さて、場面は変わって春田の家。
ソファに掛けて、何やら物思わし気な牧凌太。
(――あれは一体、何だったんだ)
病院で見たことの記憶をたどり直して、考えているのかもしれない。
明らかに「会社の上司」という立場を逸脱している部長の態度。
「ちょっと外してくれるか」
と言ったときの春田の焦った顔。
(『はるたん』って言ったように聞こえたんだけど、気のせいかな……)
(――いや、気のせいじゃない。絶対『はるたん』って呼んでたぞ……)
とかね、ぐるぐるしててもおかしくないと思う。
私ならするよ。職場の上司が部下である同僚を「〇〇たん」って呼び出したら。笑
あるいは、牧の頭にあるのは、倒れた春田を見たときの自分の動揺ぶりかもしれない。
この辺はドラマで描写されないから、視聴者が各自想像するしかないけど、ゲイである自覚を持つ牧が、「ロリの巨乳好き」を自ら宣言しているストレートの春田に惚れるって、なかなかにリスキー。賢い牧なら、本当は避けて通りたかったんじゃなかろうか。
気のいい先輩だし、実際住むところに困っていたから同居に応じたものの、好きになる予定じゃなかったのに…と、牧の気持ちを勝手に妄想してみる。
なのに、気づいてしまった。もうごまかせない。
最初から前途多難の恋だ。浮かれた気持ちより、自覚したとたん苦しさの方が勝っていたかもしれない。
だからこそのこの憂い顔なのかも……と思うと、しっくりくる。
もう既に第一話で切ない。さすが、この突き抜けたコメディドラマ唯一の「切ない」担当。この場面の牧の姿を見ているだけで、こっちまで胸が痛くなるんだけど、でも、牧くんというか林遣都、似合うんだよなあ。この表情。
なんちゅーか、余人には醸し出せない、何とも言えない艶がある。
ふと、カバンからはみ出た春田の営業日誌に気づく牧。
躊躇いなく取って、中身を見てみるのがもう、恋する男の態度ですよね。スマホや携帯より罪悪感がないとは言え、普通の「同僚」「ルームメイト」なら、勝手に取って覗いたりしないもん。
余談ですが、ここで、ちょっと腰の位置をずらせて、すっすっと最小限の動作でファイルを取る牧の所作が綺麗で、色っぽさを感じてしまいました。
なんかもう、フェロモン出てると思う。
そして牧が目にしたのは、部長から春田へのメッセージの数々。
「ランチミーティングしましょう」
「卵焼きは甘い派? 甘くない派?」
って上司が部下にする質問(しかも日報で)としては世界一どうでもいい質問だよね!笑
ここで牧は確信するわけですね。
(黒澤部長は春田さんに上司としてではない感情を抱いている)
と。
顔を上げて一点を見つめる牧。
長年蓋をしてきたのが溢れ出た部長の想いは、倒れたペットボトルからこぼれる水が暗喩になっていた。
若い牧の激情は、勢いよくほとばしるシャワーと重なって表現される。
何も知らない春田がノンキに牧を呼ばわる。
「牧~! バスタオル取ってくんない!?忘れちった~!」
ガラス戸の向こうでやや躊躇った後、ガチャッとドアを開けて牧が入ってくる。
ここでまた、数秒だけど牧視点で映像が進む。視聴者は一瞬、扉を開けて春田へと向かう牧と同化する。
「ちょちょちょ、何何何!?」
というビビりようも、壁ドンされた挙句
「好きだ」
と突然言われて
「へッ⁇」
と素っ頓狂な声をあげる態度も、めっちゃナチュラルでリアル。同居の男友達にいきなりこんな告白されたら、誰だってこういう態度取りそう。
さあ、ここから視聴者は忙しい。
シャワーで濡れるのもいとわず春田を見つめる牧の思い詰めた表情。
ここは「好きです」ではなく「好きだ」一択ですよ、遣都くん。敬語が消えたことで、牧の余裕のなさが伝わるのです。
「春田さんが巨乳好きなのは知ってます」
女性を愛する春田にとって、自分が恋愛対象にならないことは承知している、でも――と溢れる牧の気持ちに同調して、(牧ーー!!)と盛り上がったかと思いきや、
「でも……巨根じゃダメですか」
だもんよ。
えっえっどうなるの?と固唾を飲んで視ていた視聴者も
「はぁー!?」
てなったよね。笑
イヤそらダメだと思うよ普通は!!(笑) てか、ロリで巨乳好きの春田になんであえて巨根アピールした!? ちらっと下を見るんじゃない春田!
最初にこのシーン見たとき、「巨根」というパワーワードが衝撃的すぎて、腹を抱えて本気で爆笑した。
今でもこのシーンだけは見るたび新鮮に可笑しくて、毎度笑ってしまう。
「巨乳好きは知ってます。でも…巨根じゃダメですか」
というキャッチーな台詞を思いついたがために、このドラマが始まったんじゃないかと思いますね、私は。
このドラマの成功は、このセリフが打ち立てたと言っても過言ではないと思います。マジで。
このセリフを一体どういう状況で思いついたのか、機会があれば徳尾さんを小一時間問い詰めたい。
脚本家の脳みそってどうなってんでしょうね。
もちろん、当の牧は至って真剣。ドリフのコントみたいにお茶の間をズッコケさせるつもりは微塵もない。
牧にとっては「巨根」というのが最大のセックスアピールだったのかもしれん。
まあともかく、一般的にはややトンチキと言えるこの告白をかました後、勢いでそのまま春田の唇を奪う。
「ハハハ、巨根って言った、アハハハ……はっ!?」
と、泣く子じゃない、笑うオバサンも黙る見事に潔いチューでした。
この、ね! 「下から攻める」キスがね! 男女じゃあり得ないからね!
1秒前まで爆笑してたことなんか忘れて、思わず食い入るように画面に見入ってしまったよ!
いきなりキスされて目を白黒させていた春田が、牧をどん!と突き飛ばす。
しばらく目を泳がせた後、ふいっと出て行ってしまう牧。
ざあああ……と降り注ぐシャワーに打たれながら茫然とする春田。
……とここで流れるBGMがスキマスイッチ「Revival」。ここ音楽超大事。
これで完全に、(あ、これは真剣な恋愛ドラマなんだな)ということが分かる。いやが応にも期待が高まるというものじゃありませんか!
貴島P、スキマスイッチを選んでくれてありがとう! この音楽なくしても、おっさんずラブの成功はなかったと思います!
ところで、ツイッターで「最終話で『オレ、もう我慢しませんから』とか言ってるけど、第一話から我慢なんかしとらんやないかーい」的なツッコミを見て笑ってしまったんだけど、どうでしょうね?
確かにな!若いだけあって欲望に忠実!という気もするけど、でもですよ、よーく考えてみて。あの場面、春田は全裸だよ。そんであのイイ身体だよ。牧でなくともムラムラするに違いない(断言)あの肉体ですよ。
25歳(←こだわる)の牧があのまま押し倒さずに壁ドン&チューだけでこらえたって、相当我慢してると思うな私は!
【あなたはどっち?】
〇第一話ラストのシャワーチューシーンで牧は
①我慢してないと思う
②相当我慢してると思う
でケツを取ってみたら面白いかもしれんな。
さて、ようやく第一話のラストまでたどり着きました。
間、部長と蝶子さんのくだりをすっとばしましたが、そこに言及するとまたしても超絶に長くなっちゃうので、次回以降に回します。
本日はこれにて!