おっさんずラブが好き!

ドラマ「おっさんずラブ」の細かすぎるレビューブログ。OLの深い沼にハマって当分正気に戻れません。ほぼおっさんずラブの話題しかないかもしれない。ネタはバレまくりなのでご注意を。

おっさんずラブ第四話⑥ 春田家の食卓②

 この場面の肝はここからだ。



 蝶子さんからの宣戦布告にビビる春田に、「本気じゃないと思いますよ」とアドバイスしてあげる牧くん。

 でもそれだけでなく、

「まあ、ただ…」

と付け足さずにはいられなかった。




「春田さんも部長に対して、曖昧な態度を取ってるのがよくないんです」

 すぱっと言ってのける牧。

 これはもう、ずっと言いたかったことなんじゃないだろうか。部長と春田のやり取りを見ていて。

 この指摘、春田にとっては心外だった。

「曖昧? オレはっきりしてるよ気持ちは。ブレてねぇもん」

 そうね、確かに。部長に対して気がある素振りとか、焦らしたりとか、そういうことは春田は一切していない。

 春田の中では「曖昧な態度」を取っているつもりは微塵もないのだな。

 でも、

「それを、部長にちゃんと、伝えました?」

 と続けて言われると、春田は返す言葉に困ってしまう。




「つきあう意思はない、恋愛対象としてまずない、って、部長にちゃんと言いました?」

「いや、それは……」

 勢いよく反論しようとして、春田の声は尻すぼみになる。言ってないからね。

 春田には色々言い分があるだろう。相手は上司、きっぱりと断る=波風を立てることに他ならない。部下の立場としては言いにくいですわね。

 しかし、こと恋愛に関しては、牧の言う通り。曖昧はよくない。

 先の展望が見込めないのなら、早めに事実を告げなければならない。

 それが相手のためでもある。



 

 牧と春田の二人が台詞を応酬するこの場面、ダイニングテーブルを挟んで、二人の位置が対称にある。

 視聴者として見る我々は、引いた位置から二人のどちらも同じ距離で感じているんだけど、牧がこの台詞を言う場面で、カメラは牧のバストアップを寄って捉える。その視点の変化とこの台詞とで、視聴者はぐっと牧の心情に引き寄せられることになる。

 なぜなら、

「恋愛対象としてまずない」

のが、牧も同じだからだ。

 春田はロリの巨乳が好きなどストレートの男であって、部長にしても牧にしても、春田の恋の相手にはならない。

 牧のこの台詞に、

「俺は春田さんを好きだけど、春田さんが俺を好きになることはないって、ちゃんと分かってます」

という彼の内心の苦衷が滲み出ているように感じてしまう。




 だから、

「はっきり言わないことは、…優しさでも何でもないですよ」

という台詞が、それはもうぐっと来るというか、

(ああッ牧くん! くぅ~切ねぇ……)

と、一瞬にして胸をかきむしられる思いに捕らわれる。

 そうなんですよ。テンポよく進んでいくストーリーに気を取られて、うっかり忘れがちだけど、ここでの牧くんはまさに

「告白したもののはっきり断られてない」

という、言わば生殺し状態なわけで。

 て言うか、春田が忘れてるんだろうね。春田にすれば、

「ごちゃごちゃ面倒なことは抜きにして、せっかく楽しいんだし、友達として同居生活を続けたい」

というのが本音で、今のところその通りの状態だもんね。

 ごはんもお弁当も作ってくれて、家事もやってくれて、仕事の相談も出来てさ、めちゃくちゃ快適な生活を送れているわけだ。牧くんのお陰で。

「告白を保留にしている」という部分は都合よく忘れてそう。忘れてはいなくても、なんとなーくうやむやにして、(ま、いいか)と思ってそう。

 第四話までの春田は、概ね人に対して素直で正直だけど、そういう繊細な心の襞まで汲み取って気を配る……という細やかさには欠けているキャラとして描かれている。




 林遣都演じる牧凌太は、自分の気持を抑えがちで、我が我がと主張するキャラではない。

 春田とひと悶着あって気まずくても、平気なフリで朝ごはんも作るし、お弁当も作ってしまう。

 春田と会社の先輩後輩として接している場面では、恋心なんか全然出さないんだよね。

 それが、こういう場面ではふっと牧の心の揺らぎが立ち現れる。

 林遣都の演技がうまいなあと思うのは、本当にまったく、わざとらしさがないところだ。

「はっきり言わないことは、」

 とここまでは、対黒澤部長のアドバイスとして強めに言っていたのに、ふと視線を落として、

「……優しさでもなんでもないですよ」

この言い方ね。牧くんの、いつものぶっきらぼうな言い方のようでいて、ごくわずかに、「恋している相手の恋愛対象でない」ことの哀しみというか、「相手が超絶鈍感男で実質生殺し状態」である苦い気持ちとか、そんなようなものが感じ取れる台詞回しだと、私は思う。

 だけど、すぐ体勢を立て直すんだよね。

 春田よりも先に夕食を終えて、すっと立ち上がって食器を運ぼうとする。

 それはもう、普段の冷静な牧の姿で。

 何か言いたいけど言い返せない春田が、悔し紛れに箸でちょっかいを出して、牧の茶碗をちょりんちょりんと鳴らす(行儀悪いね)大人げのなさと対称的だ。

 しかしこの、牧の抑えた気持ちが現れる場面がほんの一瞬であればあるほど、見ている方としては

(あっ……)

と息を飲む思いになって、牧の気持ちに同化し、切なさに見悶えしたくなってしまう。




 さっさと食器をシンクへ運ぶ牧の背中を見つめる春田。

 困ったように口をへの字にして、でも何も言えない。

 その表情も、何とも言えず愛嬌があるんだけども、この時の春田の中では多分、既に牧に対する気持ちが段々と変わってきている時期だと思う。

 だけど、それを春田自身が自覚するには、もう少し時間が必要なのだった。

 

 

 

 あ、そうそう、遣都君、ご結婚おめでとうございます!

 役者同士、お互いの仕事を理解し合えるよいパートナーとなれれば心強いですよね。

 私生活も充実され、今後ますますのご活躍、心よりお祈り申し上げます。