おっさんずラブが好き!

ドラマ「おっさんずラブ」の細かすぎるレビューブログ。OLの深い沼にハマって当分正気に戻れません。ほぼおっさんずラブの話題しかないかもしれない。ネタはバレまくりなのでご注意を。

おっさんずラブ第四話⑧ 春田創一の目撃

 春田は、いつから牧のことを好きだったのか。



 

 第一話で恋に落ちる牧に対して、春田の気持ちはドラマの前半で明示されない。誰に対しても優しくて、否定せず受け入れる春田、その分優柔不断で、日和見主義的な性格でもある。そしてニブい。

 思いを告げ、

「一緒に住むなんて無理です」

と言う牧を、

「俺にはお前が必要なんだよ!」

と引き留め、その後もなんだかんだ牧と一緒に住んでいる春田。

 で、多分、毎日牧の手作り弁当を食べているわけだから、(えーそれもう好きじゃん絶対)と、見る方は思ってしまうけど(笑)、そう一筋縄ではいかないのが春田という男だ。

 もう一つ「何か」が起きないと、春田にとって牧はいつまで経っても「同居している友達」のままだっただろうと思う。




 ということで投下されたのが、

 

「武川主任と牧の密かな手繋ぎ」

 

 事件だ。



 これは「事件」と呼ぶにふさわしかった。放送当時、ツイッター

「なななななんだあれは!?!?」

てなって、リアルタイムで視聴している民の間にぶわっと動揺の波が広がったのをよく覚えている。

 だってねえ、単なる「手繋ぎ」なんてレベルじゃないですよねアレ。指と指としっかり絡ませて、ぎゅっと握っている。

 そんで、繋ぎっぱなしじゃないの。指をずらしてこう、なんちゅーか「味わってる」よね。武川さん。

 落とした箸を拾おうとして、うっかり見ちゃった春田が

 

(……え?)

 

 てなって、がばっとテーブルの上を確認しちゃう気持は超分かる。そりゃそうだ。誰と誰の手だ??てなるわ。

 ところが、そこには、なんか熱弁をふるう武川さんと、横でうんうんとうなずきながら傾聴している牧の姿があるだけだ。社内の飲み会の席として、おかしなところは何もない風景。

 

(ええ??)

 

 混乱した春田、再びテーブル下をのぞく。

 間違いじゃなかった。しっかりと握り合わされているのは、間違いなく武川主任と牧の手だった。

 一度離して、上から握り直して、牧の手を離さない武川さん。握り方がエロいのよ。大人の男なのよ。

 一時、沼民の間で

 

「手ックス」

 

 と呼ばれていたけど、命名した人、ナイスネーミングセンスだと思います!




 さてこのとき、武川さんは一体どういうつもりだったのか。

 話の順番としては、まだここでは牧と武川さんが昔つきあっていたことは明かされていないから、ネタバレになるんだけど、まあもう放送から4年も経ってるのでそこはいいとしよう。

 武川さんの胸中。そりゃもう「焼けぼっくいに火」をつける気満々でしょう。



「焼けぼっくい(木杭)に火をつける」:一度燃えている棒杭は、生木に比べて火がつきやすいことから、過去に関係があった間柄はよりを戻しやすいことを指す。



 これですよ。

 2人の間に何があったか知らんが、どうやら嫌いで別れたのではないらしい。武川さんにしてみれば、未練たっぷりの相手がたまたま自分の部署に異動してきたわけだもんね。

 そら、牧が隣に座れば、手を握りますわね。

 なんなら、上司の職権を利用して

「ちょっと隣に座れよ」

くらいは言うたかもしれん。うむ。



 そんで、この時の牧は、なんかとろんとして、武川さんの話に耳を傾けている。

 酒が入った酔いのせいなのか、畳についた手を武川さんに委ねて、されるがままなのがちょっとエロい。



 こんなところを見ちゃったもんだから、春田、



(嘘だろォ!?)

 

 内心の叫びとともに思わず後ずさって、背中をどん!と棚に打ちつけてしまう。

 完全に「NOOoo…」の顔になるのも分かる。

 そしてこの動揺を、春田は珍しく引きずるのだ。

 

 

 家に帰る道すがら、自分の目で見た光景が信じられなくて、何度も考えてしまう。

 顔を洗っても、蛇口から水が流れっ放し。テレビをつけようとしてエアコンのリモコンを何度も操作してしまう始末。

 そんな自分が、自分でもよく分からない。

 

(なんか俺、すごい動揺してんだけど……)



 うんうん、そうだろう。

 こういう経験が少なそう(失礼!)な上、普段から自分の心の中のモヤモヤを言語化するのが得意ではなさそうな春田だ。

 僭越ながら、このときの春田の脳内で繰り広げられていたであろう一人妄想会議を代わりに文字起こしすると、きっとこういうことになるだろうと思われる。



(なんで武川さんと牧が手ェ繋いでたんだ…?)

 

(見間違い…? いやいやいや、見間違いじゃない。武川さんの手が、牧の手を握ってた。それは確か)

 

(え、オレが知らないだけで、実はすげー仲のいい先輩後輩だったとか……? …いや、ただの先輩後輩の仲であんな握り方しないだろ。絶対)

 

(ていうかー、牧はオレのこと好きなんじゃなかったっけ? 『好きだ』つってキスされたの、気のせい? 夢??)

 

(ていうかー、武川さんもオレのこと好きなんじゃねぇの? だから牧にヤキモチ焼いて、きつく当たってたんじゃなかったの……??)



 とまあこんな感じで、ぐーるぐーる考えを巡らしていたんじゃないかね。

 で、



(あっ……つまり武川さんはオレじゃなくて、牧だったってこと…!?)



 というモノローグに繋がるわけだ。



 そう、春田の予想通り。武川さんは春田じゃなくて牧だった、そこまでは正解。

 が、



(ええー!? …ていうか、牧も、オレじゃないの…?)



(え、勘違い? 春田、勘違い…!?)

 

 のくだりで、

「なんでやねーん!!」

と盛大にツッコんだ民の皆さまもきっと多かったに違いない。




「好きだ」って言われてシャワーチューしたろうが!

 公園で「普通には戻れません」つっておでこにキスもされたろうが!!

 今朝だって牧の作った朝飯食っただろうが!!!



 何言うとんじゃ春田! ボケ!!!💢




 ……コホン、取り乱しました、スミマセン。

 気を取り直して。




 まあ、アレだ。「オレ、モテてる!」と舞い上がってた気持ちはあったんだろうね、きっと。

 それが、武川さんのことが勘違いとなると、舞い上がってた気持ちが急にすとーんと地に落ちた感じになって、

(好かれてたっていうの、全部オレの思い込みだった!?)

と180℃引っ繰り返っちゃったのかもね。

 これまでモテない人生を歩んできた男の思考回路として、それは分かる。

 

(勘違い? ……春田、勘違い!?)

 

 と、恥じ入る気持ちね。

 テレビ画面のこちら側から、牧のせつない気持を追っかけて応援している身からすると、

(いやいやいやあの告白をなかったことにしてやるなよ春田……)

と、諭したくなるけれども。



 折も折、当の相手である牧が

「話があるんですけど」

とやってきても、穴があったら入りたい気持ちの春田、すぐには対処出来ない。

「あ…明日でもいい…?」

と蚊の鳴くような声で答えて、

「なんでもー…」

と牧をイラっとさせる。そらそうだ、だってソファに寝転がってるだけなのに。笑

「じゃあ、明日ね!」

強く言った牧が去った後も、春田は胸をかきむしり、

 

(なんだ? なんで胸がざわついてんだオレッ……)

 

と見悶える。



 

 武蔵のやりすぎな日報のメッセージが牧に火をつけたように、マサムネのドエロい手ックスが刺激となって、春田をここまで悶々とさせるに至ったわけだ。

 つまり、武川さんも、2人のキューピッドの役割を果たしているのは間違いない。

 マサムネ本人に言ったらさぞかし渋い顔をするだろうけれども。笑