私が妄想力を発動するのは、主に電車の中だ。
それも、朝の通勤電車。
人がこと切れそうなほどの込み具合ではないけど、私が使う線も毎朝そこそこぎゅうぎゅう詰めだ。
座席に座るときね、女性と男性で、専有面積が全然違うことがあるじゃないですか。
何がって股の開き具合ですよ。
女性は大体、みんな膝をくっつけて座っているのに、ガバッと110°くらい平気で大股おっぴろげて座ってる男性がよくいる。
お前は分度器か? 何の角度を計っているのだ??
朝からコメカミに💢のマークが浮きそうになる。
出来ればぎゅううっとネクタイの首元を締めあげてやりたいところだが、そうもいかぬ。
とはいえ、そのままだと私の血圧的に大変よろしくない。
これ。こういうときこそが、妄想力の出番なんですね。
(……この、一応きちんとしたサラリーマン風の身なりをしたいい歳の中年男性は、何故この混雑する電車の車内でかくも堂々と股を広げているのだろうか?)
と、真面目に沈思黙考してみる。
(もしかすると、どうしても股を広げなければならない理由があるのかもしれない)
(……ハッ! もしや、股間に重大な疾患を抱えているのではないか…!?)
脳裏に、目の前のおっさん中年男性がどこぞのナントカ科でドクターに重々しく宣告されている様子が浮かぶ。
「いいですか、決して股間を圧迫してはなりませんよ。いついかなるときも、股間は開放していてください」
「え……いかなるときも、ですか…? 満員電車の中でも…?」
「当然です。股を閉じて座ろうものなら、アナタ、また入院ですよ。それとも、股間プロテクターを装着されますか?」
「イエ、股を閉じないよう気をつけます…(ションボリ)」
(わあ、可哀そう……)
途端に、目の前の大股開いた男性に対して、私の胸に同情が一杯に溢れ出す。
そんな症状の股間の病、私は見たことも聞いたこともないが、人には言えないそんな病におかされているのなら、この大股開きもやむをえまいし、優先座席に座っている理由も納得できようと言うものだ。
あるいは、こういう場合もある。
高校らしき制服女子二人連れ。仲がいいのは美しいことだが、静まり返った電車の中では話し声が些か目立つ。はっきり言ってうるさい。
しかもその内容が、何とも言えずヲタくさい。自分の趣味全開の話を、周囲に何の気遣いもなく撒き散らすトークって、傍迷惑ですよね。。内容にもよるけど、まああまり褒められた態度とは言えない。
(うわーなんかおっさんみたいやな…)
と思ったわけです。聞きたくもない話を聞かされるうち、私も段々イライラしてきた。
(ああいかんいかん、朝っぱらから全く関係ない赤の他人のために要らんエネルギー使いたくない)
そして妄想スイッチON!
(女子高生とおっさん……待てよ、なんか昔そんなドラマあったな…)
(ああ、あれだ。ガッキーと舘ひろしの……『パパと娘の7日間』だったかな)
(入れ替わりもの、よくあるよなあ……『入れ替わってる!?』てやつ。娘が入っちゃった舘ひろしの演技も、お父さんが入ったガッキーの演技も面白かった)
で、閃いた。
(もしかすると目の前のこの2人も、本当に『中身におじさんが入っている』のかも…!)
不思議ですね。「おっさんみたいな女子高生」だと、全然可愛くないのに、「中におっさんが入った女子高生」と思うと、とたんに鬱陶しくなくなる。
どんなことを言うか、どんな動作をするか、興味津々で見守ってしまう。
さっきまで感じていたイライラはスーッと消えて、ストレスなく目的地に着くことが出来ました。
とまあ、妄想力は使いこなせば色んな局面で自分を助けてくれます。
発動するにもTPOがあって、
・相手は自分と無関係で、この後も関わる可能性が薄いこと
・その人のせいではない特徴を貶める内容ではないこと
・内容が差別的ではないこと
等々、一応自分なりに放送コード的なルールがあります。
非現実的で、荒唐無稽であればあるほど効果的ですね。
ともかくも、他人の言動にイラっとさせられる無用なストレスを避けて、ほんのひととき心の平穏を得られればそれでいいわけだ。
ところで、110°くらいな大股を開いた男性、これからの季節どんどん増えていく気がするんだけど、もしかすると伝染性の病かもしれない、という疑いが私の胸の中で捨てきれぬ。
あの病気に効くワクチンが開発されれば、混雑にまぎれてお尻にブスっと注射してやるんだけど。
そしたら全員膝くっつけて座るようになったりしてね。
それはそれで、想像してみると、ちょっと笑えますね。笑