おっさんずラブが好き!

ドラマ「おっさんずラブ」の細かすぎるレビューブログ。OLの深い沼にハマって当分正気に戻れません。ほぼおっさんずラブの話題しかないかもしれない。ネタはバレまくりなのでご注意を。

西洋骨董洋菓子店

おっさんずラブ」を好きな人には、堂々と

「私、元から腐ってます」

と明言する腐女子のファンも多いだろうけど、そうではなく、どちらかというと

「BLも好き」

とか

「BLだからと言って退けることはない」

とか

「気がついたらBLっぽいものを好んで読んでいる」

みたいな、「腐属性もあるけど腐女子の自覚はない」人が多いように見受けられる。完全に私見です。間違っていたらごめんなさい。

 それはともかく、

「気がついたらBLっぽいものを好んで鑑賞している」

タイプの方は、腐界では知らない者がない作品も未鑑賞だったりするのではないかと思いまして、そういう方向けに私の知る範囲でいくつかご紹介しようかと、そういう主旨でございます。

 で、一発目はこれ。





西洋骨董洋菓子店」①~④ よしながふみ 新書館(2002年)



 初出が2002年かあ。もう随分前なんだなあ。ビックリするわ。

 BLの名手として名高いよしながふみのコミックだけど、これはBLじゃない。

 メインキャラの一人、天才パティシエの小野は生粋のゲイで、小野を巡る恋のバトルが繰り広げられたりもするんだけど、でもBLじゃない。

 腐ってる人もそうでない人も楽しめる作品となっております。




 私はこのよしながふみという作家に割と全幅の信頼を置いているけど、今読むと、やっぱり少し表現が荒い。そして粗い。

 小野は「魔性のゲイ」なんだけど、「ホモ」という蔑称も度々登場する。それは作者が意図的にやっていることで、ここでは「ゲイはギャグとして登場させている」からなんだと、「あのひととここだけのおしゃべり」で作者本人が言及している。

 当時の社会が「ホモ」という呼称を許容していたし、全体にセクシャルなハラスメントがハラスメントと受け取られていなかった。

 だから、当時の雰囲気としては間違っていないんだけど、巨乳の女子アナの立ち位置といい、時代を感じる。

 色んなことに無神経な時代だったんだな。。。




 BLでなければなんだ?と聞かれるとちょっと困る。

 少女漫画……ではある。少年漫画でも青年漫画でもレディースコミックでもない。

 こうして並べてみると、「〇〇漫画」という括り方の中では、少女漫画が最も様々なジャンルを内包しているかもしれない、と思えますね。これまでの漫画の歴史を振り返ってみても、常にジャンルの壁を飛び越えてきたのは少女漫画家たちだったような。 

 そして、そういう超ジャンルの名作の薫陶を受けて育った、申し子のような作家が、よしながふみと言えるかもしれない。

 ……と、この文章を綴りながらそう思いました。

 よしながふみの書く作品、「〇〇のジャンル」とカテゴライズするのが難しいのが多い印象。

 宮崎駿監督が読んで「いい」と思った、という「こどもの体温」なんかもそうですね。

 もちろん、「BL道ど真ん中!」みたいなド直球BLも数々あります。そういうのが読みたい人には、「1限目はやる気の民法」とか「ジェラールとジャック」なんかがおススメです。



 で、「西洋骨董洋菓子店」。

 一言で言えば、あるケーキ屋を巡る群像劇ですね。ある日突然脱サラしてケーキ屋をやろうと思いついたオーナー橘と、屋台骨を支えるパティシエの小野。

 うーん、この2人の因縁から、キャラクターから、さらりと紹介するには内容が濃すぎて、要領よくまとめられないので、「興味のある方は本編をご覧ください」という定型文で逃げさせてもらおう。

 ただ、そのキャラづけが、読み始めには「いかにも漫画チック」と感じるものなのが(魔性のゲイの天才パティシエ、『リングのジャニーズ』と呼ばれた元チャンプのパティシエ見習いetc)、よしながふみは、その人物がそうならざるを得なかった過程を丁寧に描くから、次第次第に人物像が立体的になり、奥行きを増して、物語が立ちあがっていく。

 ゲイとして生きてきた小野の心の欠落や、一見何でも持っているように見える橘の消せない闇、どう見てもコミカル担当と思われた千景の、せつない人生の選択等、どのエピソードも輝いていて、読んだ後ずっしりと心に残る。




 ドラマでは店名「アンティーク」がタイトルになっていたが、原作は漢字音読みで「セイヨウコットウヨウガシテン」と読む。

 橘が椎名桔平、小野が藤木直人、元「リングのジャニーズ」神田エイジにタッキー、サングラスの似合う美貌のギャルソンに阿部寛と、キャスティングは鉄壁であったが、残念ながら原作のエッセンスを生かす脚本ではなかった。

「ゲイがギャグになる」というところはきっちり踏襲していたけれども、原作が持つ複雑な味わいは、ドラマでは感じることが出来なかったように記憶している。途中で脱落したから知らんけど。

 もしも、ドラマでしか見たことがない、原作未読の人がいたら、是非とも原作を手に取っていただきたい。




 BLでないと書いたが、作者よしながふみは堂々たるBL作家、自分の作品で二次創作を作り、コミケで薄い本を売るという……これを快挙と呼ぶか暴挙と呼ぶか、人によって意見は分かれるだろうけれども、まあ、商業作家ではあまりいないんじゃないだろうか。少なくともその当時、他には聞いたことがなかった。(変わった人だなあ…)と思ったのを覚えている。

 本編では結ばれない小野と千景が「もしもつきあったら」という設定で、BL二次創作本が出ております。

 腐女子としての属性に開眼された方、手に入るようなら、こちらも読んでみてもいいかも。

 私はこの2人がデキてない方のストーリーが好きですけどね。



 というわけで、全くネタバレのない作品紹介でした。

 よしながふみ作品は、蘊蓄がたくさん詰まっているので、読むとちょこっとだけ賢くなったような気になれるのもお得です。

 あと、美味しいものを食べたくなる。

 この作品を読むと、甘いものを常食しない私でも、腕のよいパティシエがいるケーキ屋に行ってケーキを買おうかな、という気にさせられる。

 スイーツ好きな人ならイチコロかもしれませんね。笑