風が強く吹いている
私は本を読むのが好きだと、再三書いているけれど、これほど便利な趣味もないと思う。
何故なら、自分の部屋にいながらにして、興味のある色々な分野に詳しくなれるからだ。
今は大概、誰の部屋にも便利な箱があって、ダカダカッとキーワードを打ち込めばグーグル先生が何でも教えてくれるけど、「本を読む」というのは、それよりも一歩踏み込んだ世界を体験できると私は思っている。
一瞬にして得られる知識は、やはり表層的で、記憶にとどまっているのも短い時間であることが多い。
ページの最初から物語を読み始め、時間をかけてストーリーを追っていくことで、物語世界に入り込んで、登場人物たちと一緒になって、苦労したり、感動したり、泣いたり笑ったり出来るのだ。
ときには、さして関心がなかった世界の奥深さに、突如として目が開かれることもある。
「風が強く吹いている」、以前も書いたんだけど、何が凄いって、(走るなんてダルイ。好きこのんでランニングする人の気がしれない)とまで思っていた私が、ウェアを揃えて走るようにまでなっちゃった点だ。
いやね、私、人のおススメは大概試してみることにしてるし、面白そうと思ったことはやってみる方ではあるけど、でもそれほどアクティブでもないし、これまた再三書いている通り超インドア派だ。
まさか、走ることを楽しいと思う日が来るとは、夢にも思わなかった。
それほどに、この作品で描かれた「走ることで見える世界」は美しかった。
三浦しをんの小説はどれも、テレビ画面を見ているように、目の前で登場人物たちが生き生きと会話し、黄ばんだ畳の色や、窓から差し込む光に舞うホコリまでもが目に見えるような臨場感なんだけど、この「風が強く吹いている」もそう。
ページを開くと、たったったったっ……と走(かける)の走る規則正しい足音が聞こえてくる。
竹青荘の古びた階段が軋む音、夜中に少ないお湯で入る風呂の水音、手の平にすくった湯に浮かぶ丸い月、ジョージが開けた二階の床の穴。
タバコを吸いたい気持ちを我慢するニコちゃん先輩が作る針金人形、王子の部屋から聞こえてくる不気味なルームランナーの音、時々起こる小規模な漫画の雪崩。
そんな世界に自分も入り込んで、目の前に見ているような、そんな幸福感を味わえる。
で、何故前にも書いた小説の感想を再び載せているかというと、「風が強く吹いている」映画版がGYAOで無料で見られるからです。
この作品、映画もなかなかよく出来ていて、冒頭の走るシーンと、アオタケの再現度は特筆に値するんだけれども、ともかく前にも書いたように、林遣都の走る姿がただただ美しい。
私は走りに関して素人だけれど、背筋を伸ばし、体幹を固定した遣都のフォームがとても綺麗なことは分かる。
左右まったく同じに繰り出されるストライド。1人だけフォームもスピードも飛びぬけていて、そういう役柄なんだけど、役を超えた美しさを感じる。
この、「走る林遣都」を見るためだけでも、鑑賞する価値があると思う。
アオタケのような学生寮って、どの世代までが「あー分かるわー」て共感できるんですかね。
私の学生時代、私は大学の寮に入っていたから、あそこまで木造でボロボロってこともなかったけど、サークルの先輩は似たような感じの学生寮に住んでいた。「〇〇荘」という名前も同じ感じ。
トイレも台所も共同で、大家さんが年寄りで、異性のお泊りは基本禁止なんだけど、みんなで飲んだ後にこっそり泊めてもらったりして。
寮の描写が、甘酸っぱい青春を思い出させたりもして、そんな楽しみ方も出来ます。
今多くのアスリートがコロナに直面して、様々な思いを抱えていることだろう。
それに関しては、私は言及する資格がないと思うのでやめておく。
ともあれ、未見の方は一度ご覧いただく価値があるということで、再度のオススメでした。
2/1まで見られるそうですよ奥様。
興味と時間のある方は是非。