大豆田とわ子と三人の元夫
今季はなかなか面白いドラマが多いような気がする。
中でも、必ず録画して見ているのが「大豆田とわ子と三人の元夫」だ。
坂元裕二脚本作品とあって、色々と分析された記事もよく目にする。考察とか難しいことはそちらにお任せするとして、私のは、一般人の、無責任な単なる感想だ。
ネタバレは大いにしておりますのでご注意ください。
「大豆田とわ子」という名前がもうズルいですよね。響きが面白い。だから毎回毎回、必ず主人公を演じる松たか子がこちらに向かって言うのだ。
「大豆田とわ子と三人の元夫、また来週」
と。
別れた三人の元夫たちととわ子の関係、友達ではなく、「元夫」という肩書から連想されるほどギスギスもしていなくて、どこかユルく、コミカルな会話劇で、肩の凝らないラブコメなのかな、と思いながら見ていた。
「カルテット」もそうだったな。みんな一見普通のようでいて、どこか常識から外れた奇妙な部分があり、ちょっとずつダメで、でもそれを否定しないいい意味での「緩さ」があって。
と思いきや、登場人物たちはそれぞれ人生上の事情を抱えていて、その「事情」が決して軽いものではないことが紡がれていく。
今作もそうですね。めちゃくちゃ見たことある顔だと思ったらスカパラの谷中さんじゃん!と嬉しくなった矢先、これまでの「まめ夫」の世界になかった不穏な空気が漂い始め、とわ子が率いるしろくまハウジングにも、とわ子自身にも、これまでとまったく異なる暗い影がしのびよる。
かごめちゃんの死はショックだった。
天衣無縫で、常識に囚われないかごめちゃん。言い替えれば洗練されてなくて非常識、ということになる。
突拍子もなくて、周囲からは「奇行」としか見えなくても、その奥にはかごめなりの正義と正当な理由がある。
(ヘンな人だなあ……)
と思いながらも、とても好きなキャラになっていただけに、この途中退場は衝撃的だった。
ただ、去年からこちら、身辺に色々な出来事が起こった身からすると、この描き方はめっちゃリアリティがあると感じられた。
そう、突然なんですよ。何もかも。ドラマのように「来週火曜日から!」と予告してはくれない。何の前兆もない。
人はただ、「起こってしまった出来事」に驚き、立ちすくみ、途方に暮れることが出来るだけだ。
そして、個人にとってどんなにインパクトのある出来事であったとしても、それ意外の日常の雑事というものにも容赦なく追われることになる。時間はどんなときも手をゆるめることなく流れていく。
早朝、母からの一本の電話で祖母の死を告げられ、「分かった」と答えていつも通りに身支度を整えて出社し、上司に報告してその日は普通に働いたことを思い出した。
動揺は数日経って唐突に襲ってきて、そのときになって、コロナ禍のせいで帰郷してお別れも言えない状況に猛烈に腹が立って、強い怒りと悲しみにぐちゃぐちゃになったことも。
しかし、その動揺を周りの誰にも言わず、次の日も何事もなかったように職場に行って仕事したことも。
こないだもこんな記事を書いたけれども、
「まめ夫」を見ていると、
(うんうん、人生てこんな感じなんよな)
と思わされる。
元夫たちはとわ子にまだ何がしかの感情を抱いてはいるけれど、恋愛が進む気配はないし、何かの教訓でもない。特に意図を持って演出された「ドラマの文法」を感じない。いや、めちゃくちゃ意図を持って演出されていることは知っているけれども。
とわ子の人生に起こる出来事を、淡々と見ている感じ。
等身大…というのとはちょっと違うんだけど、とわ子を始め登場人物の誰もが、自分と近く感じられて、共感を持って見てしまう。
かごめちゃんもだけど、三人の元夫たちが面白いですよね。一癖も二癖もあって。
特に慎森が可愛い。岡田将生のキャラ造形が素晴らしいと思う。「挨拶っているかな」「お土産っている?」と難癖をつけ始めるときの、憎たらしい顔、オタクくさい口調、走るときやバスケするときのどんくさい身体の動かし方。
目の前にあるものをあげつらって屁理屈をとうとうと述べていると、
(クソめんどくせーな…)
てげんなりするんだけど、そんなシンシンが家で一人
「大丈夫…大丈夫…」
と自分を励ましてるとこ見ると(……可愛い…)てなるよね。笑
そこに伊藤沙莉のドライなナレーションが
「自分を励ますにも限度ってものがある」
等とかぶせるから、ふふって笑っちゃう。
この「まめ夫」、登場人物たちを自分自身と近い存在に感じられはするんだけど、エンディングのめっちゃお洒落な感じが
「おお~、ドラマだー」
と感じさせてくれるのがいい。
それで言うと、とわ子が急にこっちを向いて
「大豆田とわ子と三人の元夫、また来週!」
と言うのも、(この物語はフィクションです)と明確に告げられているようで、私にとってはホッとするポイントだ。
物語を楽しむためのリアリティは必要だ。必要だけど、あまりにも自分のリアルと近すぎると、それはそれでしんどい。
ドラマはやはり、「フィクションだ」とハッキリ分かる方がいい。フィクション性のお陰で、(これは絵空事だから)と肩の力を抜いて楽しめる。
事あるごとに入るナレーションも、小説を読んでいるような味わいで心地よい。
今は現実の方がまるで嘘みたいに大変だからさ。みんなコロナで疲れてる。
そんな日常をいっとき忘れさせてくれるエンタメとして、「まめ夫」は最適だと思う。
なんか色んな考察記事を読むと、脚本の坂元さんが色々と実験的な試みをしているそうな。
専門的なことはよく分からないが、こないだまで三人の元夫たちの周りにいた三人の女性たちは綺麗に退場して、まったく違う場面がまったく違うトーンで始まったところ、
(舞台みたいだな)
と感じた。
これからもドラマが動いていきそうだ。
楽しんで視聴したいと思います。