おっさんずラブが好き!

ドラマ「おっさんずラブ」の細かすぎるレビューブログ。OLの深い沼にハマって当分正気に戻れません。ほぼおっさんずラブの話題しかないかもしれない。ネタはバレまくりなのでご注意を。

劇場版おっさんずラブ感想(がっつりネタバレ)⑮ 結実

 ところで皆さん、映画を鑑賞して一番最後、クレジットロールはどうされてますか?

 あれ、「見ずに出る」派と、「最後まで見る」派に綺麗に分かれると思うんだけど、私は昔からずっと「最後まで見る」方です。

 あれ見るの、好きなんですよね。メインキャストだけでなく、脇キャラの人たちの名前も知りたいし、音声さんとか照明さんとか衣装協力とか、ロケ地協力とか、あーこれだけ大勢の人たちが関わってこの作品が出来上がっているんだな…としみじみ感じて感動出来るからだ。

 そもそも私は「名前」が好き。人の名前も地名も、親の想いとか出身地とかその土地の歴史とか詰まってて、短いけどすごい情報量だと思う。

 映画のクレジットロールは字がちっちゃいのと流れが速いのとで、全部に目を通すのは難しいんだけど、そんなわけで最後まできっちり見て、劇場内の照明がついてから席を立つ派です。



 劇場版おっさんずラブは、ここまで感想を書き連ねてきたように、見どころは幾つもあるんだけど、初回鑑賞後、私がどの場面を目当てに劇場に何度も足を運んだかと言えば、

 

クレジットロール後のラストシーン

 

 ここですよ。

 クレジットロールの後にもう一度本当のラストが来るのって、遊び心のある映画によく見られるけど、いやーまさかこんな場面が待っているとは、初回は予想していなかった。

 2回目に観に行ったとき、クレジットロールが始まってから席を立つお客さんがパラパラといて、(ああっこの後! この後いいシーン来るんですよ!!)と止めようかどうしようかそわそわしながら座っていたものです。

 3回目、(周りの人だけでも阻止しよう!!)と決意を固めてラストを待ったが、もうその辺になると、立つ人は誰もいなかったです、幸いなことに。




 というわけで、ハイ!

「劇場版おっさんずラブ~LOVE or DEAD」のラストシーン、レビュー行ってみたいと思います!




 長いエンドロールの後、すこーんと突き抜けるような青空が映る。

 空から降りてきたカメラが、都心のある一角を映し出す。目の前は海。広いウッドデッキのような、展望台みたいな場所。

 画面左手にベンチがあって、春田と牧の姿がある。

 牧の傍らに大きなスーツケース。

 旅立ちの日なんだな、と分かる。




 牧くん、狸穴さんに打診されたシンガポール行きを受けたんですね。

 そう言えば、天空不動産本社の屋上かな? あの場面。

「お前も、家庭もあることだから…」

と狸穴さんの台詞にあったけど、あれは「春田というパートナーもいることだから」という意味だと私は解釈しました。

 だから多分、もう会社でも2人の関係は「婚姻」と同じだ、と公に認識されているんでしょうね。

 そして牧ももう、春田に相談することなく、一人で決めてしまう牧じゃない。

 懐から出して見つめるエンゲージリングは、牧がしっかりと春田を「伴侶」として認識している証だ。



「じゃ、行きますね」

「おう」

と、ここでの2人のやり取りはシンプルだ。

 でもなんかこう、通じ合っているのが見てとれる。この日を迎えるまでに、これから先のことをしっかり話し合ったに違いない。

「偉くなれよ、牧」

と言われた牧は微笑んで、

「官僚じゃないんですから」

と返す。そして、

「春田さんも、夢、叶えてくださいね」

と春田にエールを送る。



 この短いエール交換、私は好きだ。「おっさんずラブ」の世界のエッセンスがぎゅっと詰まっていると思う。

 「おっさんずラブ」では、終始一貫して、「それぞれ社会人として自分の仕事に邁進する」春田と牧の姿が描かれてきた。

 春田も牧も、それぞれに夢がある。同じ「天空不動産」という会社に勤める身だけど、その夢はまったく別で、今のところ交わる気配はない。

 パートナーであっても、別の夢を持って別の道を行き、お互いを理解して応援しあう、こういう自立したカップルの形、いいなあと思う。

 価値観が多様化している今を映した、おっさんずチームらしい決着のつけ方ではないかと思います。



「俺も絶対負けねえし……お前が地球の裏側で頑張ってると思ったら、なんか、頑張れるから」

「裏側じゃねえし」

 って、ここも牧くんとまったく同じタイミングで私も(いや、シンガポールは日本の裏側ではない)とツッコんでました。

 私はフレッシュでもイケメンでもエリートでもないけど、ツッコミポイントとタイミングは牧くんと完全に一致してるみたいです…!(あとツンデレ魂も)




 と、ここまで若干仕事モードっぽかったのに、春田がなんだか妙な顔をしてそわそわし始めたとたん、一気に恋人同士らしい雰囲気になるのが、何度観ても(座長と遣都すげーな…)と感嘆させられる。

 あ、なんか甘い言葉を言おうとしてるな、と察しがつくし、実際察したらしい牧が画面の中でちょっとくすぐったそうな笑顔になる。

 あの緩急自在な演技が凄いよね…!

「…え?」

と促した牧に向かって、

「じゃあな、」

とこの後の間がさあ! (あ、言うぞ、言うぞ、)と観客にも期待させておいて、

「………凌太」

ってこの恥ずかしそうな言い方がさあ!

 でもでもこの瞬間(「凌太」って呼ぶぞ!)って心に決めてたんだな春田!ということも分かって、春田と一緒になって上ずった気持ちになる。笑

 呼ばれた牧も、へへっと笑って、

「なんですか、いきなり」

 うわー可愛いー! デレてる牧可愛いー!!

「ちょちょ、呼んでみ?」

と、自分は「恋人を下の名前で呼び捨てする」というミッションを完遂して気分が上がってる春田、牧にも同じことを要求する。

「やだ」

て即答する牧くん。そうだよね、ツンデレの牧くんなら当然その答えだとは思うけど、

「呼んでみってば!」

と春田に強く言われるともう、逆らえない。

 ちょっと姿勢を正して、春田に改めて向き合うと、

「行ってきます。……………創一」

 くーーーッ、タメの長さに牧くんのツンとデレのせめぎ合いが凝縮されていて、いいですね…!



 で、ここ、シナリオだと

 

――春田、牧を引き寄せてキスをする。

  そんな二人の手には、指輪が光っている。――

       (シナリオブックP133)

 

 という、ほんの2行で終わってしまう場面なんだけど、そこを田中圭as春田創一と林遣都as牧凌太が演じると、やっと本当の意味で結ばれたカップルのハッピーエンドにふさわしい、甘々な数分間になっている。

 

 

 照れくさくてお互い、くすぐったそうに笑い合いながら、肩パンする春田と牧。

「もー、なに!」

 イチャイチャどつきあいしてるのがいかにも春田と牧らしいけど、春田がふっと真顔になって牧を見つめたかと思うと、正面から両腕を掴む。



 そのまま引き寄せて、牧に恋人のキスをする。



(あっ…)

と初めて見たとき、息を飲む思いでした。

 二回目見たときには、お隣のおばさまが実際「あらっ…」と小さく声に出していた。



 唇を離した後、春田もだけど、牧が春田の顔を見つめる表情が切なくて、本当に恋人でしかない。

 春田から牧にするキスをやっと見られたカタルシスがありながら、これが2人にとって別れのキスでもある切なさもあり、8回観て8回とも、胸の真ん中にずどんと来るというか、心臓が掴まれたようにきゅっとなる、名場面でした。

 

 

 牧の身体に両腕を回して、固く抱き締める春田。陰になっていても、左手の薬指にきらめく指輪はすぐに分かる。

 同じように、しっかりと春田を抱擁する牧。そしてもちろん、牧の指にも同じ指輪が光っている。




 2018年4月に「おっさんずラブ」のドラマが始まって以来、それはそれは多くの人を巻き込んで巨大化してきたこのOL沼。

 民のすべてが一心に願ったのが、

 

牧が春田と幸せになりますように…!!

 

 ということだった。

 そのみんなの願いが叶った瞬間でしたね…!



 春田と牧を応援していたのは、民だけじゃない。

 ドラマ版でも、最終的に春田の背中を押した武蔵。劇場版では、救出劇を牧と一緒に繰り広げながら、

「自分の気持ちは言わないと伝わらねえぞー!!」

「言わないのは本音でぶつかるのが怖いだけでしょ!?プライド高いだけでしょぉー!!」

「カッコ悪いところも全部見せあえるのがホントの愛なんじゃねえのかよ!?」

と、愛に未熟な牧くんを叱咤激励して、この上ないサポートをしてくれた。

 狸穴さんは……えーと、「狸穴教授の恋の特別講義」でしたっけ? それはなかったけど(「大丈夫です」と牧にアッサリ断られていた)、まあ、イイ感じに投じてくれた一石が二人の関係を深めるのに、結果的に役に立ったと。笑



 何よりもう、春田と牧の間には、強い絆がある。

 だから離れたとしても、この先もきっと大丈夫。

「じゃあな」

と短く別れの言葉を告げた後、違う方向へ歩いて行く二人の歩調は力強い。

 背景に広がる空も、どこまでも青い。




 一緒に歩んでいく未来の確かさを感じさせる、明るいラストでした。