愛されすぎた男
おっさんずラブSeason2の報を受け、もともと我々民の望む形での続編はないだろうと思っていたものの、
(うーーーん……そうかぁー……)
と、考え込んでしまうところではあった。
休日に劇場版を見て、出来るだけ時間を割いて感想を書き記して、このところずっと沼活が充実していたので、久々にずしっと重いものを抱えつつの出勤となった。
こうなってみて、連ドラ版「おっさんずラブ」の世界を出来るだけ俯瞰で、ざっくりと頭の中で辿り直してみた。それで、改めて気づいたことがある。
牧凌太というキャラクターは本来、もう少し薄味だったのかもしれない。
番手で言えば、主役の春田、お話の軸である黒澤部長に次ぐ三番手。
それが、演者に林遣都という役者を得て、「牧凌太」のキャラに魂が宿ってしまった。
まずビジュアルの説得力がすごい。初期のレビューに書いたけど、林遣都という人は、三十路に近い年齢の成人男性なのにも関わらず、少女漫画を具現化したような外見を持っている。
もちろん、「容姿」という、生まれ持ったものだけが林遣都の強みでないことは、言うまでもない。
台詞がなくとも、その大きな眼で、結んだ唇で、後ろ姿で、牧の気持ちを雄弁に語る林遣都。
だからこそ、「風貌」「佇まい」「立ち居振る舞い」すべて、完璧な「牧凌太」というキャラクターになり切ったのだと思う。
物語の早い段階から、視聴者は牧に共感し、春田との関係が変わるたびに一喜一憂し、牧を応援する空気一色となった。
第一話の中盤、春田が運び込まれた病室に飛び込む牧の視点カメラのシーンでも明らかなように、それは意図を持って誘導された演出なんだけど、多分、制作チームの思惑を超えて、「牧凌太」というキャラが視聴者の心を鷲掴みにしてしまったのだ。
「おっさんずラブ」というドラマ、単純に笑って泣けてキュンと切なくなれる良質なラブコメディだけど、考え尽くされた複雑な構造を持つ作品でもある。
「ヒロイン」ポジションのキャラ、実は3人いるんだよね。
一人は「公式ヒロイン」黒澤武蔵。「春田創一」という青年に恋することで、「おっさん」の中に眠っていた乙女成分が開花してしまった「ヒロイン」。
もう一人は主人公の「はるたん」。部長と後輩に好意を寄せられ、迫られて、翻弄されるはるたんは少女漫画のヒロインポジションそのもの。
…なんだけど、実は、お話的に真のヒロインは牧凌太だと私は思っている。
主人公に切ない思いを寄せ、思い切って思いを告げ、相手を思って身を引いて、ラストは主人公に選ばれる。
これ、完璧に「白馬の王子様が迎えに来たプリンセス」の立ち位置じゃないですか。
諦めていたのに、向こうから探しに来てくれるところなんか、シンデレラのラストとまったく同じだ。そう、本当のシンデレラは武蔵じゃなくて牧だったんだよね。武蔵には悪いけど。。
だから、この物語を見ている女性視聴者が牧に共感し、入れ込んで、バタバタと沼落ちしていったのだと思う。
このドラマにおける「牧凌太」、特筆すべき点は、林遣都が1人で作り上げたキャラクターではないというところだ。
「おっさんずラブ」は、単発版で既にこのドラマの成功の肝を掴んでいた田中圭が、「思い切りやろう!」と檄を飛ばし、キャストもスタッフも引っ張って成立したドラマだ。そこへ名優吉田鋼太郎も加わって、バチバチ火花を散らす演技バトルを繰り広げることになった。三者が三者とも、ポテンシャルをマックスまで発揮して、お互いに化学変化しあって、「はるたん」「部長」「牧」の関係性が生まれ、それがそれぞれのキャラを育てた。だから牧だけじゃなく、はるたんも部長も、撮影現場で育っていったのだと思う。
そして、その化学変化を、
「ハイ、カットー!! 今のところ、セリフ台本と違っちゃってるから、もう1回ね!」
と撮り直しするなんていう野暮な真似を、スタッフ誰もしなかった。
止めるどころか、それこそがこのドラマの成功のカギだと理解して、演者からどんどん生まれる「生」の演技を、ちゃんと撮って保存してくれた。
……ということは、シナリオブックを見れば分かる。徳尾さんの脚本、台詞があまりなかったり、「……」だけだったりする箇所がかなりあるもん。
その「一瞬」だからこそ生まれた演技が数々あるだろうし、それを永久保存したものがドラマの場面となっているわけです。
その点を取ってみても、このドラマがいかに「奇跡」の連続だったか、分かろうというものだ。
ドラマが終わり、牧としての人生も終わったはずだったのに、劇場版で再び林遣都が「牧凌太」に命を吹き込んでくれた。
劇場版の牧くん、観るたびに(つくづく綺麗な人だな…)と思うんだけど、気のせいじゃないと思うんだよね。
美しさが増しておる。
林遣都くんて、イケメンとしては割と不安定な部類に入ると思う(湖民の方ゴメンナサイ)んだけど、劇場版おっさんずラブの牧くんは、もう最初から最後までずーーっと綺麗。林遣都のコンディションが絶好調だったこともあるのかもしれないけど、憑依型俳優のことだから、「林遣都が綺麗」というよりは、「牧くんが綺麗」なんだと思うんです。私。
本気で愛した春田に選ばれ、結ばれて、春田に愛されて、牧くんは綺麗になったんだと思う。
花火大会の浴衣姿、発光してません…? 牧くんのところだけぴかっと光って見えますよね??
炎の中の2人については、レビューがまだこれからなのでここでは多くを書きませんが、気がつくと私の視線は牧くんの顔に釘付けになっていることだけ記しておこう。
2018年連ドラ版「おっさんずラブ」の奇跡は、春田の相手が牧だったこと。
牧を林遣都が演じたこと。
そして、我々民が「林遣都が演じる牧凌太」を愛しすぎてしまったことだ。
それはそれは、幸せな奇跡だった。
これから始まるSeason2に牧凌太が出てこないからと言って、春田と牧の物語も、我々がこれほど牧を愛したことも、なかったことにはならない。
これからも、みんなの胸に生き続けると思います。