この、おっさんずラブドラマ版&劇場版の長い長い感想を何章にもわたって書きながら、合間に他の録画ストックも見ている。
おっさんずラブの次によく見るのが、「アンナチュラル」だと思う。
このドラマも実に秀逸なドラマで、一話一話丁寧に作られているのと、俳優陣の演技が非常にレベルが高く、裏話エピソードを聞かずとも、現場で科学反応が起きているんだろうな、と分かる。
キャラの造形も奥深く、何度繰り返して見ても新しい発見がある。
ハードにリピートしても一向に飽きないという点では、おっさんずラブとまったく同じだ。
では、「アンナチュラル」のドラマ感想を連載したくなるか?と問われれば、これも「妖怪人間ベム」同様、「否」なんですよね。私の答えは。
(おっさんずラブと何がどう違うんだろう?)と、自分の中で興味深く感じたので、ちょっと考えてみた。
それがちょうど、「蝶子と麻呂」の文章を考えている時期と重なって、
「二度とあんな思いはしたくない」
という蝶子さんの台詞で、
(あーそうか……)
と、一つの解答を得た気がした。
徳尾さんの脚本の特徴として、「キャラがしゃべり過ぎない」ことが挙げられると思う。
蝶子さんも、あれほどの目にあいながら、自分の心情を述べたり、誰かに延々と愚痴ったりする場面は見られなかった。ただ、物語の前後から、我々視聴者が(当然こうであろう)と思われる彼女の気持ちを推し量っただけだ。
そこへ、こうして徳尾さんがポン、と(かどうかは知らないが)蝶子さんに言わせる台詞が、描かれなかった背景を匂わせるものになっている。
描かれなかった情景を「表す」のではなく、あくまで「匂わせる」であるのがポイントだ。
描かれなかった背景を想像で補っていた視聴者にとっては、点と点が繋がって、「あーそうか!」と深く得心がいく、という仕掛け。
蝶子さんの立場って、これまでの恋愛ドラマだと、「主人公に恋した上司に捨てられた元妻」と表現出来てしまうわけだ。この「捨てられ元妻」って、多分ありきたりなドラマでは、相当雑な扱いを受けるキャラだったと思う。恋愛ドラマに造詣が深くないから断言はしないけど。(違ったらごめんなさい)
その「元妻」も、単なる「捨てられキャラ」じゃなくて、「別れを受け入れて離婚を選んだ元妻」にしたあたりが、徳尾脚本の、そしておっさんずチームの優しさだと思う。
どのキャラに対しても、制作側の愛情を感じる。
だからして、蝶子さんと麻呂も大団円ですよ!
劇場版の終盤。料亭らしき建物が映って、「?」となっていたら、なんと、麻呂が蝶子さんと元夫の部長を呼び出していたんだな。
部長に向かって、
「蝶子さんを僕にください!」
と頭を下げる麻呂。
うーむ、蝶子さんと実家の背景が分からないが、とりあえずこの作品世界では、一番一緒に長く時を過ごして、離婚したとは言っても円満な関係を続けているらしい部長に「許可をもらわねば!」と麻呂が考えたのは、納得できる。
そして部長も受けて立つ。
「ちゃんと幸せに出来るんだろうな?」
という台詞、私は、(他の人に心を移して、蝶子さんを幸せにしてやれなかった)という責任を感じる台詞として、「よし!」と思ったんだけど、これもまた、見る人の立場によって感じ方が異なりそうな気もしますね。
そして麻呂、気負って口火を切った割に、
「………たぶん」
て急に弱気を見せるのが可笑しい。笑 劇場内でも笑い声が上がってました。
部長に鬼の形相で睨まれて、
「いや、きっと」
さらに
「絶対!」
と言い切る。
これに対して、部長の返答がまたいいんだ。
「許す!」
とかじゃないんだよね。
「なら全力で応援しよう!」
だもんね。
こう、上から発言ではなく、色んな立場の人を傷つけない台詞の言葉選びが、ホントに秀逸だなーと思っていました。(過去形なのはここを読んでいる皆さんなら察しがつくと思うのでそっとスルーでお願いします)
麻呂、蝶子さんに向き直り、
「蝶子さん。俺と結婚してください!」
と改めてプロポーズ。
麻呂としては、きちんと筋道を通して、正面からどーんとぶつかったわけだ。
いやー、麻呂、若いながらこのあたり、天晴れだと思う。
蝶子さんも、
「……もー、なんか色々間違ってるけど、ハイ! …分かりました!」
と遂に白旗を掲げる。
この後、調子こいた麻呂が立ち上がって、
「えー、フツツカ者の私ですが、この際2人まとめて幸せにします!」
と宣言し、
「お前、そういうことは座って言うもんだ。何立ってんだ。座れ」
とそこは年長者らしく部長に諫められ、蝶子さんは泣き笑い…という場面もご愛嬌。
ということで、蝶子と麻呂の歳の差カップルも、無事にゴールを迎えました。
最初はどうなるかと思ったけど、麻呂、イイ男に育ったよ!
そのまま素直に色んなことを吸収して、もっともっと大人になって、蝶子さんを幸せにしてあげて欲しい。
麻呂なら、ヘンに常識のある大人の男や、無駄に経験値の高いおっさんよりも、柔軟に物事に立ち向かいそう。
周りが思いもつかないことを言い出して、振り回しつつも、傍らにいる蝶子さんがいつも笑顔でいられるような、そんな気がします。