おっさんずラブ第二話⑩ 春田創一の当惑
居酒屋「わんだほう」で、春田に想いをぶつけてしまった牧。
これって完全に「予定外」の行動ですよね。だって、「わんだほう」は春田のテリトリーなわけで、そこでこういうことをやらかすと、後々来にくいに決まっておる。
春田のこととなると、ホント、沸点が低くなるんだね、牧くん。。。
そして、部長とのことは相談していた春田、牧のことはちずにも言ってなかったんだな。
突然目の前で熱烈な(というかキレ気味の)告白を見せられたちず、驚いて固まっている。
牧の好意が真剣なものだと告げられた春田。
ここからの反応がもう、本当に小学生。
「オ、オレは別にそういうつもりで一緒に住んでるわけじゃねえからな!」
と牧に怒鳴る。
「最初から分かってますよそれくらい!!」
牧も怒鳴り返して、春田に背を向けて座ってしまう。
聞いていたちずが思わず「春田…!」と制止の声をかけるも、春田もヒートアップしてしまって、止まらない。
そのまま、勢いで言葉をぶつける。
「え、ちょっと待って、なになになに……オレ達さ、会社の同僚なんじゃねえの!? え、じゃ何、一緒に住み始めたのもさ……飯とか、掃除とか……ぜ、全部そういうつもりだったのかよ!?」
これなー……
セリフを追って書き起こしていても辛い。
この場面、もしも出来るなら、画面の中にするんと入り込んで、「春田、ちょっとそこ座れ」とこんこんと説教してやりたい。
あのさあ、さっきから繰り返してるけど、「そういうつもり」ってなんだよ。
分かりたくないけど、でもちょっと想像してみるまでもなく分かっちゃうんだけどさ、つまりは
「牧が最初から好意を持って春田に近づき、歓心を買うために甲斐甲斐しく尽くしていた」
ってことやろ?
それもなんならさ、「好意」=「純粋な好きの気持ち」じゃなくて、「よからぬ下心」くらいな意味に思ってんじゃないの?
このセリフの意味がなんで分かってしまうかと言うと、男友達がゲイだと分かったときの男性の反応として、ごく一般的というか、典型的なものだからだ。
ほんの少し前までは、ドラマの中でもよく見られた描写だった。会社の同僚でちょっと距離が近かったり、発言がややおネエぽかったりすると、
「お前ホモじゃねえの!?」
と冷やかしたりするシーン。
さらに続けて、
「オレのことそういう眼で見てたのかよ?」
というところまでがお約束だった気がする。
でこれがさ、嫌疑をかけられた方がゲイでもなんでもなくて、ぜーんぶ冗談だったりしたんだ。マジな話。
つまり、特に必要じゃないの。その台詞。必要じゃないけど、「ちょっとしたノリ」で、付け足されたりしてたの。
そんで、言われた方は「そういう言い方はない」と抗議するのではなく、
「もー、オレそんなんじゃないって」
と、セクシャリティがストレートであることの方を強く主張するんだよね。
最初は笑って見ていたけど、理性が育つにつれ、モヤモヤするようになった。
だってこれさ、同性を好きになる人は、最初から身体が目当ての色魔みたいに言われてるんだよ。おかしくない?
異性同士だとロマンチックなラブストーリーになるのに、それが同性になったとたん、「オレのことそういう目で見てたのかよ」と非難する対象になるって、絶対ヘンでしょ?
そういう目=性的欲望の対象、ということだ。それなら男女の恋だってつまるところそうじゃんよ。
なんで、恋の対象が同性というだけで、「色欲まみれの変態」扱いされねばならんのだ??
だけど、かつてはそういう風潮が蔓延していたんですよ……
今はそうじゃないと言いたいところだけど、多分今でもこういう偏見の持ち主は少なくない。
ちょっと堅苦しいことを言うと、男性はこの社会で無意識に優位で生きてるから、同じ男性から恋愛対象として見られたと分かったとたん、(オレ女側!?)という恐怖を感じるのだと思う。それはつまり、女=男より劣位、という刷り込みがあるが故の恐怖だ。
人は自分の優位が脅かされたと感じたときどう対処するかと言うと、「相手を貶める」「バカにする」のが一番簡単で手っ取り早い方法だ。
そして男というものは、この「メンツ」「プライド」を非常に大事にする生き物なのだな。
でも、本当の意味でのプライド=自己矜持を持っている大人の男は、同性に好意を寄せられたくらいで動揺しないし、まして相手を攻撃したりはしないだろう。
ここで過剰に牧くんを攻撃しようとするのは、春田の心の弱さというか、未熟さのあらわれでもある。
「全部そういうつもりだったのかよ!?」
と牧に迫った春田、言い足りず、
「すっげー裏切られた気分だわ」
とまで吐き捨てる。
ここで映る牧の背中が辛い。春田の心無い言葉は、刃となって突き刺さっているだろう。
けれど、牧はもう言い返さず、
「そうですね」
と力なく言うのみだ。
あまつさえ、
「すみません」
と謝るのだ。
ここ、ノンケに恋をして傷ついた経験のある全国のゲイの皆さんが涙したのではないだろうか。
女子だって辛いよ…!
会計を済ませて出ていく牧に、春田はなお
「待てよ、まだ話終わってねえよ!」
と吠える。
お前、それ以上何を言うつもりやったんや。
これ以上牧くん傷つけたら首根っこひっつかんで360℃回転させんぞ…!!
と、視聴者の99%が抱いたであろう憤慨は、ちずが見事に代弁してくれる。
ものも言わずずかずかずかっと春田の前に進み出たちず、春田の頬にぱぁん!と平手打ちを食らわす。
くぅ~、いい音!
「…はぁ!?」
と抗議しかけた春田を
「最ッ低!」
の一言で黙らせる。
「一緒に暮らそうってあんたの方から言ったんじゃないの。被害者ヅラしてるけどさ、好意に甘えてたのはどっちよ!? 相手を思いやれないあんたに、一緒に暮らす資格なんてないよ」
春田創一、ぐうの音も出ません。
お前はそこでそうやって叩かれた痛みを感じながら100万回懺悔しろ…!
いやー、それにしてもちず、いいキャラだなあ。後半の色々で、ちずにも賛否両論あるけど、私は最初からちずちゃんが好きだ。
この迷いのない平手打ち。「竹を割ったような」とちずのキャラ設定にあるけど、まさにその通り。
そして春田への言葉も、短く端的に、しかし過不足なく要点を衝いている。
このドラマ、女性キャラも女女してないというか、変な湿り気がなくていい。
これが、それこそひと昔前のドラマだったら、その場に居合わせた幼馴染が外で言い触らして、変な尾ひれがついて広まって…とかになるところ、「おっさんずラブ」はそうしない。
単発版ではちょっとそういう展開もあったけど、連ドラではもうきっぱりと、その手の演出はナシになっている。
ただ、ここ春田がひたすら酷い場面でもあるけど、「同性の恋に対する世の中の一般的な偏見」が示された唯一の場面でもある。
やっぱそれ、ゼロにしてしまうと、ファンタジー要素が強すぎてしまうと思うんですよね。いくら「少し先の未来」を描いているドラマだとしても。
なので、見るのが辛い場面ではありますが、やはり春田のこのセリフ、ドラマ上必要だったのだと思います。