おっさんずラブ第二話 副音声/圭と遣都②
ところで、鑑賞する側としてはほぼ同じだけど、「副音声」と「オーディオコメンタリー」って違うんですよね。
ドラマのオンエア中に、まだ撮影中のキャストが本放送に合わせて副音声やるのって、確かに珍しい試みかもしれない。
このとき、もう6話の撮影が終わってたのかな?
そりゃ、客観的に見るのは難しかっただろうなあ…と後から思った。
副音声って、何が正解かと言うと多分、場面を見ながら「ここは監督の意図がこうで…」「この場面を撮るときにこういうアクシデントがあって…」「ここはホントはこうやるつもりだったけど、キャストがこういうアドリブやって、それが採用された」とか、そういう情報を話してくれると、見ごたえがあるのかな、と思う。
ただ、それをやろうと思うと、座長が言うように進行役がいた方がスムーズだし、ざっくり流れを事前に打合せすることが必要になってくる。
副音声という勝手の分からない企画に戸惑う座長と遣都、ドラマを見ながらも、結局自分たちの話をしてしまっているんだけど、いやーーーもうこの場合それで大正解でした!!
台本がないから、座長と遣都の仲の良さが作られたものじゃなく、本物だとよく分かる。
座長から声かけて飲みに行ったのは、多分ドラマのために関係性を深めておこうという意図もあったんだと思うけど、田中圭と林遣都という2人の相性が、予想以上によかったんじゃないかな。だから、短期間でめっちゃ仲良くなったんだと思う。
2人にとってもいい出逢いだったんだな。
この副音声で聞けた貴重な情報、たくさんあるけど、私にとって一番は、
「冗談ですよ」
と牧が春田に言ったあとの、
「男同士でキスとかマジでねえから!」
という春田に対して、遣都が間髪を入れず
「サイテー」
と言い放った台詞だ。
牧としてというよりは、林遣都本人が、本当にこう感じているんだな、と感じ取れた瞬間だった。
同性愛者が出てくるドラマを見ていても、演者とキャラの間に距離がある、と感じることもある。でも、遣都くんは牧凌太と距離がほとんどないんだな、と私はこの瞬間思った。
それに対して座長がこう続ける。
圭:でもさあ、やっぱさ…その最低なことをさ、要するに、牧に好かれなきゃいけないしさ、でも春田の行動をさ、行動っていうかセリフとかもさ、台本どおり言うとさ、絶対好いてもらえないって言ったらおかしいけど
遣:ああ、そうですね…
圭:だからホントに台本無視っていうかさ、テキトーなことばっか言っちゃうんだけど、なんかこう、なんていうのかな…本とか関係なく、ちゃんと、牧に、牧と部長に、好かれたい…!
台本にあるセリフを変えず、そのまま演じると、春田という男は酷いキャラになると、2人ともそう言っている。
ちなみにこのセリフ、台本だと
「まあ、でもごめん、俺も言い過ぎた。なんか男同士のそういう、キスとか、冗談でも無理だから」
とある。特にト書きはない。
これをこのまま、平坦なテンションで冷静に言うと、確かにすごくきついセリフになる。
その前の、キスが冗談だと聞かされて
「もお~~~!!!」
と安心してがーっと上がったテンションのまま、「男同士とかマジでねえから!」と持っていったから、まだ春田というキャラが、ごく一般的な偏見を持っていて、いささか配慮には欠けるけれども、子供っぽい可愛らしさを失わずにいられたのだと思う。
春田というキャラクターをどう創るか、田中圭が悩みながら取り組んでいったことは、この後、蝶子さんと武蔵の寝室のシーンでも語られる。
圭:でもさあ、二話みても思うし一話見てもそうだけどさ、この2人がさ、すっごいこう…なんか理想の夫婦っていうかさ
遣:すっごいあの…長年連れ添った夫婦感がすごいしますよね
圭:なんでこんな素敵な蝶子さんに離婚切り出してまではるたんとこ来んねん、みたいなのもさ、やっぱ説得力持たせないとさ
遣:あー…
圭:だって勝てるわけないんだからさ、寧々さんにさ…基本的にさ だって30年連れ添ってんだぜ? 想像つきます? 30年連れ添うって
遣:なんなんですかね、春田さんって
そうそう、そうなのよ。蝶子さんがね、ホント、可愛らしくて、部長としっくり来てるんですよ。
でも、この可愛い妻と暮らしながら、黒澤部長ははるたんへの想いを11年間胸に秘めていたわけだ。で、ここへ来て遂に、「妻と別れてまではるたんへの想いを取る」という決断に到ったわけだ。
こう書くと簡単だけど、ドラマでストーリーを追って見ている視聴者に、それを違和感なく受け入れさせるには、「春田創一」というキャラクターに相応の魅力がなければならない。
で、第二話まで見て、蝶子さんが可愛い妻であることも十分承知した上で、我々視聴者の誰も、「なーんでこの奥さん捨てて春田なんかに行くんだ?」とはならなかった。
その、「疑問を起こさせない」座長の演技の説得力って、実は相当なバランス感覚の上に成り立っていると思う。
それを、相手役である遣都もこう言う。
遣:でも、その…圭くんが、台詞に書いてるそのまんま言ったら酷いやつじゃんてなることが、愛せる人になっちゃってるんですよね
圭:なってますか
遣:うん
そう、春田のあのちょっと抜けたセリフ回しとか、ぽかんとした表情、無邪気な笑顔、等々の立ち居振る舞いで、非常に可愛らしいキャラクターになった。プラス、座長の当意即妙のアドリブの効果で、「愛すべきポンコツはるたん」が出来上がったのだな。
その意味では、ここも面白かった。
(ソファにつっぷした春田とそこへ帰宅した牧の場面を見ながら)
圭:これ、俺が考え出した「左足だけ靴下脱ぐキャラ」どう?
遣:いやーもう…あの…
圭:笑笑「どう?」じゃねーよ!みたいな笑
遣:いや、だから…こういう、まあ後から出てくるんですけど、春田さんの、あのー…クセというか、日常みたいなのは、春田さんの悪いところをいっぱい言うシーン…
圭:ああそう、あるね
遣:そういうところに足していける、みたいなのはいっぱいありました
これ、ちょっとまとめて要約すると、こうやって田中圭が肉付けした「春田創一」のクセを、林遣都が牧として「春田さんの悪いところ」を挙げる例のキャットファイトのシーンに生かすことが出来た、ということだ。
こうやって、役者がお互いの演技を感じ取って反応し合ってドラマが創り上げられていくの、面白いですよね。
やっている本人たちも面白かったみたいだけど、鑑賞しているこちら側からしても、とってもエキサイティングです。
現場の盛り上がりがよく伝わってくる。
最初ちょっと面白く思いながらも、流し気味に聞いていたんだけど、後から田中圭という役者のプロ魂に気づいたのが、この部分。
(CM明けで)
圭:ハイ、みんなお帰り!
遣:お帰りー
圭:CM明けたお
遣:明けたお?
圭:明けたお? 「明けたお」じゃない?
あの「お」のアクセントってさ、読むとさ、アレなんだけど、オレ一話でもさ、あ違う違う違うよ。まさにここだよ。二話だよね、「明日ランチミーティングするお」と、
遣:あの、アレです! クリーニングの…
圭:あっちはクリーニング屋のタグがついてるやつでしょ?
遣:そうそう
圭:あれ鋼太郎さんの声じゃん。で、二話でさ、
遣:あ、ランチミーティング? さっき見てたやつ
圭:そう。ランチミーティングする、お?ていう
遣:あー…
圭:あの、「お」ってさ、どのアクセントが正しいんだろうって、ずっと考えてた。
前も書いたけど、これ、いわゆる「ネットスラング」にあたる言い回しで、実際に発話する語尾ではないから、それほど深く悩まなくていいんじゃ?と思ったんですよね、最初。
でも、「普段日常では聞かない言い回し」も、演技として成立させなければならないんですよね、役者という職業は。舞台演劇だと、それこそ設定がイギリスだったり、帝政時代のロシアだったりもするわけだし。
となると、そうか、演劇人としてはそこは当然引っかかるところか、と腑に落ちた。
その中で、「100人中98人まで引っかからずに聞ける」言い回しが最適解ということになるんだろうか。
舞台出身の鋼太郎さん、その最適解に難なく辿り着いた、ということなのかな。
だから、武蔵の「だお♡」をさほど違和感なく受け取っているんだな、私たちは。
で、鋼太郎さんが自然に言ってたから、劇場版でも使われたし、CMでも「武蔵オリジナルの言い回し」として採用されたんだ。
多分こうやって、我々素人が気づかずにいる部分で、ベテラン俳優の技が光っている、というのは、色んなところで成立しているんだろうな…と思わされた。
やっぱり、キャストの演技力に相当負う形であのドラマの奇跡は成り立っていたんだなと、今改めて思う次第であります。
…と、こういう細かいところに気づくのも、「文字起こし」なんちゅー時間のかかる作業をやったお陰でもあります。
やっぱり、音で聴いているだけだと流しちゃうことも、すくいあげて文字にすることで、何気ない発言の背景に気づいたりする。
いやー、「おっさんずラブ」、本当に深いですね。
ハマり甲斐がある。