おっさんずラブが好き!

ドラマ「おっさんずラブ」の細かすぎるレビューブログ。OLの深い沼にハマって当分正気に戻れません。ほぼおっさんずラブの話題しかないかもしれない。ネタはバレまくりなのでご注意を。

おっさんずラブ 第一話 ⑤ 春田と牧と桜並木

 さて、タイトルアップからは牧のターン。

 

「まずですねェ、マンションによってはポスティング禁止のところもあるから、必ず管理人さんに許可を取って」

 若干先輩風を吹かせつつ、牧にポスティングを指導する春田。

 

 牧が本社でやっていたのは都市開発だ。3話か4話で明らかになる牧の資格は「再開発プランナー」。手掛けるのはそれこそ豊洲のような一大プロジェクトで、取引先は公的機関や大手建設会社だったはず。となると、マンションに物件のチラシを配布するのなんか初めてのことでしょうね。

 そういう大きな仕事と比べて、街の人相手のポスティングなんか…とクサってもおかしくなさそうだけど、牧は至極真面目にうなずいている。

「ここが一番難しいんだけど、なるべく折り曲げないように、軽く入れて」

とポスティングを実演してみせる春田。

「軽く…」

 牧は生真面目に復唱しながら、「やってみ~?」と渡されたチラシを見よう見まねで郵便受けにそっと入れる。

 

 うんうん、先輩・後輩の微笑ましい姿だ。



 ちなみに、「なるべく折り曲げないように軽く入れる」のは、別に難しくはない。難しくはないが、「意外と重要なポイント」であることは間違いない。

 不動産のチラシがぎゅぎゅ詰めになってはみ出しているような郵便受け、見たことありませんか? アレはダメです。あんなくちゃくちゃになったチラシを見て、「ここに問い合わせてみよう!」と思う人がいるだろうか。いやいない。少なくとも私は思わない。

 なので、郵便受けに入れたチラシが、皺にならず読む人の手に渡るように、気をつけながら入れます。チラシで溢れた郵便受けは死んでいるも同然なので、上からは入れません。

 そんで、この手の郵便受けは、蓋がパカパカするので、あまり音を立てないよう、そーっと入れます。マンションの住人に見られたとき、感じ悪かったら、やっぱり「あそこに問い合わせよう」と思ってもらえる確率が下がっちゃうからです。

 以上、現役不動産屋からの余計な豆知識でした。



 春田先輩からのポスティング指導が行われているところに、

「春田くん!」

 管理人さんがやってくる。

「あー! こんちは!」

気安く挨拶する春田と、この管理人森崎さんとは、すっかり気心が知れている様子だ。

「ちょうどいいときに来た」

「ん?」

「これから持ってくるから」

「あー、またお見合いでしょ? いいよまだ」

「もうイイ歳でしょ。今度は大丈夫だから」

 ハハハ、これ、完全に親戚のおばちゃんと甥っ子の会話だよね。いるいるこういうおばちゃん。

 2人の長閑な会話を聞いて、牧の顔もほころぶ。

 

「今度は大丈夫」とは何が大丈夫なのかと言えば、

「あなたの好みのおおーきいの」

 ジェスチャーでお相手の特徴を表現するおばちゃんに、

「イヤイヤおばちゃんおばちゃん。だから、俺が好きな大きいっていうのは、ムネだから」

と大真面目に抗議する春田。いや、うん、そうなんだ。おっぱい星人なんだね。それはいいんだけど、そのジェスチャー、要る?

 



 街を歩く2人。道ゆく人が口々に春田に挨拶して通り過ぎる。人懐こく「はーいこんちはー」「お、お散歩してるのかあ」と返す春田。

 

 ここ、いい場面ですね。陽性で温かくて人との距離が近い、春田というキャラクターの性格がよく出ている。背景の桜並木とも合ってますね。

 ところで、春田のことを「創一」と名前で呼ぶ人は母親以外におらず、幼馴染でさえ「春田」と苗字で呼ぶけれど、「はるた」という音の響きが、濁ってなくて、明るくて、裏表のないイメージがあるからじゃないかと私は勝手に推測している。

 牧が発する「はるたさん」という呼び方の響きも好き。

 

 街の人々と触れ合う春田の姿を見て、牧がしみじみ言う。

「同じ不動産でも、全然やってること違うんですね」

 そうなんですよね。「不動産」と一括りに言っても、行政主体のハコモノもあれば、一般の人たちが買う家もあるからね。この営業所は、エンドユーザー向けの物件を多く扱っているようだ。

「あー、ま、営業所は街とか人が好きじゃないと成り立たないかんねー」

 真面目に受けた後、

「なんつてー」

と照れ隠しにおどけてみせる春田。でもこの辺で、多少ポンコツだとしても、春田は春田なりにポリシーとかモットーとか持って仕事に励んでいるんだな、と分かる。人が好きで、営業の仕事を楽しんでいる様子が視聴者に伝わる。

「いや、すごいです。春田さん」

 牧の言葉は素直な称賛だ。

「イヤミか。成績ドべだわ。イヤミか」

と冗談で返す春田の言葉には、まったくイヤミがなく、何の毒もない。



 ここからは完全な憶測なんですが…

 不動産業界の営業って、割とハードな世界なんですよ。牧がいた天空不動産の本社がどんなところかは想像するしかないが、多分春田みたいな人はいなかったんじゃないかと思う。

 少なくとも、自ら「成績ドべだわ」と自虐ギャグに持っていくマインドの人は、ハコモノ関係の仕事にはいなさそうな気がするなあ。ま、天空不動産は超絶ホワイト企業と呼び声高いから、スタンドプレーで出し抜き合うような営業とは無縁なのかもしれないけど。



 そして、ここまでの挙措で、なんとなく牧くんは内気で人見知りっぽい様子がうかがい知れる。管理人の森崎さんにもそつなく挨拶しているけど、春田みたいに「おばちゃんおばちゃん」と呼んで慕うまでに至るには、時間がかかりそうだ。

 だから、どんな人とも仲良くしている春田の様子を見て、眩しそうにしている牧の表情にも得心がいくし、ここから徐々に牧が春田に惹かれていくのも、何の説明がなくとも納得してしまう。

 まー何しろ最初がアレだからね! このポスティングの時間を経て、牧の中で春田の株が急上昇したのは想像に難くない。



 武川主任からの電話で、マロが引き起こしたクレーム処理に向かうことになった春田。

 マロのことを「何言ってるかサッパリ分かんねえんだよ」とバッサリ切り捨てる武川さんの台詞に笑ってしまった。さもありなん。どうせ「オレ悪くない」言い訳のオンパレードをあの独特のマロ語で堂々と語ったんだろうな。

 この武川主任が、たったこれだけの説明で春田に「任せた」というわけですよ。不動産のクレームって、まあまあややこしいのが多いんです。そして、どんな商売もそうだけど、「顧客からのクレーム」って、スキルのある営業じゃないと収められないからね。

 でも春田なら多分、クレームをなんとか収めちゃうだろう。で、武川主任もそう思ったから春田に一任したんだろう。

 こうしてみると、春田は決して仕事の出来ない人間ではなく、後々の出世につながるポテンシャルを秘めていることがよく分かる。



 ここまででおおよそドラマが始まって15分弱。それで、登場人物のキャラクターが大体分かってきてる。

 それと、こうやって何度も何度も繰り返して見た挙句、重箱の隅をつつくようにレビューに書き起こしてみても、綻びや矛盾・破綻がほとんどない。テレビドラマって、撮る方も長期間にわたって撮るので、途中で事情が変わったりなんだり、DVDを通してみると「んー、ちょっと矛盾してるけど、まあいっか」と片目をつぶって鑑賞せざるを得ないときがある。けど、おっさんずラブはほとんどない。

 うまい作り方だなあ、と思います。



 ところで、管理人さんと春田との会話、

「オレが好きな大きいっていうのは、ムネだから」

と巨乳好きを春田が告白したとき、牧がちらっと眼を伏せるんだけど、

(やっぱノンケか)

と確認して、ちょっとガッカリしているように見えないでもない。

 さりげない一瞬の表情の変化なので、断定は出来ないけど。

 でもだとすると、この時点で牧くんは結構春田のことを気に入ってたのかもね。

 …などと、見る人が想像を広げる余地が無限にあるところも、「おっさんずラブ」というドラマの優れた点だ。

 しかし何度見ても、林遣都の演技、繊細で、計算されつくしていて、震えますね。。。



 そして「けいさん」と入れると私のパソコンは予測変換の1番目が「圭さん」になる。

 賢い。そのまま覚えとくように。