若い2人と違って、自分の気持ちを正直に表に出しているのが、正真正銘のおっさん2人、黒澤部長と武川主任だ。
ドラマでも、この2人が随所でお話を引っ張っていた。
長年連れ添った妻との関係に区切りをつけ、
「はるたんが、好きでーーーす!!」
と渾身の告白をし、断られた後も猛烈アピールを続けて、最終的に「同棲」まで持って行った武蔵の力業、マジでスゴイ。
牧の元カレ、政宗もその点負けてない。牧の想い人が春田と分かるや、全然頼まれてないのに春田がどんな男か見極めようとする。飲み会ではしれっと焼けぼっくいを狙って熱烈な手ックスをかます。挙句、
「その気がないなら離れてやってくれ」
からの
「オレがアイツがいないとダメなんだー!!」
と土下座。(※昼休み中とは言え会社です)
いやでもね、恋とは闘いですから。本当に欲しいものを手に入れようと思ったら、なりふり構っていられない。
その必死さを、カッコ悪いとか関係なしに剥き出しにするおっさん2人、私はカッコいいと思いました。
なぜか春田のことだけ忘れてしまった黒澤部長。まあこれは、
「もう一度武蔵が春田に恋をする」
ための設定なんだけど、ない話ではないんですよね。
「大事な人から忘れていく」
という症状、聞いたことがある。
これまで積み重ねてきた思い出がまるっと失われたとなれば、春田にとっても切ない話だ。
アクシデントから春田の胸に武蔵が飛び込む形になる。
ふっと何かを思い出そうになる武蔵。
「……はる……はる……はるたくん!」
「! うぁぁ~惜しいんだよなあッ…」
思い出と呼ぶにはあまりにもアレだけど、「はるたん」と呼ばれないの、寂しいというか、なんか違和感があるんですね。
一方武蔵は、思い出せないなりに何かを感じ取る。
よく「ビビビッときた」というけど、本当に
「ビビビ!」
て言ってる。笑
そう、ビビってきちゃったのね。
武蔵のDNAは、春田に恋をする運命なんだね。
うどん屋のくだり、まあ抱腹絶倒でした。客席からもきっちり笑いが起こっていて、めちゃくちゃ面白い場面になってる。
ジャスをどついたり平手打ちしたり、挙句の果てに腹をグーパンて、ぜーんぶ鋼太郎さんのアドリブだったんですね! 鳩が豆鉄砲くらったみたいな志尊くんの表情が素だったと知って、2度目3度目は余計に可笑しかったです。
はー笑ったわ…と思ったら、サウナシーンが畳みかけてくる。
一人だけ胸からタオル巻いてさ、片乳出してるって、鋼太郎さんズルいわー。出てきた途端、どっと会場が受けていた。
しっとりと
「お待たせ」
「えーといや、あの、今出ようと…」
しどろもどろの春田の手を取り、並んで座った後に、出ている乳を隠すもんだから、観客の視線が絶対にそこに誘導されてしまう。ここ、台本になーんにもト書きがないんですよ!
「なかなか交渉もうまくいかないもんだな」
と、お仕事モードから春田を会話に引き込むのも、武蔵のいつも手管ですね!
「変な手を使わず、ストレートに伝えるのが一番だと思います」
という誠実な春田の回答にかぶせて、
「好きです」
「…ええっ」
の次の、
「はる…はるぽん!」
「!? はる…ぽん? はる、ぽん…」
と、はる「たん」でなく「ぽん」なところに違和感アリアリな春田の受け方が巧い!!
「好きになっちゃった」
「ビビビっときちゃったんだお」
と、武蔵はいつでもストレートだね!
ここから先、本当に「抱腹絶倒」を絵に描いたような数分間は、とても私の拙い文章で描写することが出来ないので、是非ホンモノを見ていただくとして。
「顔には水をかけないように」
と釘を刺されていたのに、本気でばしゃぁっ!!ていってる武蔵と牧がめちゃめちゃ笑えます。
そしていきなり名前を出された斎藤工の貰い事故感。笑
この場面、これほどに面白いのは、登場人物が全員「本気」だからだ。
本気と書いてマジと読む。
特に武蔵は大真面目。やってることはコミカルだけど、春田に向ける気持ちは本当に本物の恋心。
映画の後半、炎の中を牧とともに春田救出に向かう黒澤部長。
後半の肝は、
「オレは自分の気持ちをちゃんと伝えたいだけなの!!」
という武蔵の台詞だ。
「いちいち言わなくても伝わりますよ!」
という牧の台詞を一蹴し、
「出たぁ~!! 何も言わずに分かって欲しいかまってヒロイン、爆誕!!」
「それって、自分のプライドが高いだけでしょ? 本音でぶつかるのが怖いだけでしょ!!」
と、容赦なく牧の内心を暴き出す。
「言わなくても伝わる」というのは、人と人との関係で、一番やってはいけない思い込みですよね。恋人同士なら特にそう。
雰囲気を壊したくないとか、相手を信じたいとか、色んな理由があるけど、やっぱり基本は他人同士。きちんと言葉にしないと、伝わらないのです。
そこを省略してしまうのは、自分の中に「怖い」「不安」あるいは「怠惰」の気持ちがあるからだ。
自分がちゃんと言葉にしないのに、「なんで分かってくれないんだ」と相手を責めるのは、もっと間違っている。
そこをビシッと指摘した武蔵。
牧にも効いたんじゃないかな。
さて一方、ドラマ版と劇場版で最も異なるのが、
「武川主任の気持ちが向かう相手」
ですよね。
ドラマのラスト、これまた鋼太郎さんのアドリブらしいけど、屋上で思い出話をしながら、部長が主任の手をそっと握る場面がある。
「アハハハハ!」
と冗談で流れていたけど、あそこで政宗の中に何かが生まれたのだね。。。
でもこうなってみると、仕事が出来て部下想いな黒澤部長に対する政宗の気持ちが、部下として慕う気持ちから一つ上の感情に育つの、分かる気がするなあ。
春田に対して一途なところを傍から見てきたという立場もあったかもしれん。
だから、春田のことだけ忘れたのはなぜか、蝶子さんと語り合う場面で、
「部長が不憫で…」
という言葉が出てきたんだろうと思う。
階段から落ちたのが誰かに突き落とされたからだ、と頑なに思い込んでいたのは、
(あのカッコいい部長が不注意で足を踏み外すなんてあり得ない。きっと本社のヤツに背中を押されたかなんかしたんだ)
と、こういう心の動きだったんではないかと。
屋上でジャスと春田がバスケに興じる場面、武蔵が何やらぎゅっと胸にかきいだくじゃないですか。(袋の先から棒針の先端がのぞいてる)
その後、部長室ではるぽんとのキャッキャウフフの妄想シーンがあるじゃないですか。
あそこも観客席が相当沸いたコミカルシーンだったけど、武川主任が入ってきて、デスクに広げた「はる」「ぽん」セーター(いつ編んだんやw)を慌ててしまいこんで、その後
「今夜は花火ですね」
からの、武蔵の顔をじっと見つめる政宗。
あれも、台本にはこのセリフだけ。ト書きは一切ないのに、まっしーのあの表情、ズルいわ。
あの目力というか眼力というか、あの表情だけで観客に色んなものを訴えかけてくる。
ドラマ版では、未練を断ち切れず牧に思いを寄せ続け、結局かなわなかった政宗。
政宗に幸せになって欲しい…!と願った民の思いが届いたのか、政宗にも色んなイベントが用意されていました。
春田の監禁場所に向かう武蔵が落としていった靴の片っぽを拾い上げる政宗。
その後、ドラマ版の春田のように、武蔵の片足を取り、恭しく履かせて差し上げて、武蔵の記憶が完全に蘇る手助けをする。
武蔵が春田との思い出を完全に取り戻したのをすぐ傍で見ていて、よかったよかった!と本気で喜んでいる政宗、いいヤツだね…!!(涙
心の整理はついたなりに、でもまだ春田に向けられている武蔵の視線。傍らで尽くす武川主任の想いには気づかない様子。
ラスト、政宗が動いた!
結婚式で、まさかのくるくるっとターンしてからの足ドーン!!
「俺はもう、好かれなくてもいいんです」
「愛されるより愛したい、マジで」
1980年代の昭和歌謡を思わせるセリフですが、これがハートに刺さったか、そっと政宗の膝に置かれる武蔵の手。。。
そこからの、ブーケトスを見事なジャンピングキャッチで勝ち取り、
「黒澤武蔵、幸せになりまーす!!」
という武蔵の宣言でこの2人の描写が終わる。
きっと、政宗の愛を受け入れて、武蔵は幸せになったのだろうと提示された、ハッピーなラストでした。
2人とも幸せになれ…!
正直、武蔵と政宗がイチャイチャしているところの絵面はあんまり想像出来んけど笑
劇場版ならではのお遊びもあり、ツッコミどころもあるけれど、シリアスな場面もコミカルな場面も、「おっさんずラブ」は決して人の気持ちの動きをおろそかにしない。
ホワイトボードの裏から春田を見つめる武蔵、ネーム入りのお揃いセーターを編んじゃう武蔵、その姿は可笑しいんだけど、心の動きは恋する男として当然のものなので、共感出来てしまう。
政宗の想いが牧から武蔵に向かったのも、その想いの示し方も、情の濃い政宗らしくて、(ああーそう行ったか、でも分かる)てなる。
春田と牧の愛という主軸の傍らで、見事な彩となって物語を盛り上げてくれた、おっさん2人の恋でした。