々裏話を聞いた今では、(あーもう鋼太郎さんtkb! tkb狙わないの!)と別の部分も気になってしまって、一粒で二度美味しい仕上がりになっております。
第三話のレビューはこれにて!