ここんとこずっと、休みの日にはアマプラで「孤独のグルメ」を見ている。
きっと面白いんだろうな~と思いつつ、見る機会を逸していたドラマの一つ。
今や動画コンテンツが花盛りで、見たいと思ったドラマは大概どこかでやっている。
これもコロナ禍が変えた世の中の形だなあ。
このドラマ、ただひたすらに
「松重豊が飯を食っているだけのドラマ」
と言っても過言ではない。
なのに何故こんなにも惹きつけられてしまうのか。
謎。
松重豊演じるゴローさんこと井之頭五郎は、「輸入雑貨の貿易商」という仕事を自営でやっている。
毎回、その仕事の相手とのやりとりが描かれ、一癖も二癖もある顧客の皆さまに翻弄されつつ、自分の仕事をきっちりやろうとするゴローさんの誠実さとか、職人気質な性質が視聴者に示される。
カタログをめくってすぐに
「これにする!」
と即決したかと思いきや、10秒も経たないうちに
「あ、やっぱりこっちにする」
「いや、やっぱりこれだな!」
とコロコロ注文を変更した挙句、
「こんなに選択肢をくれる井之頭さんが悪い」
と平然と言ってのける小男や、
「井之頭さん、独身なんでしょ?」
と口説いてくる配送業の女性や、
「あのー、なんか、エモい感じで!」
とサッパリ具体的なイメージを言わない若者等々、登場する顧客のキャラがなかなか濃ゆい。
見ていて(えー、こんなお客さん、困るなー…)とこちらも思わされるのだが、彼らと真摯に向き合ったゴローさん、困難な折衝が終わると大抵
(腹が、減った………)
と棒立ちになるのであった。
1stseasonの三話あたりまで見ると、もう大体(あ、そろそろゴローさんの腹が減るな)と見当がつくようになる。
ビンゴのタイミングで
(腹が、減った………)
てなって、ちょっと口を開けて街中で呆然としているゴローさん、もとい松重豊。
そこから気を取り直して、
(店を探そう)
と決然と歩き出す。
ただそれだけなのに、なんと言うか、「絵面が決まってる」というのかな。なんとも言えず、様になってるんですよね。
演者である松重さんが長身痩躯だからなのか。
私は「面魂」のある顔が好きだと、再三述べてきたと思うけれども、松重豊という俳優にはこの「面魂」が間違いなくある。醤油顔だかソース顔だか知らんが、昨今ふにゃふにゃした面の優男がもてはやされる傾向にあるけれども、「面魂」は大事だと思う。(どん!)
ま、表情によっては般若のごとき形相ともなり、見る人をビビらせることもあるんですが(笑)、ともかくも松重ゴローは、
「おっさんが一人で空腹を感じて飲食店を探してものを食べる」
というだけのドラマを、難なく成立させてしまっているのだった。
タイトルに「グルメ」とあるけど、気取ったグルメ評論なんかでは決してない。
選ばれる店は、その辺のごく庶民的な店だ。海辺の街で漁師飯を出している食堂とか。一見猥雑な、メニューが100以上あるんじゃないかというくらいの居酒屋とか。
そういう店でゴローは飯を食う。おっさんだから、頭の中でしょうもないことを考える。
絶対とんかつを食べたくて歩き回った末に美味しそうなとんかつ屋を見つけて、
(歩いた甲斐が有馬温泉)
とかダジャレを呟いちゃう。
でも彼はふざけているわけではない。今から食べようとする料理と、ゴローさんはいつだって真剣勝負だ。
(さて、どこから攻めるか…)
とメニュー表を睨んで沈思黙考する。
(店主のおススメにそそられるけど、ここは初志貫徹)
と意思を曲げないこともあれば、
(え、じゃあこっちにしてみよう)
と冒険することもある。
いざ料理が運ばれてくると、しげしげと見入る。
今ちょうどSeason7の第一話を見てるんだけど、とんかつの大きさに仰天したゴローさん、スケール出してサイズを計っていた。
なんでやねーん、と思うけど、それだけ目の前の料理と真摯に向き合っている…ということだろう、多分。うん。
そして実食。松重ゴローさんは本当に旨そうに飯を食う。口一杯にほおばって、もぐもぐして、幸せそうだ。見た目、寡黙なおっさんが黙って飯を食っているだけの光景だが、このゴローさん、食べながら脳内で実に饒舌に食べる喜びを述べている。
そんで、
「いかにこの食材のポテンシャルを引き出すか」
に全力を注ぐんだな。
まずは王道の食べ方。落ち着いてきたら、副菜と混ぜたり、違う調味料を試したりして味変を楽しむ。
でまたよく食べるんだ。この健啖ぶりは羨ましい。演じる松重さんは実は小食で、孤独のグルメの撮影日は前日から飯抜きで備えるそうな。
これだけ味わって、楽しんで、しかもお腹いっぱい食べてもらえたら、料理を提供するお店側としても、料理人冥利に尽きるだろうと思う。
うわーこんな料理を出す店があるのか、へえー初めて見た、美味しそうだな……等々、視聴している側としても感想が尽きない。
この、「寡黙なおっさんが黙って飯を食う」だけのドラマが、ここまで高く評価されている理由の一つには、松重さんの食べ方が非常に綺麗、という点が挙げられるだろう。
「食べ方」って大事じゃないですか。その人の育ちというか、素養というか、そんなものが出ますよね。
松重ゴローさんは、食事の最初に必ず箸を持って手を合わせ、
「いただきます」
と言う。
で、もりもり飯を食うんだけど、がっついてないし、男らしいんだけども汚らしくない。
箸さばきも美しい。
あと、ゴローさん、決して孤独な人ではない。友達も仲間もいるんだけども、このドラマでは、誰かと会食するシーンは描かれない。
徹頭徹尾、ゴローさんは一人で飯を食う。
それが潔く、私のようなお一人様慣れした者から見ても共感できるポイントかもしれない。
余談だが、私もかつてゴローさんと同じような生活をしていたことがある。
ある地域を担当する外回りの営業だったんですね。朝から出かけて、お昼は大抵、取引先の近くでとることになる。
担当地域が広かったので、色んな場所に行ったし、その土地の美味しい店を覚えたりもした。
「孤独のグルメ」を見ていると、その頃の記憶が蘇ってきて、懐かしさを感じる。
ただ、私は即断即決の人間で、店を決めて入ったなら食べるものに迷うことはほとんどない。
直観とフィーリングで(今日はこれ)と決めるのに、1分とかからない。
なので、メニューを睨んであれやこれや思案して迷うゴローさんを見てると、
「さっさと決めえや」
と歯がゆい気持ちになったりもする。笑
テレビ東京って、ホント、ドラマの作り方がうまいというか、センスがあると思う。
このドラマも多分、予算てそれほど潤沢じゃなかったんじゃないかな? でも、ちゃんと面白いドラマに仕上げている。
各場面で決まって流れるBGMも楽しいんですよね。ゴローさんが料理と向き合うときは、ちょっと合戦ぽい雰囲気の打楽器音が響くし。
エンディングの、
~ゴロー♪ ゴロー♪ い・の・が・し・ら♬ Fooo♫
みたいなテーマ音楽も、耳について離れない。
料理が紹介されるとき、下にちょっとしたキャプションがついているんだけど、毎回、
「どんな味だか全然分かんない」
んですよ。
さっき言ったSeason7第一話のロースかつなんか、
「かぶりつけ! そして震えろ!」
だし、他にも
「酒のみには堪らない!」
とか、
「滅多におめにかかれない!」
と稀少性を訴えたり、
「味は虹色 レインボー!」
てよく分かんない例えになっちゃったり。
味は分からない。分からないが、喜びと興奮は伝わる。
(それ要る………?)
て思ってたけど、「孤独のグルメ」的にはこれで正解なんだろう。
ともかく、全編を通して
「楽しい」
「美味しそう」
「癒される」
の三つ巴。
なるほどなあ、こりゃハマる人がたくさんいるのも頷ける、と今更思わされたことでした。
そんで、アレですね。「孤独のグルメ」の成功を見て、同じようなドラマがめっちゃ作られてるんですってね?
たまたまこないだ、そういうドラマを見た。主演の演者さん、私が好きな役者だったけど、悪いが全然あかんかった。
だけど、そのお陰ではっきりと分かった。
やはり、「孤独のグルメ」は別格だ。
主演の松重豊の演技力と品格、制作側の演出、何もかもがかっちりとハマっている。
「おっさんが飯を食っているだけのドラマ」と、何度も書いたけれども、このドラマを見ていると、人が美味しそうにものを食べている光景というのは、なんと平和で豊かなのだろうか、と気づかされる。
ゴローさんが街でごはんを食べている限り、日本は平和だ、という安心感すらある。
私がアマプラでハマり始めたのを察してくれたかのように、新たにSeason9の放送が始まった。
善哉。
ゴローさん、ちゃんとマスクをつけている。お店に入ったら手の消毒も欠かさない。
コロナだってドラマは作れるじゃないか、ということも示してくれていて、ますますテレ東さんの好感度が爆上がり。
今さらですが、ハマりました。
未見の方いらっしゃいましたら、是非。