おっさんずラブ第三話④ ユラユラと塩とスナギツネ
揺れてユラユラ、足元の定まらないはるたんダンスを一通り踊り終えた春田。
はるたんダンスの特徴は何といっても「体幹」で、身体の中心がしっかりしていると、どんなに左右に揺れてもこんな風に頼りなく見えないんですが、春田は芯が全然通ってなくて、身体の動きはグラッグラだ。
これはもちろん、身体を鍛えている座長ならではの計算ずくの動きでしょう。ジムで本格的に身体を作ったことがあるなら、「体幹」について知らないはずはないので。
座長、さすがです!
もうひとつは「首」。
主任に「くれぐれもヘタな真似はするなよ」と釘をさされた後、麻呂の方を見やってから席を立つまで、右に向き、左に傾く首の動きが、春田というキャラの頼りなさを象徴的に表現している。
このブログを読んでくださっている方ならお気づきかと思うのですが、私、四文字熟語が好きなんですね。特に、何かに文句を言いたいときに、あえて漢語的な熟語を持ちだして対象の欠点をあげつらう文章は、我ながら生き生きしとるな…と思うのですが(笑)、そんなわけで、対象が卑小な様を言い表す語彙はなかなかに持ち合わせがあると思う。
「右顧左眄(うこさべん)」という言葉があって、これはどういう意味かというと、右を見たり左を見たりしている様、つまりは周りをうかがってばかりいて、自分で判断が出来ない日和見主義者の優柔不断さを言い表す言葉なんですが、春田というキャラクターの性格はまさしく、「右顧左眄」そのものですよね。
本来、人や組織の欠点を言い表す言葉であるはずなのに、それをここまで可愛らしいキャラクターにして見せている座長の演技力の高さよ。
この三話では、春田の優柔不断さを存分に表現しながらも、憎めないカワイイキャラとしてのポジションを確立することに成功していると思います。
首の据わらぬユラユラダンスを踊り終えた春田、向こうにある人の姿を見つけて、思わず駆け寄って縋りついてしまう。
そう、牧凌太その人だ。
「ま、牧、どうしようッ…」
春田、キミ、牧くんの二の腕掴むの好きだね。この仕草、牧くん以外の人にやっているのを見たことがないけど、相手の心臓に近い部分を「掴む」ってどういう意味でやってるんだろうか。やられた方はまあまあドキッとすると思うけど。
この辺は多分無意識なんだろうなあ。牧のところに思わず駆け寄ってしまうのも、日常生活で牧に頼って助けてもらったことが何度となくありそうだ…と、春田家でのルームシェアの様子が窺い知れてしまう。
縋りつかれた方の牧は、あからさまに迷惑そうな表情だ。
「知らないですよ、もう……ナニ?」
と、春田に掴まれた腕を振り払わんばかりの邪険な態度。
これはもう、牧くんと同じツンデレ属性を持つ私の立場から言わせてもらえれば、
「だよね! 分かるよーソレ!」
と、ハンカチ(←?)握りしめて、100万回頷いてしまう。
だってさあ、考えてみたら、第二話のラスト、牧は春田に
「ルームシェアなんかするんじゃなかった」
「出て行きますから」
と、ハッキリと言っているわけなんですよ。ケンカの上のこととは言え。
おまけに、このクソ鈍感な激ニブ男にも分かるように、デコチューなんてしちゃってんですよ。
「……普通には戻れないです」
とまで言ってるんですよね。牧くん。
さて、三話が始まっても春田と牧の間にルームシェアを解消する気配はなく、この後のわんだほうでは同居が周知の事実になるところをみても、牧は春田の家から出て行かない選択をしたのだ、と分かります。
あれだけ言い切っているのになぜか。
牧の性格を考えたら有言実行しそうなものなのに。
何故ならそれは連ドラの第三話なので牧が出て行くと話が終わってしまう……とか言っちゃうとミもフタもないので笑、ストーリーに沿って整合性のある理由を推理してみましょう!
いやだってそこはさ、惚れた弱みというやつでしょうよ。これがさ、春田がもうちょっと立派な社会人だったら、もしかすると牧も自分の心を抑えて、さっさと出て行く選択が出来たかもしれない、と思うの。でも、はるたんポンコツじゃん? 飲み過ぎて酔っ払って帰ってきた春田さんをお世話しなくちゃいけないし、牧がいないとソファでひっくり返ってそのまま寝ちゃって風邪引いちゃうかもしれないし……とか色々ね、牧くんの母性が発動して、後ろ髪を引かれて出て行けなかったのではないかなーと。
だってホントは出て行きたくないんだもんね。出て行かなきゃ、とは思っても、人はやりたくないことをやらない理由(言い訳ともいう)を見つけ出すのには天才的な能力を発揮するものですから。
そこへ持ってきて、
「一緒にいると楽しいしさぁ……ダメなところがあったら直すから!」
なんて、あんなに可愛くお願いされたらさあ。
あ、そんで、あの終わり方だと牧くんが本当に出て行ったみたいにも取れるけど、「公園から牧は春田の家に帰った」とシナリオブックで徳尾さんが言ってるから、家出はナシになったんですね。
帰宅後、春田んちで二人の間に会話があったかどうかは分からないけども、自分の部屋で頭を抱えて(……そういうとこだぞ春田!)てベッドで転げまわって苦悩している牧くんの姿が、私には目に見えるのですが、皆さんは如何でしょうか?
でね、「出て行かないで春田家での暮らしを続行する」を選択した場合、そりゃこういうしれっとした対応になるだろうな、と思うわけです。
あんなことなどまるでなかったかのように、冷静さを保っていたいですよね。牧くんの立場なら。
春田にひしっと縋られても、
「会社で公私混同しないでください」
と、クールな仮面をつけておきたいところだ。
いやー、でも、この場面短いけど、若い牧くんの胸中に渦巻いていたであろう複雑な感情を思うと、ちょっとニヤいや同情を禁じ得ませんね。
一方で春田はと言えば、牧に塩対応されてようやく、公園での出来事を思い出す。
このドラマ、話数が分かれていると、一話から三話まで結構時間が経過しているような気がしてしまいますが、実際は割と詰まってるんですよね、スケジュール的に。
だから、牧と公園ですったもんだあったのは、ほんの昨日の話だ。それならなおさら、牧の塩対応は分かるんだけど、いくら牧が家に帰ってきてくれて安心したからってさ、春田のこの態度はどうなんだ。
画面には、春田の脳内でフラッシュバックしてるであろう、あの名シーンが映し出される。
――伸びあがって春田の額にキスをする牧。
「…普通には戻れないです」
とせつなく微笑みを浮かべる牧の表情。――
ここまで完璧なコメディ路線でストーリーが流れていたのに、急にこうやって恋愛パートが現れるから、視聴者の心も忙しい。
ここではっとした方も多かったんじゃないでしょうか。
で、このギャップにやられるんですよ。。女はギャップに弱いですからね、そもそも。
そして多分、このときはまだ無自覚だったとしても、もう沼に両足つっこんで足首までズブズブになっている人が数多いたことでしょう……笑
「なんだよ。結構普通じゃん…!」
と、春田としては、牧とこれまで通りの関係が保てそうだと感じて、安堵したんでしょうね。
表面上は、春田が口にしたように、「友達として今まで通り普通に暮らす」という希望が叶っているわけだ。
ここ、面白いけど、やっぱ春田って思慮が足りないし、牧くんの立場からするとまあまあのクズみやな……と私なんかは思ってしまうけど、どうなんでしょう。
「はぁ?」
と春田を見る牧くんの眼が結構冷ややかで、仕事中に何を言うとるんやお前はと、勿論牧くんは関西弁じゃないですけどね。そう言いたくなる気持ちは分かります。
しかしその後、武川さんに呼びつけられた牧のすぐ後ろをついていって、仕事のミスを指摘されている間も、春田はぴたっと後ろにくっついて、牧の背広の後ろ裾をずーっと引っ張っている。
牧が自分の席に戻るときにも、親鳥の後を追うヒナのように牧から離れず、
「なんなんですか。切り換えてください、もう!」
とあしらわれている。笑
ここね、よかったら、どこでもいいから一時停止ボタン押してみてください。どの瞬間もぜーんぶ、春田が超カワイイの。
もー、座長ずるいわー。
春田のこととなると、我を見失って黒澤部長に噛みついた牧も、自分のこととなると冷静さを保って、仕事中はプライベートを措いて仕事を優先する。エライですね。さすがエリート。
春田、8歳年上の先輩感がまったくないが、大丈夫か?
そして、後ろでキラリと光る主任のメガネ。このときはまだ、武川主任は単なる脇キャラの一人でしたが、ここで既に只者でない気配を漂わせていますね。
そんで多分、三話あたりから、ツイッターでチベットスナギツネとの比較画像が流れていたと思う。
左右に並べて比べると、前世はよもや…と思わせる類似ぶりでした。
あれがもう2年も前かと思うと、月日が経つのは早いですね。
そしてこのレビュー、計ってみたら該当の映像は54秒73、費やした文字は3746字。
ついに1本の記事につき1分を切ってしまった。
今までで最短・最濃記録を更新したかもしれん。
変態が止まらない。