去年、ある別れがあった。
これまでとても濃密なつきあいがあったある男と、関係を断つことになった。
思えば、出逢いは最悪だった。
(うわ、何こいつ……)
というのが、第一印象だった。
周りで、とても評判がいいのは知っていた。「業界No.1」という呼び声も高かった。初見では、そのよさがサッパリ分からなかった。
(私とは合わないな…)
と思っていた。
ところが、いつの頃からだろう。
(彼じゃないとダメ)と思うようになっていた。
慣れてくると、その円熟味とか、スッキリ加減が、唯一無二だと感じた。
「ピュア」というところも、ポイントが高かった。
彼とのおつきあいは、楽しかった。
楽しく、美味しく、芳醇な時間をたくさん過ごせた。
正直お金はかかるけど、コスパは悪くない、と思っていた。
会った次の日は、どんよりとして体調も思わしくなかったけれど、それは自分が悪いのだ、彼に原因があるのではない、と思っていた。
いや、思い込んでいた。
「思い出してみてください。最初、イイと思わなかったでしょ?」
と言われたとき、結構衝撃的だった。
そうなのだ。最初は、全然よさが分からなかった。
「イイと思えるようになった自分、大人やと思ってるでしょ?」
そう。まったくその通り。価値が分かる自分は、大人になったのだ、と思っていた。
「でもそれ、思い込みですから」
えっ…………
「試しに、やめてみてください。マズイ、と感じるようになるはずですよ」
言われた通りだった。
私が、美味しいと思い、(味が分かるのは大人の証)とまで感じていたのは、単なる思い込みだった。
人生で最初に飲むアルコールって、ビールじゃないですか?
私の場合、大学在籍中のコンパの席だった。ヱビス推しの先輩がいて、その人に言われるがまま、飲むようになった。
「ホップ100%が美味しいねん」
と言われれば、(ほぉ~、そうなんや)と思えた。
ビールの味を覚えてからは、色んな種類のビールを飲んだ。確かに、米やコーンスターチが配合されているものより、麦100%の方が、雑味もなく、美味しいと感じた。
なので、モルツや、ハイネケンも飲んだ。だけど、一番はなんといってもヱビスだった。
ヱビスと言えば、白のシルク、グリーンのホップ、黒のブラック、等々、季節に応じて出される種類を全部飲んできた。
グッズも可愛かったので、揃えました。グラスはもちろん、小皿やコースター、キーホルダー、メニュー立てなんかもある。
ヱビスフリークと言ってもいいだろう。
そんな私が、ビールをやめた。
「……そう言えば、最初はまずかった…」
と気づいてからは早かった。
なんとなくお酒が欲しくなって、コンビニやスーパーのお酒コーナーを見ても、ビールを選ばなくなった。
あれだけ、ヱビスヱビスと言っていたのに、関心がなくなってしまった。
というわけで、ヱビスビールと完全にサヨナラしました。
ヱビスだけでなく、そもそもビールを全く飲まなくなりました。
これに関しては、「美味しいという思い込みから醒めた」としか言いようがないです。
まあ、今まで市民プールを並々満たすくらいは飲んできたし、そろそろサッポロから感謝状が届いてもいいとまで思っていたので、
「一生分飲んだ」
と思えば納得。
テレビでCM見ても、スーパーやコンビニで現物を見ても、欲しいと思わなくなった。
なんか、催眠術から醒めたような感覚。
この勢いで、酒そのものと縁を切りたいのですが、まだそれには至っていません。
断酒の努力中ですので、またご報告します。