さて、春田と牧の2人以外に、OL民の大部分からその行く末を心配されていたカップルがある。
そう、それはもちろん、蝶子と麻呂だ。
「オレ史上空前の蝶子ブーム来てんすよ!」
と天空不動産の屋上で名言を爆発させた麻呂、黒澤部長の元妻・蝶子さんに果敢にアタックして、最初は全然相手にされなかったものの、「気の置けない年下の飲み友達」もしくは「若いボーイフレンド」くらいな立ち位置にはつけたようだ、と提示されてドラマ版では終わっていた。
ドラマ版終了後、春田と牧はどうしてるかな…と思うにつけ、(麻呂と蝶子さんはどうなったのかな。うまくいったのか、それとも進展がなかったのか…)と、こっちの2人も気になっていた。
劇場版の情報が解禁された後、蝶子さんのキャラビジュアルが公開されましたね。
「君を子供だと思っているなんて、本当は嘘だ」というキャプション、悶絶した麻呂蝶ファンも多かったに違いない。
私? もちろん(蝶子さ~~~ん!!)と歓喜しましたとも!
頭を打った武蔵が運び込まれた病院に駆けつけるところも、「なぜ春田の記憶だけ失ってしまったのか」を審議する場面も、仲睦まじい様子を見せていた麻呂と蝶子さん。
春田と牧が浴衣デートに出かけた花火大会、このカップルも楽しんだんですね。しかも屋形船って、多分麻呂が頑張ってお金出したんだろうな。
(浴衣姿の蝶子とオレ……満開の花火を見上げる2人……くーっ、いくらだろうと実質タダっしょ!)
とウキウキ計画を立てる麻呂の様子が目に浮かぶようだ。
そりゃ、蝶子さんが浴衣じゃなけりゃ、拗ねちゃうよね!
麻呂が不機嫌な理由が、「自分が浴衣じゃない」ことであるのにズッコケた蝶子さん。
「え、そこ!?」
とビックリする。
…で、台本はここまでなんですよね。ここから先はもしかして、2人のアドリブなんだろうか。
「ごめーん」
と蝶子さんが麻呂に謝る。これがさ、ドラマ版終盤で「麻呂はコドモだね~」とあしらっていた態度と全然違ってて、(あ、ちゃんと彼氏だと思ってるんだ)と分かる態度ですよね。
「いいよ」
とすぐ許しちゃう麻呂。で、それだけじゃなく、
「……大好き♡」
と付け加えるのが麻呂だね! 言い方も表情も、本当に大好きなんだなと伝わるし、年下彼氏の可愛らしさを存分に発揮している。
麻呂はドラマ前半、自分中心なところがあって、会社では周りを振り回す場面もあったけど、裏表がなく、自分の心に正直なキャラとして描かれていた。
ここでも、蝶子さんに対する愛情も信頼も隠すことなく見せていますね。こういうところ、実は一番の恋愛巧者なんじゃなかろうか。
「機嫌なおった!笑」
と蝶子さんも笑顔に。うーん、甘え上手だな!麻呂。
この場面、2人とも可愛くて、ほっこりするシーンだ。
そしてこれが全部アドリブならすげーな!笑
ぐっと来たのはこの次。
春田と牧が手つなぎデートで盛り上がっている頃、蝶子と麻呂も佳境を迎えていた。
頭上に花開く花火を見上げる蝶子と、その表情を眩しそうに見つめる麻呂。
「蝶子、」
と語りかける口調といい、その前のタメといい、「意を決して口を開いた」という様子がダダ洩れで、でもそこが麻呂らしくて微笑ましい。
蝶子さんにもそれが伝わったんだな。
でも、
「ダメ」
と即断られてしまう。……というか、プロポーズの言葉を言う前に制止されてしまう。
「私はもう、結婚するつもり、ないから」
ここ、見る人の立場によって、感想が違うんじゃなかろうか。
私は独身だけど、麻呂よりは蝶子さんに年齢が近いので、(あ~分かるわ~…)と、共感の嵐でした。
「いくつ離れてると思ってんの」
この理由がもうせつないというか、つきあうならいいけど、結婚となると躊躇うのは超分かる!てなるよね。
親子ほど年齢が離れていたら、なかなかうまくいくのは難しかろう。
世代間のギャップもしかり、経験値の差しかり。
年齢が離れていても不思議とウマが合い、仲良くなれる相手が稀に見つかることもある。それは多分、魂が近いんだと思う。私もそういう歳の離れた友達がいるから、その辺は感覚で分かる。
ただ、それが結婚相手となるとね……特に、自分が年上なら、目の前にいるこの人は、本当に自分と一緒になるのが最善の道なんだろうか、と相手の幸せを考えてしまうのが普通だろう。
「部長が忘れられないんだ?」
て麻呂が短絡的に考えるのも、分からんでもない。こういう感覚、まだ若い麻呂には想像つかんかもしれん。麻呂から見て、綺麗で素敵な大人の女性として映っているんだろうし。
でもね、麻呂、年齢を重ねていても、いつも余裕があるわけじゃないのよ。やっぱり臆病になっちゃうときは臆病になるもんなのよ。
「今はよくても、熱が冷めたらどうするの」
という蝶子さんの台詞、率直ですね。この先、自分がもっと歳を取ったときに、麻呂の前に若くて可愛い女性が現れたら……と、そりゃもちろん何度も考えたことだろうと思う。
この辺は、年齢や性別を問わず、本気で人を好きになったら、誰でも臆病になる、という証かもしれません。
繊細なツンデレ青年牧だけでなく、気っぷのいい蝶子姐さんも同じ。
続けて、蝶子さんは麻呂にこう告げる。
「私はもう、二度とあんな思い、したくないのよ」
最初にこの場面を見て、蝶子さんのこの台詞を聞いたとき、ドラマ版が一気に蘇って、胸が締めつけられる思いがした。
部長からいきなり離婚を切り出され、浮気を疑って、当の相手の春田と「ハルカ」探しに奔走するという、前半は完全にコメディパート担当だった蝶子さん、夫の気持ちが自分に戻らないと悟るや、潔く別れを受け入れ、それだけでなく、ピントのズレたアタックで春田を攻略しかねていた夫を見かねて「作戦立てるわよ!」と応援団の団長に就任しちゃった。
可愛らしいんだけどサバサバしていて、男らしささえ漂わせていた蝶子さん。
そのキャラが一変したのがこの台詞だ。
一変したというか、「キャラにくっきりと陰影が生まれた」瞬間と言ってもいいかもしれない。
長年連れ添って、誕生日にはレストランで食事、薔薇の花束のプレゼントまでしてくれた夫が、何の前触れもなく「離婚してくれ」と言い出したのだ。
自分から心が離れて、しかも相手は部下の青年で…と、蝶子さんにとっては受け入れがたい事実であったに違いないことは想像に難くない。
それが分かるから、蝶子さんが口にせずとも、我々は彼女を応援する気持ちになった。
ここで「二度とあんな思いしたくない」と蝶子さん自身の口から語られることで、(ああ、やっぱり…!)と、私の中の蝶子さん像がよりリアルなものになった。
その苦悩を味わった彼女が、まだ若い麻呂と一緒になるのを躊躇う気持ちは分かる。超分かる。
でも、だからこそ、幸せになって欲しい。
そう思いながら迎えたラスト。
さすがおっさんずチーム、この2人にもちゃんと幸せな結末を用意してくれていました。
……うーん、今度こそ1章でまとめる予定だったんだけど、案の定長くなりました。ゴメンナサイ。
続く!