おっさんずラブ第一話 ③ 妖精降臨
天空不動産朝のミーティング。これから仕事が始まる緊張感が漲っている。
「週末から始まる春の新生活応援キャンペーン、目標設定は具体的にどうなってる?」
仕切る黒澤部長、完璧に「デキる男」の顔ですね。先ほどバスで見せた乙女の揺らぎはみじんもない。
「ハイ、期間中はこの5件を売り切ることを目標に…」
テキパキと答えるのは武川主任。演じるのは眞島秀和。黒縁眼鏡が大変お似合いです。
前シーズン、「隣の家族は青く見える」を見ていたので、このキャスティングは最初から「いいぞ!」と思っていた。わたるんと朔ちゃん、いいカップルだった。あちらはあちらで、既存の観念に捉われない、新しい家族の形を提案していて、好きなドラマでした。
一方春田は腑に落ちない表情で腕組みしたまま。(さっきのアレは一体なんだったんだ…)とどうにも消化しきれてない様子。
この場面、脇キャラの一人、マロの紹介にもなっている。
お客様をご案内中、道を間違えて物件にたどりつけなかった……て、不動産の営業としては割とあり得ないタイプのミスですよね。完全にアウト。
それを、
「春田さんのくれたマップが間違ってたんですよ」
と営業部一同の前で言い放つばかりでなく、
「自分でもちゃんと確認しろって」
というごくまともな春田の正論に、
「なんなんスか。そうじゃないスか。春田さんが間違ってたんじゃないスか」
と言い返す。いやいや、言い返すなよ。たとえ自分が間違ってなかったとしても、職場の先輩に言い返しちゃだめだよ。ましてこの場合、明らかに確認不足のキミが悪いわけじゃん。
いやでもいるよこういう新人。超覚えある。勤め人なら、この手のタイプの2~3人遭遇した経験があるだろう。自己評価ばかり高くて生意気で協調性に欠けるやつ。
と、初見では「こういう勘違い新人、いるいるー!」なマロに、結構イラっとしてました。笑
それが、物語後半になって、「脇役とはなんぞや」と言いたくなるくらいみんなに愛されるキャラに成長するとはね。金子大地くん、お見事。
さてそこへ、カツ…カツ…と靴音を響かせ、あの男がやってくる。
「新しい仲間を紹介します。本社の開発事業部から異動になった牧くんだ」
「牧凌太です。慣れない業務でご迷惑をおかけすることもあると思いますが、頑張りますのでよろしくお願いします」
涼しげな目元。
白い歯並びが眩しい爽やかな笑顔。
天空不動産の妖精、じゃなかった、牧凌太降臨。
窓から差し込む光が一瞬白くフラッシュするのは、肌が白いせいなのかどうか。
全身から清涼感を発揮してますね、この男。
もうこの登場のくだり、アレじゃないですか。顔よし、頭よし、運動神経抜群、のスーパー転校生が最初に登場する感じ。昔少女漫画でよく見たやつ。
染めていない、毛先を遊ばせていない髪型も好印象。ちょっとくせっ毛なのが可愛い。真面目なのが一目で分かる風貌だ。
すきっと締めたネクタイの首元まで清々しい。仕事が出来そうな予感しかない。
春田の方を見て、目配せで挨拶する。(あのときはどうも)くらいな感じかな。
春田も嬉しそう。ここは、牧だからというよりは、「一度飲んだらみんなマブダチ」くらい人との距離が近いせいかな、と思う。
挨拶が済んだら、ぴょんと飛びつく勢いで牧に近づく。しっぽ振ってるワンコみたいで可愛い。
しかしこの場面、何度見ても、綺麗な顔だなあ…と感心する。
林遣都くんの顔は、いわゆる黄金比からは外れている。眼が大きく、顔の中心線から下の割合が低め。「りぼん」とかの漫画に出てきそうな顔のバランス。よくも悪くも「少女漫画顔」。
けど、得てして、世の支持を得るのは「どこかアンバランスな顔」なんですよね。人の心をぐっとつかむのは、「完璧なもの」よりも、「完璧に少しだけ足りないもの」だというのが昔からの私の持論なんだけど、さてどうでしょうか。
いずれにしろ、この林遣都くんの風貌が、「おっさんずラブ」というドラマの「牧凌太」というキャラクターにぴたっとハマッたのは間違いない。
この後我々は、この牧くんの伏し目や笑顔やうるうる顔に心を鷲づかみにされ、翻弄されまくる数週間を過ごす羽目に陥るのだが、このときはまだ知るよしもない。
入社3年目で、豊洲地区の再開発を手掛けた会社のエースということは、本社のエリートコースだな。
一般消費者向けの物件も扱っているこの支社と、仕事の内容はかなり違う。
いずれ管理職に昇進することを見越して、支店の色んな業務を経験させておくとか、上層部のそういう意向かな…と想像してみるのも楽しい。
「分からないことがあったら彼に聞いて。面倒見のいいヤツだから」
と、牧に春田を引き合わせる黒澤部長。
既に一度出会ってはいるけど、改めて結びつけたキューピッド役は、はからずも黒澤部長だったわけだ。
このときの自分の言動を後で悔やんだかどうか、それは部長本人に聞いてみないと分からないけど、多分「オレがあのとき引き合わせてなければ……」と死ぬほど後悔した夜があったのではないかとお察しします。
夜中にシーツのはじっこを噛んで身悶える黒澤武蔵55歳。
なんだか目に浮かぶようだわ。。。