おっさんずラブが好き!

ドラマ「おっさんずラブ」の細かすぎるレビューブログ。OLの深い沼にハマって当分正気に戻れません。ほぼおっさんずラブの話題しかないかもしれない。ネタはバレまくりなのでご注意を。

おっさんずラブ第二話④ 牧の憂鬱

 夜の天空不動産営業部。

 1人残った牧が、一点を見つめて考え込んでいる。

 スマホが鳴って慌てて確認するも、それは待ち望んでいたメールではなく、単なるスパム。

 まあこのタイミングで、「三億円受け取ってもらえませんか?」とか言われてもね。スマホを投げつけなかった牧くん、エライ。

 この後、スマホ画面を触って何か操作してるけど、シナリオブックを見ると、自分が送ったメッセージに既読がついているかどうかを確認していたんですね。でも未読のまま。

 思わずため息をついたとき、バタバタと足音がして、舞香さんが駆け込んでくる。



「あら、牧くん! まだいたの?」

 そそくさとスマホを内ポケットにしまいこむ牧。

「どうしたんですか?」

スマホの充電器忘れちゃって! 歳取るとダメね~、すぐ色んなところに忘れちゃう」

 デスクにあったペンを取って、今まで仕事していた風を装いながら、

「まだお仕事?」

「…ああ、こんな時間か。そろそろ帰ります」

 不自然でなく、帰り支度を始めようとするも、舞香ねえさんにはお見通しだった。

「ちょっと、何!? 暗い顔しちゃって! もしかして、恋の悩み?」

「グイグイ来るなあ…」

「だって今、誰かの返信待ってたでしょ」

 ズバリと言い当てられてしまう。

「やだ、何、本社の子?」

 追及の手を緩めない舞香さんに向かって、

「いや、その…」

と一瞬言いよどんだものの、

「――好きになっちゃいけない人を、好きになってしまったって言うか…」

 ぽろりと本音をこぼしてしまう牧。



 人を好きになることは素晴らしいことだけど、好きという感情は厄介だ。これほど自分の思い通りにならない感情もない。

 この人を好きにならない方がいい、好きになっちゃいけないと思っても、いや思えば思うほど、恋はどんどん育っていく。

 そんな思いを持て余している時期だったのかな、このときの牧くん。

 事情を何にも知らない人に、閉じ込めていた想いをつい吐露してしまう気持ち、痛いほどよく分かる。



「好きになっちゃいけない人」と聞いて、

「不倫!?」

と反応する舞香さん。

「いや、違います」

「不倫、ダメ! 絶対!!」

「だから、そんなんじゃないんですけど……最初から可能性のない恋ってあるじゃないですか」

 うん、それな。ゲイがノンケに惚れて辛いのは、そこんところよ。

 だから多分、春田を好きにならないよう、セーブしてたと思うんだよね。

 でも、好きになってしまった。

 

 ちなみに、

「そうね。私は全部それ」

という舞香さんの自分語り、牧くんも聞いちゃいねえなと思ってたけど、中の人も「無視です」と言ってて笑いました。

 

 

「なのに――止められない自分が、イヤになるって言うか…」

 そう言いながら、牧は笑みを浮かべる。

 自分の悩みを人に話すとき、笑いにまぶそうとする人は多い。そんなに大したことではないよ、笑える話でしょ、と相手に重さを背負わせまいとする気遣いと、自分に言い聞かせるはたらきと、両方だと思う。

 でも、牧の大きな眼は、心を映して伏せられがちだ。



 聞いていた舞香の脳裏に、今日武川さんと受けた春田の相談の内容がよぎる。

「今まで意識してなかった相手から、突然キスされて」

「男同士なんですよ」

(チーン!!)と、繋がったわけですね。舞香さん。

「チーン!」て実際口で言っちゃうところがアレだけど。



「じゃあ、お疲れ様です」

帰ろうとする牧を「牧くん」と呼び止める。

「好きになっちゃいけない人なんて、いないんじゃないかしら」

 

 うん、そうね。ホント、そうだと思う。

 誰かを好きになること、そのこと自体は、何も咎められるものではない。

 それにね、誰かを心から好きになれるって、人生でそう何度も起こるイベントじゃないからね。人を好きになる気持ち、大事にした方がいいと思うし、存分に味わったらいい、というのは、人生〇十年生きてきて思えることですね。若いときには分からないことだけど。

 舞香さん、いいこと言うぜ。



 しかし、

「押してうまくいかないなら、引けばいいじゃない」

 このアドバイスの辺から、若干雲行きが怪しくなってますね。笑

「そうですね…はい。ありがとうございます」

 礼儀正しい牧くん、そつなく返してるけど、このアドバイスを一体どう受け取ったのか。 牧が去ったあとの

「なーんつってw」

というセルフツッコミ、イイですね!

 牧の言う「好きになっちゃいけない相手」が春田だとアタリをつけた舞香さん、同性相手であっても、好きになったっていいじゃない!と言ってあげたくなった気持ちは本当だと思う。

 でも、「押してうまくいかないなら…」と激励の台詞を言ったあと、

(わー、なんかいっちょ前に恋愛のアドバイスしちゃってるあたし! この年で独身のくせに!)

と可笑しくなったんじゃないかな、と推察する。

(大体、ちょこっと聞いただけで、牧くんの相手が本当に春田くんかどうかも分かんないしね!)

てなって、

「なーんつってw」

になったのではないかな、と。

 親切だけどテキトーなおばちゃん感が出てて、イイと思います。



 牧くんのせつなさがひしひしと伝わる2話、おっさんずラブの各話の中でも好きな回です。一番よく見返してるかも。

 なんかね、恋の始まりの、がーっとボルテージがあがっていく感じとか、抑えようとして抑えきれない想いがこぼれてしまうところとか、牧くんに共感してときめくポイントがいっぱいあるんですよね。

 もちろん、どの回もそれぞれ見どころがあって、一番は選べないんですけどもね。