おっさんずラブが好き!

ドラマ「おっさんずラブ」の細かすぎるレビューブログ。OLの深い沼にハマって当分正気に戻れません。ほぼおっさんずラブの話題しかないかもしれない。ネタはバレまくりなのでご注意を。

30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい 第12話感想③クリスマスの夜に

 ――30歳になるまで、考えてもみなかった。

 

   平凡な俺の人生に、いや、俺自身に、こんな魔法がかかるなんて――



 急な坂道を、自転車を引きながら駆けのぼる安達の姿。

 そう、この道。ここから、この物語は始まったのだった。

 30歳になった彼に、どんな魔法がかかったのか、それを、安達と一緒に体験してきた2カ月間だった。

 最終話で綺麗に冒頭に戻る流れ、(あー還ってきた……)という感じがすごくして好き。



 12話開始直後、

 ――俺の日常は完全に元に戻った。

 と安達は言っているけれど、そうじゃない。

 一見、同じように見えるけれども、「こんな魔法」がかかる前と後の安達は、まったく違う。

 30歳になる前の安達は、地味でもっさりしていて、これまで誰ともつきあったことがなく、そんな自分にコンプレックスを抱きつつも、自ら打開しようとする意思にもパワーにも欠けていた。

 藤崎さんのことを(いいな)と思っていても、思うだけで、自分から動くなんて死んでも無理だったし、「同期であることと性別以外共通点がない」と思っていた黒沢は、自分と対極の存在として、ほぼ視界の外だった。

 自分の小さな世界から外に出ず、周りとも積極的に関わろうとしない。

 だから周りも安達に関心を向けない。



 そんな、平凡で波乱のない日常が、30歳の誕生日を境に一変した。



 触れると否応なしに聞こえてくる他人の心の声。

 表に出さない、秘めた思いに触れるうち、安達の中で少しずつ何かが動き始める。

 最初は戸惑うばかりだった、黒沢の自分への気持ち。

 知っていても、知らんぷりを決め込んでいたのに、いつの間にか、知らないふりが出来なくなっていた。

 黒沢の切ない思いを放っておけず、

「メシでもいかない?」

と初めて自分から動いた安達。

 それは黒沢だけでなく、六角や藤崎さん、浦部さんに対しても同じだ。

 安達の方から歩みより、声をかけることで、周りの人たちとの関係に変化が生まれた。

 

 安達が変わったから、世界が変わったのだ。



 黒沢との間に何かあったことを察して、

「ごめん、こんなお節介して」

と、自分から話しかけてきてくれた藤崎さん。



 クリスマスだというのに、

「友達の危機だから」

とわざわざ会いにきて、

「行け…!」

と背中を押してくれた柘植。




――すぐ逃げそうになる俺に、こんな風に、背中を押してくれる人たちがいるなんて……!――



 自転車を全力で走らせながら、いつもの通勤路を通ったなら、30歳の誕生日前の自分をちらっと思い出して、可笑しくなったかもしれない。

 あれからわずかしか経っていないのに、同期が自分に向ける好意に気づき、想いに応えて恋人になり、こうして周りから応援されて、その恋人の元へと走っている。

 30歳になっても、地味で波乱のない平凡な毎日が待っていると思っていたのに、まさかこんなことになるなんて。

(まるで魔法みたいだ)と。

 立ち漕ぎしながら安達が見せる笑みは、もしかするとこんな感じかもしれない。




 でももう、あの頃の自分に戻るつもりはない。

 

 沸き立つ思いに駆られるまま、後のことは何も考えず、安達は街を走り続ける。




 ようやく「アントンビル」を見つけたとき、日はもうとっぷり暮れていた。

 て言うかよく見つけたよね…!

 だって、黒沢のクリスマスデートの予定を読んだときに出てきた「アントンビルの屋上」という名称と、風景だけがヒントだったわけでしょ?

 個人所有のビルで、商用のテナントが入ってなかったりすると、マップアプリで検索しても出てこないことはよくある。グーグル先生も万能じゃない。

 だからともかく、それっぽい場所を闇雲に探すしかなかったんだな。

 でももう、安達に「諦める」という選択肢はなかったのだ。 




 屋上に走り出て

「黒沢…!」

と叫ぶ安達。

 自分と同じように休みを取ったままの黒沢がいそうな場所と言えば、確かに、サプライズデート企画のこのビルの屋上だ。

「いるわけないか……」

 がらんとした屋上で、ガッカリして、へなへなと座り込んでしまう安達。今までずっと、あのペースで自転車を走らせて探していたのなら、かなり体力を消耗しているだろう。

 息を切らしながら、スマホを取り出す。もう本人に直接連絡するしか手段がないが、電話しようかどうしようか、やっぱり躊躇われて、黒沢の連絡先を呼び出したまま数秒逡巡していると、



「………安達?」



 声がして、振り向くと、そこに黒沢の姿があった。




 花火は結局、中止になったんですね。作中では、中止の理由は「安全上のトラブル」とされていたけど、見ている私たちはコロナ禍の最中にあるわけだから、

「人が大勢集まるイベントの中止」

には慣れっこだ。(ああ、ありそう)と感じられて、この展開はリアルだった。

 突然現れた安達に、

「もしかして、約束のこと、気にさせちゃった…?」

と尋ねる黒沢が健気で、(なんて謙虚なんだ……)と泣きそうになる。どこまでも安達本位の男だね、黒沢くんは。

 いやいやでもそうじゃないのだよ。さすがに、「気を遣った」程度の理由で、わざわざこんなビルの屋上まで来やせんよ、安達も。しかもクリスマスにさ。

 黒沢にすれば多分、

(安達は優しいから、俺の気持ちに応えてくれたけど、俺が思うほど安達は俺のことを好きじゃない)

みたいに思ってて、だからこんな台詞になるんだと思うけども。



「安達。俺……」



「ダメだった!」

 黒沢が何か言うのを待たず、安達は自分から口を開く。



 そう、そうなんだよ。

 安達はもう、相手からのアクションを待つ受け身の安達じゃない。

 ここまで半日がかりで、黒沢の妄想ひとつを手がかりに「アントンビル」を探し当てたのだ。

 自分の気持ちを言うために。




 ここ、何度も何度も見てると、安達と黒沢、両方の視点がコロコロ入れ替わって忙しいんだけど、

 安達が自分を想ってくれる気持ち<<<<<<自分が安達を想う気持ち

 だという黒沢の思い込みは確かなのと、

(そうじゃない。安達だって黒沢のことがめちゃくちゃ好きなんだって!)

 と、ドラマの展開を通して分かっているから、



「よっしゃー、安達! すぱーんと言ってやれ!!!」

 

 とメガホン持って安達の背中をどつきたくなると言うか、

 

「安達の気持ち、思いしれ!!」

 

 と黒沢を応援したくなると言うか、我ながら謎のポジションになります。笑





 まだ続くよ!