30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい 第10話感想③黒沢の純情と安達の過失
バイキングに乗ることにした2人。
「乗ってみたかったんだ!」
全身で、ワクワク!という気持ちを表す安達に、(うっ…なんじゃその可愛さは…)と、なんか刺さって一瞬息が苦しくなりました。笑
「よーし!」
と二つ返事の黒沢。
安達の望むことならなんだってやってやるぜ!という嬉しさがダダ漏れです。
ところが、はしゃいだのもあったのか、安達は酔って気分が悪くなってしまう。
遊園地あるある。
休憩スペースでぐったりテーブルにつっぷす安達。
(何やってんだ俺は……最後の最後に空気壊すようなことして……)
そう、こういうときって落ち込むよね。
楽しい雰囲気のままでいきたいのに、体調崩しちゃった自分が不甲斐なく、同行者に気を遣わせるのも申し訳なく、身体のしんどさとあいまって、ネガティブマックスになりがちだ。
「で、でも、今日は楽しかったよ! また行こうな」
場の雰囲気を壊したくなくて、無理やり元気な口調で言ってみたものの、
「うん…」
黒沢の表情が曇っている。
この辺から、画面見ながらツッコミ鑑賞するのが忙しかった。
(もしかして怒ってる?)
バッカ、んなわけないべや。
(いや、黒沢はこんなことで怒るようなやつじゃ……きっと疲れてるだけだ)
そうそう、そうとも。怒ってなんかない。賭けてもいい。
「黒沢も疲れたんじゃないか?」
水を向けてみると、
「俺は、別に」
黒沢の顔にいつもの笑みはやっぱりない。
言葉が少ない=素っ気ない、と受け取ってしまうのは、分かる。分かるけれども。
(ええー、やっぱ怒ってんの? ヤバい。黒沢の考えてることが分かんない!)
だーかーらー、違うって!絶対責任感じてるんだって!黒沢は黒沢で落ち込んでるんだって!
(そうだ、こういうときは……)
そーっと、手を伸ばしてさりげなく黒沢の腕に触れる安達。
「ゴミついてる」
黒沢の心の声が聞こえてくる。
(元気づけるつもりが、何やってんだ……安達がこんな具合悪くなるまで気づかないで…)
ホラね!
コンペ案を練るのに根を詰めて頑張る安達に、何とか気分転換させてやりたくて、遊園地へ連れてきた黒沢。
ところが、安達はバイキングで酔って、気分が悪くなってしまった。
(俺の選択ミス……!)
と、黒沢なら責任を感じるだろう。
その横で楽しんでいた自分を(俺のバカ…!)と責めちゃうだろうね。
(頑張ってる安達も好きだけど、オレといるときは楽しんで、笑ってて貰いたいのに)
まあしかしこの黒沢くん、心の中は安達のことで一杯だね。
他のことが入る余地がないくらい。
いつだって安達のことを考えている。
自分のことよりも、安達優先で黒沢の世界は回っている。
そんな気持ちを知っていたはずの安達なのに、こうしてちょっと言葉が足りないと、黒沢の心が分からなくなってしまう。
心が分からなくなると、人は簡単に誤解する。
しなくていい喧嘩に発展してしまうこともあるだろう。
夜、自分の部屋で、コンペの企画案に真っ向から向き合う安達。
安達が考えた「同僚に気持ちを伝えるエールクリップ」、いいですね。
可愛いし、仕事のちょっとした潤いになる。仕事のやり取りは、相手に用件が伝われば事は足りるんだけど、やはり人は感情の動物なので、「頑張れ」とか「お疲れ様」とか、激励や労りの言葉が足してあるだけで、モチベーションは大幅に違ってくるからだ。
相手に対する細やかな気遣いや心配りの気持ちは大いに持っているのに、それを「言葉にして伝える」となると、うまいとは言えない日本人。
だから、顔文字やスタンプの文化がさかんなんだろうな、と思う。
相手に自分の気持ちを伝えることの大事さに気づいた安達。
それも、「大切な人には自分の気持ちを伝えたい」とまで言っている。ここ、もし安達が黒沢の身体に触れていたら、
(大切な人……大切な人……大切な人……大切な人……)
と、無限エコーかかっているのが聞こえたんじゃないかな。
「気持ちが分からないと、相手も不安になるし。俺は、黒沢と一緒に、楽しいことしたい。俺ばっか楽しませてもらうんじゃなくて、黒沢も楽しくなきゃ、デートの意味ないと思うし。オレといるときは、黒沢には楽しんで、笑っててもらいたい」
こないだ、遊園地で聞こえた黒沢の心の声、
頑張ってる安達も好きだけど、オレといるときは楽しんで、笑ってて貰いたいのに)
に対する、安達なりの答えですね。
相手を楽しませようとする余り、独りよがりになってしまうことも、カップルにはありがちで。
一方が自己犠牲を払っても、もう一方が楽しめるかと言えば、そうじゃない。
「もしかして、それで、本屋と居酒屋?」
「も…文句あるか」
黒沢を楽しませるために、安達は考えたんだな。
で、「自分が楽しいと感じる場所」に連れてきたんだ。
「いや、楽しいよ。安達と一緒ならどこでも」
うん、書店でも居酒屋でも、黒沢は笑顔だった。
安達は自分の体験に即してこういうことを考えるタイプなんだな。黒沢の思うところの「デート」は、割と教科書的だけれども。
こういうところにも、2人のタイプの違いが表れていて、面白い。
自分から働きかけて、黒沢を「デートの練習」に連れてきただけでなく、こうやって自分の想いを伝えた安達。
つきあっている相手とは言え、それが安達にとって簡単なことじゃなく、頑張って勇気をかき集めて口にしているのは、「デ・デ・デートの…練習」と、言いにくそうに口ごもっていることからも分かる。
でも、言えた。こうして文字起こしするとまあまあ長くなる言葉にして、ちゃんと黒沢に伝えることが出来た。
「自分から動くなんて絶対無理」と思い込んでいた安達の、著しい変化が見てとれる場面。
この変化はやはり、黒沢がもたらしたものなんじゃないかなあ。
毎日、黒沢に触れて、彼からの溢れるような好意のシャワーを浴びるうち、少しずつ少しずつ、安達にこれまでなかった自信がついていったんじゃなかろうか。
黒沢は、安達に対して、「好き」とか「かっこいい」とか、評価を躊躇わず口にする。
普通は本心よりも盛って言ったりすることも多いけど、黒沢は違う。本当に心から思っているし、なんなら、心の中の方が「好き」度が溢れている。
8話での手繋ぎシーン、黒沢の心の中の、
(好き。カワイイ。好き、好き、大好き…!)
という声が聞こえてくる場面、多幸感が溢れるいい場面だった。
こうして、自分を常に全力で肯定してくれる存在が傍にいることで、消極的で自己肯定力が低かった安達が、変わっていったのだと思う。
安達の言葉に、黒沢もまたもう一歩心を開いて、本心を打ち明ける。
「求められることを完璧にこなせば、本当の自分を見てもらえると思って……だから、安達に対しても、つい」
「完璧な黒沢も好きだけど、俺の前ではもうちょっと肩の力抜いて欲しい」
ここも、黒沢の心のスピーカーがONになってたら、
(好き……好き……好き……好き……)
て無限エコーになってただろうね!笑
ともかく、2人の絆は深まった。
帰路、イイ感じでしっとりと肩を並べて歩く2人。
「俺たちつきあって、初めてのクリスマスだな」
「そうだな」
手を繋ぐ。
(クリスマスイブは、花火デートで最高の初めてにするからな!)
内心で張り切る黒沢。
ところがそれに、安達はナチュラルに言葉で返してしまう。
「イブに花火なんてあるんだ?」
「え…?」
「今俺、花火って言った…?」
ビックリして声をあげる黒沢。
(あ、やべッ! うっかりしてた…)
焦った安達、
「あ、うん! 言った言った」
被せ気味に答えるが、うん、ここはそれしかない。これだけ妄想している黒沢なら、頭の中が声になっちゃうとかリアルにありそうだしね。
「うわ……なんでだよ……せっかくサプライズで驚かせようと思ったのに…」
凹む黒沢。そりゃそうだ。
(どうしよう……俺のせいで……今まで考えたことなかったけど、普通他人に心の声聞かれるのとか、嫌だよな……)
改めて、そんな考えが浮かぶ安達。
そうだねえ、ここまで物語の筋運びが自然で、私たちも「心を読めてしまう」安達に対して何の嫌悪感もなく視聴してきたけれども、本来それは重大なルール違反だ。日記を勝手に読まれるのよりタチが悪い。
まして、「他人に心の声を聞かれる」だけでなく、「好きな相手に」聞かれちゃってるわけだからね。それも、絶対に知られたくない妄想の数々まで。笑
(このまま秘密にして、つきあってていいのか…?)
安達の心に不安が陰を落とす。
「でも、ビックリした。一瞬、安達に心読まれたのかと思った」
冗談めかして笑いながら言う黒沢。
一方で、
(もし読まれてたらオレ……)
そんな心の声が聞こえて、安達は思わず黒沢の手を離してしまう。
どうなる、安達と黒沢……
次回第11話、お楽しみに!